社会

今、児童書が売れている!「若者の読書離れ」というウソ

あなたは読書習慣がありますか?

その習慣はいつから身に付いたものでしょうか。

今、子どもたちに読書習慣を身に着けさそうと奮闘した結果、子どもの読書率がぐんと上がっているそうです。

そして、本が売れない時代に、児童書は右肩上がりのジャンルだって知ってました?

1990年代末、最悪だった子どもの読書

子どもたちの読書事情。

最悪だったのが1990年代末だったと言います。

テレビゲームがすっかり普及した時代。

また、マンガ雑誌全盛期でもあり、子どもたちは児童書を読まなくなっていました。

「朝読」の普及

それはいかん! ということで、学校で「朝読」(あさどく)がスタートします。

授業が始まる前に、10分程度、読書の時間を設けたのです。

朝読で読む本は自由。

各々好きな本を選んで朝読します。

その甲斐あってか、子どもたちの読書量はどんどん増えてゆきます。

少子化なのに売り上げを伸ばす児童書

朝読を実施する学校の数は既に頭打ちになっています。

なのに、児童書の売れ行きは右肩上がり。

朝読は有効な一手だけれども、それ以上に児童書は売れているのです。

それは、単にたまたま偶然売れているのではありません。

当然ですが、児童書を作っている側も、きちんとマーケティングをし、売れるべくして売れる本を作っているのです。

子どもは大人の嫌いな本が大好きなのだ

「子どもは本を読まない」「若者の読書離れ」

そう言われてしまうのは、ちょっとしたカラクリがあるのです。

それは……

若い人、子どもたちは、「大人が読んでほしいと思う本」を読まないからです。

「大人が思う良い本」があります。

でも、そんなの、子どもたちは大嫌い。

子どもたちは、いつの時代も、大人たちが顔をしかめるような本が大好きなのです。

思えば、子どもの読書が最低だった1990年代末はマンガ雑誌全盛期。

みんなコロコロコミックや週刊少年ジャンプを読んでいたのです。

それだって「読書」です。

だけど、親や先生たちが好む読書ではありません。

だから「最近の子どもは本を読まない」と言われ続けているのです。

今の子どもたちだって、「かいけつゾロリ」や、「おしりたんてい」や「サバイバル」や「銭天堂」が大好き。

ゲーム発の「青鬼」や「マイクラ」のノベライズ版なんかも人気。

大人たちが顔をしかめる横で、ニヤニヤ楽しく本を読むのです。

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子どもの読書を知るならこの本!

「若者の読書離れ」というウソ

  • 飯田一史
  • 平凡社
  • 2023/6/15

目次情報

  • はじめに
  • 第一章 10代の読書に関する調査
  • 第二章 読まれる本の「三大ニーズ」と「四つの型」
  • 第三章 カテゴリー、ジャンル別に見た中高生が読む本
  • 第四章 10代の読書はこれからどうなるのか
  • あとがき

いま、子どもの本が売れる理由

  • 飯田一史
  • 筑摩書房
  • 2020/7/15

目次情報

  • はじめに
  • 第一章 子どもの読書環境はいかに形成されてきたか
  • 第二章 あの雑誌はなぜ売れているのか
  • 第三章 ヒットの背景
  • おわりに

『LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』

FacebookのCOOでも、「女性である」ことにぶち当たるの!?

男の子は男の子の、女の子は女の子の

こんにちは、あさよるです。

あさよるネットで以前、『会社のルール』という本を紹介しました。

女性の社会進出にあたり、男性のルールを知り、それを利用してゆこうという指南書です。

小さい頃、男の子は男の子の遊びを、女の子は女の子の遊びを通し、社会の勉強をしました。子どもの遊びとは、大人の社会を反映していて、大人の真似事をすることで、社会を学びます。

あさよるは、この『会社のルール』を読んで、これまでにない視点を知りました。

女性が社会で働くことについて、もっと知りたいと思いました。

あれ?性差と社会的立場の差がごちゃごちゃに…

女性の社会進出。どんどん進んでいますが、あちこちで問題は転がっているようです。

幼いころ伝統的な「女の子らしく」なるよう育てられたのに、成人する頃にはすっかり社会が変わり、男女同じように就活に挑む。だけど、結婚を機に就業時間を短くしたり、出産と同時に専業主婦にジョブチェンジする女性もいる。

そして、それが良いモデルとして扱われている場面って、意外と多いような気もするのです。

あれ?そういえばなんで、結婚や出産に伴って仕事をセーブするのは女性なんだろう?男性だって、働き方に幅があっていいはずだし、女性の方が所得が多かったり、多忙な仕事もあるだろう。

一方で、出産や、出産直後の授乳など、女性にしかできないこともある。

社会の中で、性差ではなく「人」として振る舞うということはあたり前のことのはずなのに、なんで男女で違うんだろう?一方で、身体的特徴として存在する男性と女性の差。

社会の中の「人」として、生物としての「ヒト」として生きるために、「女性」というどうしていいか分からない壁が立ちはだかっています。

女性が気づかない女性のモンダイ

本書『LEAN IN』は、女性が直面している問題……いいえ、正確に言うと、女性が直面していることにに気付かない問題を取り上げています。

著者のシェリル・サンドバーグさんは、マッキンゼーや財務省補佐官、その後Google社を歴任し、現在はfacebookのCOOを務めます。

『LEAN IN』を読んで驚くべきは、アメリカで、シェリル・サンドバーグさんほど立場のある有能な人物でさえ「女性」であることに打ちのめされている!

彼女はハイスクールでももちろん成績はトップ。ですが、女性が男性より優秀であると、パーティーに誘ってもらえない。要は「モテない」と周りから心配され、サンドバーグさんも悩みます。

また、女性は男性よりも自信が持てないと統計結果に出ています。男性は自分の実力以上の仕事にトライすること厭いません。実力を過信することを恐れず、他者から高い評価を望みます。一方、女性は自信がないので、確実に実績を積み上げてゆかねばなりません。さらに、自分から売り込みをせず、ただ上司が自分を抜擢すまで待ち続けます。だけど、待っているとどんどん、自分から手を上げる男性にチャンスを奪われてゆく。

男性は夢見がち、女性は現実的なんて言いますが、こういうことを言ってるのかな?と思いました。

強い女性は、お好きでない?

周囲からの視線も、性差によって変わります。

自らチャンスをもぎ取り、人の上に立ちリーダーシップを発揮する男性は、頼もしい男性だと感じます。

しかし、これが女性なら、勝ち気で強欲で、気の強い女性だとみなされます。

結婚したら、出産したら、「どうやって両立する気?」

周囲からの揶揄は、結婚・出産とプライベートな事柄にまで飛んできます。

男性が結婚し子供を持っても誰も何も言わないのに、女性が結婚し子供を持つと「仕事と家庭の両立はどうするの?」「いつまで仕事を続けるの?」と質問が降り注ぎます。彼らに悪意はなく、純粋に心配や心遣いをしているだろうことが、問題をますますやっかいにさせます。

サンドバーグさんも同様に、結婚や子育てに関して、たくさんの質問を受け続けたそうです。

肉体的な違いもある

また、肉体的に「女性であること」の問題も起こります。

サンドバーグさんは妊娠中、悪阻がひどく大変な思いをなさったそうです。出産後は3か月間の産休を取りましたが、出産後次の日にはノートパソコンを開き仕事をしていたそうです。

しかし、産休を終え、職場へ向かおうとガレージを出るときには、子供と離れ離れになるのが寂しく感じもしたそう。その後、第二子も誕生し、二人の子育ては事前の想像を超えて大変なものだったそうで、思ってもみないトラブルも勃発します。

ただ、サンドバーグさんの夫デイブ・ゴールドバーグさんは子育てに積極的に参加し、サンドバーグさんを支えました。

医学や技術革新が、どう変える?

出産や子育ての問題は、医学や技術の進歩によって変わってゆく要素が大きいのではないかと気づきました。

例えば、「産休・育休 or 職場復帰」の二択ではなく、もっと他の選択肢があってもいいんじゃないか、例えば自宅で仕事をするとか。

年々進化してゆく紙オムツとか、すごい便利なアイテムも、従来の「お母さん」の仕事を変化させているでしょう。

かつてない社会の形?

性差による社会的差があるのは当然だという人もいます。

生物的に、男性と女性は違うのだと考える人もいるでしょう。

“女性”リーダーがリーダーになる日まで

世界を代表するリーダーであるシェリル・サンドバーグさんでさえ、自らの思い込みや、「女性だから」という理由で悩んでいました。

シェリル・サンドバーグさんは、決して「フェミニスト」になりたくてなった人ではなく、優秀なのに、優秀な男性と同じように振る舞えず、キャリアを詰めない女性たちを見てきました。

サンドバーグさん自身も、女性特有の自信のなさに苛まれていたと告白しています。

女性のリーダーになったことで、女性へ向けてのメッセージを発するべき立場になったのです。

これからの未来の女性のあるべき姿は、サンドバーグさんはじめ、女性のリーダーが牽引し、「発見」してゆくものなのかもしれません。

少なくとも、過去に存在した価値観とは違う、新たな社会の形を探しているのではないでしょうか。

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『あの会社はこうして潰れた』|無倒産の時代だから知っておきたい

こんにちは。たまには刺激的な本を読みたくなる あさよるです。『あの会社はこうして潰れた』……ショッキングなタイトルです。本書の冒頭では、近年は倒産する会社が減っていること、それ故に「今後再び倒産ラッシュが起こった時、対処できるのだろうか」と心配が述べられていたのが、余計にショッキングでした。

ネガティブな教訓を知ることに意味があるのだろうか?と思っていましたが、同じことがこれからも起こると思えば、その過程やその後の処理のされ方を知っておくのも悪くないのかもしれません。

こうして会社は潰れてゆく

本書『あの会社はこうして潰れた』では、主に中小企業が倒産してゆく様子がコンパクトにまとめめて紹介されています。みんなが名前を知っている会社もありますし、順風満帆のように見える会社が実は……という企業もあります。

近年ではリーマンショック、アベノミクスや東日本大震災など時代の変化の中で取り残され経営が破たんしてゆく様子や、不正が発覚し信用を失った会社。規模が大きくなったがために潰れてしまう会社もあります。

37の企業は、それぞれが経緯は異なりながらも、最後はありがちなパターンで破綻してゆく様子がわかります。

明日は我が身

本書『あの会社はこすいて潰れた』は〈明日は我が身〉であるというのが、リアルで恐ろしい所でもあります。経営者にとっては、「気をつけて!」「ありがちよ!」って警告になるでしょうし、企業に勤めている会社員にとっては「それヤバくない?」「そろそろじゃない!?」と、やっぱり警告になりうるのではないでしょうか。

どうやら、会社が潰れてゆくパターンがあるようです。そのパターンにハ陥ってないか?ってことですね。

そもそも本書は、著者は「無倒産時代」が長く続き「地銀の店長でさえ倒産を知らない場合が増えている」という現実に触れ、倒産がどういうものなのか、陥りやすいポイントや要因がまとめられています。

経営に係る人、それ以外の人も、誰もに関係のある話です。一つ一つが短いコラムっぽくもあり、読みやすく、ちょっとすきまの時間にどうぞ。

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『ヒルビリー・エレジー』|チャンスの掴み方を忘れてしまった人々

こんにちは。おすすめ本はなるべく読むあさよるです。本書『ヒルビリー・エレジー』もトランプ大統領の話題と一緒にゲット! アメリカでは今なにが起こっているのか?どんな人がトランプ氏を支持したの? と、考えの手助けに。著者自身が、ケンタッキー州の廃れた元工業地帯で生まれ育ち、秩序崩壊している環境での経験を詳しく綴っています。「格差」とは、どういうことなのか考えるにも、ぜひ。

取り残された白人の労働者階級

本書『ヒルビリー・エレジー』の〈ヒルビリー〉とは、「田舎者」を馬鹿にしたようなニュアンスの言葉だそうです。エレジーは「哀歌」。「田舎者の哀歌」。現在アメリカの田舎に取り残された白人たちは、かつてない格差と貧困に陥っており、著者J.D.ヴァンスさんもヒルビリーの白人家庭に生まれました。

本書が注目されているのは、そう、2016年にドナルド・トランプ大統領の出現によってです。Amazonの商品説明ではこのような紹介がなされていました。

◎アメリカ人が、もうひとつのアメリカを知るためにこぞって読んでいる一冊
◎トランプ支持者、分断されたアメリカの現状を理解するのに、最適の書。
◎タイム誌「トランプの勝利を理解するための6冊」の1冊に選定。

ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち | J.D.ヴァンス, 関根 光宏, 山田 文 |本 | 通販 | Amazon

アメリカでも、アメリカ国内で何が起こっているのか知りたい人がいるってこと?

トランプ大統領就任時、日本でもメディアで取りざたされましたが、アメリカ国内の格差が広がり、トランプ大統領は田舎の労働者階級に支持されたと見聞きされました。かつて工業地帯として栄えた田舎町。今は廃れて、貧しい人々が暮らします。ここで取り上げられているのは「アメリカの反映から取り残された白人たち」。ヒルビリーの白人たちは、富裕層の白人や、黒人、黄色人種たちよりも、未来に希望を描けない状況に陥っています。

アメリカンドリームがなくなったアメリカ

本書では「アメリカンドリーム」はアメリカよりも、現在はヨーロッパにあると語られています。

ヒルビリーで生まれた著者・J.D.ヴァンスさんは、父親違いの兄弟がたくさんおり、母親は職に就いても長く続かず、彼氏に依存しトラブルばかり繰り返します。ことあるごとに母親から虐待を受け、命からがら祖父母に頼って生きています。頼もしいお祖母さんではありますが、彼女も揉め事を“力”によって解決し、法秩序から逸脱しています。親子や恋人に依存し、薬物に依存し、お金は目先のものに使い切り、困ったことが起ると自分以外のモノのせいだと考え、悪びれず不正を働きます。労働時間は短いにも関わらず「自分たちは働き者だ」と信じています。これは著者の特別な経験ではなく、ヒルビリーの平均的な「普通」の家族の形。

こうやって要素だけ抜き出してみると、秩序が崩壊しているのがわかります。ヒルビリーの閉ざされた世界に生まれ育つと、自分の知っている世界が全てだと思い、ヒルビリーの価値観のみが行動規範になります。ヒルビリーの世界では、勉強をし良い成績を修めることよりも、男らしく喧嘩で勝てるほうがずっと価値があります。

ヒルビリーにもチャンスは平等にあるはずなのに、「チャンスに手を伸ばす」という観念が抜け落ちているようです。アメリカンドリームも今でも用意されているのかもしれませんが、そもそも「望まない」人にチャンスはありません。アメリカは「ドリーム」を失ったのでしょうか。

貧困の中にいると、貧困の思考しかできない

貧困から抜け出したいなら、勉強をして大学へ進む道があります。しかし、子どもたちを大学へ進学させることが何を意味するのかイメージできない。実際には、大学に通う方が学費が安上がりなのに、地元のカレッジに通う方がいいと思い込んでしまう。子どもたちに初めからチャンスがありません。

家族が不正を働いても、それをみんなで隠蔽することが正解であり思いやりであると考えてしまう。そもそもの問題を取り除こうという発想がなく、恋人や薬物に依存してしまっても、周りはその場しのぎの対応をするばかりです。それが「普通」の環境ですから、良い状態が想像できなくなる。

教育の機会が奪われていますから、子どもたちも偏った世界観の中で育ってゆきます。著者も、考えが錯綜し、偏った思想に囚われたり、母からの虐待を容認することが愛情だと感じてしまう。お母さんだって、もっと適切な対応があったのかもしれないけれども、どんどん泥沼化してるし、それがヒルビリーの「普通」。

貧しいから欲しいものが買えなくて、給料日にドッと買い物をしてしまう。でも、本当はお金を使うのを控えて、貯蓄に回せば新しい生活が手に入るかもしれないのに。大きな画面のテレビや、iPadを買うよりも、もっと必要なものがあるんじゃないの? そんな発想がなくなってしまい、「貧しいのに贅沢な買い物ばかりしてしまう」という悪循環から抜け出せないのです。

〈なう〉を理解する一助に

「アメリカンドリームはなくなった」と紹介しましたが、それでもまだドリームは少なからずアメリカにあります。著者ご自身も、海兵隊に入隊したことから境遇が変化し、オハイオ州立大学を優秀な成績で卒業し、名門イェール大学に進み、現在はシリコンバレーで起業しエリートです。「手を伸ばせばチャンスが巡ってくる」環境が消滅したわけではないのです。

大事なのは「手を伸ばす」「求める」ということ。ヒルビリーの白人たちは「チャンスに手を伸ばすことを忘れてしまった」のかもしれません。そして、なんとなくスカッとする毒舌を吐いてくれるドナルド・トランプ氏は支持されたのです。「オバマが悪い」「イスラム教徒が悪い!」「メキシコに壁を作らせろ!」と〈自分以外の誰かが悪い〉と言ってくれると気持ちいいですからね。

んで、これって日本でも同じことが起こりつつあるのかもなぁとも感じました。格差が広がり、チャンスが巡ってこない人たちがいます。いや、たぶん、日本だって優秀な人には機会が与えられていますが「手を伸ばすことを忘れている」に陥ってないかなぁ?と。これは自分の思考や行動を省みて。

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『「やりがいのある仕事」という幻想』|お金のために働くでOK??

こんにちは。夏バテがひどいあさよるです。去年も夏はぐったりしてたんですが、こんなだったっけ……いつも徒歩で移動する距離を電車に乗ってしまうという(-_-;)

と、この暑い中、就活頑張ってらっしゃる学生さんたち、お疲れ様です。今回は、就活生の方も目を通してもらえると良さげな本をチョイスしました。といっても、そんじょそこらのビジネス書や、働き方を説く本とは違います。なんたってタイトルが『「やりがいのある仕事」という幻想』w

先に言っておきます、あたり前で露骨に本音の話をしているのですが、こんなこと教えてくれる本もなかなかなかろうかと思います。決して「優しい」感じではありませんが元大学助教の森博嗣さんの「親切」で「真摯」な内容が良いと思いました。

誰も言わないホントの話

本書『「やりがいのある仕事」という幻想』というタイトルからしてもう、アケスケで内容を物語っていて秀逸です。すなわち、「やりがいのある仕事」というのは幻想であるという話なのです。

なにより、本書が書かれた経緯からして、アケスケです。編集者から若者の就活や就活自殺をうけ“人生の目標”について森博嗣先生に書いてほしいと依頼を受けた。それに応えた。しかし、著者自身が大学の教官から作家になり、会社員の経験はない。多くの人とは違った経歴の持ち主である。それにしても、そもそも人それぞれ違っているし、職業もいろいろだ。そう思案しつつも、助教授として学生たちと接していたことと、やはり多くの人が幸せになるように願っている。そんな経緯で、本書は執筆された。

もう、本書はこの「まえがき」だけでも全てを言っている。人それぞれ違っているし、人は働くために生きているわけでもない。そして、職業に貴賤もない。「やりがいのある仕事」とは幻想なのである。

〈やりがい〉〈好き〉〈楽しい〉と〈お金を稼ぐ〉こと

本書を読んで改めて考えると「やりがいのある仕事」というのは変な話なんですね。もちろん、今の仕事にやりがいがある人もいるでしょう。「やりがいがある」ことが悪いと言っているわけではありません。不思議なのは「仕事にやりがいを感じなければならない」という強迫観念めいた考え方なのでしょう。もしかしたら今、「自分は仕事にやりがいを感じている」と思っている人も「そう思わなければならない」と思い込んでいるのかもしれません。

〈やりがい〉という言葉も、気になります。例えば「好きな仕事がしたい」とか「楽しい仕事がしたい」なんて言うと「仕事はそんな甘い物じゃない!」と言われてしまいそうですが、「やりがいのある仕事をしたい」或いは「仕事にやりがいを見出したい」と言うと、なんか収まりがいい。しかし、別に好きなことでお金を稼いでもいいし、仕事は楽しい方がいい。もっと言えば、「仕事しなくていいならしたくない」「お金があるなら働かない」って、なんか「言っちゃいけないこと」みたいな雰囲気。不思議ですね。

森博嗣さんは、「やりがいのある仕事」を否定するわけじゃないけど、仕事をお金を稼ぐ手段としてもいいじゃないとおっしゃいます。そして、その仕事に上も下もない。職業に貴賤はない。みんな口ではそう言います。だけどなんとなく「カッコいい職業」「みんなの憧れ」があるのって、これも不思議な話。

「羨ましがられたい」「スゴイって言われたい」「認められたい」

職業に貴賤はないと言いながら、なんとなく良い職業とそうでない職業がある気がする。多くの方は、内心「カッコいい職業」「憧れの職業」「羨ましい職業」なんてあるんじゃないでしょうか。そして「それに比べ自分の仕事は」あるいは「あの人の仕事は」と何かと比べている気がしませんでしょうか。

結局のところ、他人が羨ましがるような仕事がしたいとか、みんなが憧れる職業に就きたいとかって願望がどこかにある。そして、上手いこと他者が羨ましがる仕事に就けなくても、「自分はこの仕事にやりがいがある」と言いたい。本当は、やりがいなんてなくても構わないのに、「やりがいがあるんだ」「好きなんだ」って言い切りたい。だって、「やりがいのある仕事」に就いている人もまた、羨ましい対象だから。

他人の評価を踏襲して生きることに重きを置くと、「結婚しないといけない」「子どもを持たなきゃいけない」という考えにも繋がっていく。要するに「幸せな結婚をする人は羨ましい」「子どもに囲まれて生きるのは憧れられる」。もちろん、自分の意志でそれを望む人を反対しているわけではない。ただ、なんとなく「みんながそういうから」と、トレンドに乗り遅れないよう取り組んでいる人もいるのでしょう。

自分の〈やること〉をやる

長々と書きましたが、『「やりがいのある仕事」という幻想』で述べられている考えは、みんなの憧れや羨望に乗っかる必要はないこと。別に「お金が欲しくて働いている」でもいいじゃん。それよりも、自分の価値観ややるべきことに取り組むべきだ。すなわち、働いてお金を儲けて、自分のすべきことをやる。で、好きなことややりたいことって、既にやってるでしょ?

自分の考えるというのは、仕事だけでなく、結婚や家族も同じ。もちろん、結婚制度を否定しているわけじゃない。だけど、なんとなく焦って「やらなきゃ」「決めなきゃ」と思わなくてもいいじゃん。子どもも同じですね。もし、「子どもができると羨ましがられる」「憧れられるママになりたい」と、周りの人から「認められる」ための活動は、やめてもいいんじゃない?という提案ですね。

他人から「認められるため」の就活ではなく、自分が「生きるため」の就活をしよう。本書『「やりがいのある仕事」という幻想』では、包み隠さない本音を暴くのですが、森先生は親切だなぁとも思いました。誰も言わない誰も教えてくれないことを、わざわざ文字にして提示してくれるんですから。

就活で絶好調な方はそのままがんばるとして、ちょっと「どうなるのかな」「このままでいいのかな」と感じている学生さんは、ちょろっと立ち読みでもしてみてください。「なんじゃこりゃ」と本を元に戻してもいいし、少しだけ、みんな分かってるけど口にしない本音を知りたくなったら、どうぞ。

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