【レビュー】土井善晴、中島岳志『料理と利他』|ふつうのレシピについて

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料理研究家の土井善晴さんの『一汁一菜でよいという提案』は、読んでからしばらく時間が経っていますが、今でも印象に残っている本です。特別な日の特別な料理ではなく、普通の日の普通の料理について書かれていて、それこそが大事なんだということを思い出させてくれます。

「○○映え」なんていって、見た目がよく特別感のあるものを指向する傾向とは真反対ですよね。映えなくてもいい、普通のものを大事にしましょうってことなんだから。

現在のコロナ禍でも、ステイホームの日々も、普通の日常をどう豊かにすごすかってことにかかっているんじゃないかと思います。

土井善晴さんの新しい本を見つけたので、期待大で手に取りました。

民藝……ふつうの美しさを

土井善晴さんは、フランスにも留学し、キレキレの料理人になろうと思っていたところ、お父様である土井勝さんから家庭料理の料理学校を継ぐよう言われます。最初はそれが嫌だったそうですが、「民藝」という考え方に出会うことで、考えを改めたそうです。

民藝とは、美術品として鑑賞されるためではなく、日常の中で使用されるために作られた道具のこと(だそうです)。特別な観賞用ではなく、普段使いの普通の道具たち。しかし名もない職人たちによる手作業で作られたそれらには「用の美」が宿っています。

特別な日の特別で華やかなものももちろん素敵ですが、毎日の普段使いの、普通のものにだって、同じように美が宿りえるんですね。

ええ加減、ちょうどいい頃合い。そういうの

毎日の、いつもの料理にだって、そんな美しさは宿りえるんです。それは、素材のよさを活かすこと。

たとえばポテトサラダ一つ作るのでも、均一に混ぜすぎてしまっては水が出て美味しくなくなるそうです。そうじゃなく、ざっとあえて、まだ混ぜムラがあっても、「これでいい」って瞬間を見逃さないこと。なんでもやりすぎはダメなんですね。

野菜も、手でちぎる方がおいしいこともあります。何から何まで人の意思を通わすのではなく、自然の力に委ねてしまうことも大切なんですって。

そもそも料理って、食材も季節によっても産地によっても違うし、日々気候も変わってゆくし、なにもかもが均一ではありません。だから、レシピ通りに作れない、というのが本当のところなのかもしれません。微妙に全てが違っているから、その場その場で味を見て、頃合いを見て、加減してゆくスキルが必要なのでしょう。

わたしは料理は苦手なんですが、まさにそれ。レシピ通りに作っても上手くいかないから、なんですよね。

家庭料理にも哲学がある

考えてみると、自分がコントロールできることって極めて少ないんですよね。食べるもの一つとってみても、「ちょうどええ頃合い」を、食材をみながら、味を見ながら、探っていくしかない。しゃくし定規にはいかない。

そういうのって、長い間わたしたちは忘れていた考え方じゃないでしょうか。そして今、感染症の脅威の中、それを思い知らされている最中。この『料理と利他』はとても今の空気感にあった本でした。

この本の内容も、著者の土井善晴さんと政治学者の中島岳志さんがリモートで対談されています。それも今の世情ですね。今回この記事では触れませんでしたが、中島さんのお話も面白いのです。海外での生活の経験から、日本の中での話だけではなく、外国の文化や考え方にも話は及びます。

薄くて風通しが良いような、読みやすい本です。だけど、今の状況を考え、これからのことを考える本です。

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料理と利他

  • 土井善晴、中島岳志
  • MSLive! BOOKS
  • 2020/12/15

目次情報

はじめに

第1回 料理から考えるコロナ時代の生き方

土井さんを通すと「おもしろくなる」現象
ステイホームでわかったこと
「ゆっくり」もええもの
環境問題も「まな板」から
「つくる」は「自然・地球」と「食べる」のあいだにある
「家庭料理は民藝だ!」
作為が残っていたら、気持ち悪くて食べられない
磁器も土器も使うところに、日本人らしさがある
誰が作ってもおいしいという世界
いい人間になろうというはからい
人間♡物♡自然♡人間♡人間
土井善晴さんは巨大な器
お芋が気持ちよさそうにしているなぁ
レシピに依存すると感性が休んでしまう
素材それぞれがご機嫌なこと
「きれい」は日本人の倫理観そのもの
「これを作った人に会いたい!」
自分は全部しっている
いいことも悪いことも、仕方がないと認める

質疑応答

第2回 自然に沿う料理

今ここにあるひとつの料理にもちゃんとわけがある
人の暮らしのなかから美しいものができてくる
人間の条件の土台になっているのは、地球と労働
和食の「和える」と「混ぜる」は違う
器に盛ったときにいちばんおいしい状況をつくる
食材は頭じゃないところを使ってどんどん選ぶ
いつも変えられるのが本物です
自分がおいしくするということはできない
パプリカを手でちぎる
縄文の人はマイカップを持っていた⁉
カンカラカンカンカンと煮詰める
日常の荷転がしと非日常の含め煮
澄んだらうまいこといっている証明
自然と人工のバランスがちょうどいいところがええ加減
自然と心がつながって料理をすると、めちゃめちゃ楽ちん
強火にすると水だって傷つく
自然塩は味の幅が広い

質疑応答

おわりに

土井 善晴(どい・よしはる)

料理研究家。
1957年、大阪生まれ。
フランス料理や日本料理を学んだ後、土井勝料理学校講師を経て、1992年に「おいしいもの研究所」を設立。
十文字学園女子大学招聘教授、東京大学先端科学研究センター客員研究員。
NHK「きょうの料理」、テレビ朝日「おかずのクッキング」の講師を各30年務めている。
著書に『一汁一菜でよいという提案』『おいしいもののまわり』『土井善晴の素材のレシピ』などがある。

中島 岳志(なかじま・たけし)

1975年大阪生まれ。
大阪外国語大学卒業。京都大学大学院博士課程修了。
北海道大学大学院准教授を経て、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。
専攻は南アジア地域研究、近代日本政治思想・
2005年、『中村屋のボース』で大佛次郞論壇賞、アジア・太平洋賞大賞受賞。
著書に『パール判事』『朝日平吾の鬱屈』『保守のヒント』『秋葉原事件』『「リベラル保守」宣言』『血盟団事件』『岩波茂雄』『アジア主義』『下中彌三郎』『保守と立憲』『親鸞と日本主義』『保守と大東亜戦争』、共著に『現代の超克』などがある。

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