「人それぞれ」は無関心?『反論が苦手な人の議論トレーニング』

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吉岡友治『反論が苦手な人の議論トレーニング』書影

「人それぞれ」という言い回しを、極力使わないように気をつけています。私はいつも、会話の最後が「人それぞれだから」と結論される度に、なんだかモヤモヤとしていました。もちろん、「人それぞれ」なのは当たり前です。考えが違って当然だし、思想や信仰は、なんびとたりとも強制することはできません。

しかし、それを逆手に取って、「人それぞれ」と結論づけることで、身の保身に走っているように聞こえることもあります。例えば、自分の言いたい放題していると、反論が飛んできた。あるいは、「言い過ぎじゃない?」とたしなめられた。そんなときは、それに対する自分の考えを展開してしかるべきだと思うのだけれども、そのタイミングで飛び出すのです。「人それぞれだよね」。うーん、それでいいのかなぁ?

「人それぞれ」は、逃避やサボりの言い訳になっていないでしょうか。

ギロンは難しい…?

双方の考えをぶつけあいながら、論を深めてゆくような会話。そんなのを持ちたいものだと切に願います。が、しかし「議論」ってなかなかできないですね。

SNS上で、「ギロンしようぜ!」と他者に持ちかけている人を時折見かけますが、実際に議論になっている様子はほとんど見たことがありません。ネットはまだまだ文字情報過多ですから、SNSは文字による議論のしにくい場所なのかなぁと思いつつ、やはりりモヤモヤとしてしまいます。

語学力よりも論理を主張する力を

『反論が苦手な人の議論トレーニング』のあとがきにて、著者の体験が紹介されています。

旅先で、航空機トラブルで足止めをくらいました。航空会社の対応が悪く、乗客は放置状態。他の日本人グループの英語が堪能なガイドが事情を聞きに行ったが、話が進まず。そこで、著者と、英語を少し話せる邦人のバックパッカーの二人で、たどたどしい英語ながらも航空会社のスタッフと交渉。自分たちの要求や航空会社の対応へ苦言を呈し、晴れて日本人グループ全員の宿泊先が用意され、その代金は航空会社が持つことを取り付けました。

著者は体験を通して、流暢に語学を操れることよりも、論理的な根拠や証拠を挙げながら、交渉する術が大切だと説きます。そもそも英語は、今や世界共通で使われる言語です。ネイティブではない英語話者もたくさんいます。私たちと同じように、相手もカタコトの英語なのです。ですから、細かな発音や言い回しにこだわってもしかたがありません。

「爆買い」はグローバルコミュニケーションのチャンス!

2015年の流行語に「爆買い」が選ばれました。

東京や大阪の街を歩くと、外国からの観光客でいっぱいです。すでに彼らは、日本人にとって大切なお客様になっています。コンビニや飲食店も、外国人の客も増えたでしょう。すでに私たちは、グローバルコミュニケーションのまっただ中にいます。発音の良し悪しや、慣用句の言い回しなど気にしている場合ではありません。英語の堪能さよりも、「伝える」ことや「交渉する」ことに注意して、たとえ下手な英語であっても、論を展開し、交渉する必要があります。

もちろんそれは、日本人同士の日本語を使ったコミュニケーションでも同じです。主張を展開し、論を展開してゆければ、とても有意義な時間になります。自分の考えを伝えたり、交渉を上手くデキることは、スムーズな人間関係にも繋がります。議論することは、ケンカすることではないのです。

日本語は議論に向かない?

よく日本語は議論をするのに向いていないと言われています。本当にそうでしょうか。本書では、その理由をこう説明していました。私たちは、赤ちゃんの頃から、大人の見よう見まねで日本語を覚えてゆきます。あやふやで曖昧な日本語を使っているうちに、いつの間にか言語を操られるようになるのです。一方、英語をはじめとする外国語は、理論的・体系的に学習してゆきます。だから、日本語は曖昧、英語は理論的・体系的だと感じているだけではないだろうか、と。

日本語にも、体系立った文法があるのは周知です。現に、日本語をマスターして日本で生活をする外国人もたくさんいます。日本語もまた、体系的に学習できる語学である証拠です。

「人それぞれ」の落とし穴

「人それぞれ」は、意見の主張が不要になる魔法の言葉です。人それぞれなのだから、理解し合えないんだから、主張なんてする意味がないのです。それは同じように、相手の主張を理解しようとしないし、あなたの話を聞く気もない!という宣言です。「人それぞれ」と他者を慮るような言い回しですが、結局は、他者に無関心なのです。それはあまりも不毛だし、寂しすぎやしませんか。

自分の意見を主張するということは、相手の主張に耳を傾けることです。よく聞いて、矛盾を指摘したり、足りない論を補ったり、論を交わします。もしかしたら、自分一人では辿りつけなかった考えに到達するかもしれません。

もし「自己主張する」「議論する」ことが「ワガママ」や「自分勝手」など、ネイティブなイメージと結びついているのなら、それは間違いです。きちんと論理的に議論を成すことは、実りのあることだからだです。

そのために私たちは、日頃から議論ができる知識や発想を身につけておかねばなりません。それは、他者と考えを通わすことでもあります。本書は、その助けになるでしょう。

反論が苦手な人の議論トレーニング

  • 著者:吉岡友治
  • 発行所:株式会社 筑摩書房
  • 2014年9月10日

目次情報

  • 序章 「空気」を形にする
  • 第一章 空気は議論のためにある――構造から隙を見抜く
    • 1 議論は主張とツッコミでできている
    • 2 意味のない議論は相手にしない
    • 3 一番注目すべきは「根拠」である
    • 4 例示とデータの使い方には意外と穴が多い
  • 第二章 その議論、間違ってます――ツッコミから反論へ
    • 1 ちゃんと問題になっているか?
    • 2 結論は広げすぎると罠にはまる
    • 3 王道な根拠への反論
    • 4 思い込みで結論は捻じ曲がる
  • 第三章 揉めてからの「議論力」――二項対立を乗り越える
    • 1 その対立は本当か?
    • 2 議論の次元を上げる
    • 3 反対と賛成は紙一重?
    • 4 思考の枠組みを超える
  • おわりに

著者紹介

吉岡 友治(よしおか・ゆうじ)

1954年宮城県仙台市生まれ。東京大学文学部社会学科卒、シカゴ大学人文科学科修士課程修了、比較文学・演劇理論専攻。代々木ゼミナール講師を経て、現在、インターネット講座「VOCABOW 小論術」校長。ロースクール・MBA 志望者などを対象に文章、論理の指導を行うほか、企業でライティング指導を行っている。著書に『東大入試に学ぶロジカルライティング』(ちくま新書)、『だまされない〈議論力〉』(講談社現代新書)、『いい文章には型がある』(PHP新書)、『その言葉だと何も言っていないのと同じです!』(日本実業出版社)、『「眼力」をつける読書術』(東洋経済新報社)など多数。

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