樋口毅宏『さよなら小沢健二』|痛みとつらみとジェラシーが

こんにちは。ああなんかもう、むず痒い気持ちでいっぱいの あさよるです。

原因はそう、この『さよなら小沢健二』を読んだからだ。表紙のすみには「1994→2016 樋口毅宏サブカルコラム全集」とある。

サブカルコラム……サブカルが炸裂する一冊……こんな本読んだら自分語りが止まらないよ?

樋口毅宏よ。いい年してサブカルこじらせて痛い、痛い!胸がヒリヒリするわ!そして、痛い樋口毅宏が羨ましい。

あさよるも、音楽雑誌を読みあさり、ロッキング・オン・ジャパンを熱心に立ち読みする高校生だった(買えよ)。

大学へ行けば、一緒にフェスに行く友達に出会えるんだと思ってた。

でも違った。

違ったのは、あさよるがフェスに行かない大学生になってしまったからだ。

社会人になれば毎週のようにライブへ通うのかと思ってた。今日も遠征明日も遠征で日本中飛び回るのかと思ってた。

そんな大人にならなかった。

単館上映の映画を見に行く大人にならなかった。A5サイズのマンガ単行本を読む大人にならなかった。邦楽ロックを敬愛するリスナーにもならなかったし、バントのライブTシャツを普段着にする大人にもならなかった。

あの頃。

ロッキング・オン・ジャパンを立ち読みしていたあの頃。想像していた、憧れていた大人にはならなかった。

サブカルコラム全集

オザワをめぐる冒険、だったと思う。いまこうして、自分の人生を振り返ってみると。

『さよなら小沢健二』とタイトルにも使われているオザケンこと小沢健二への思いから本書は始まる。

フリッパーズギターの衝撃とロッキング・オン・ジャパン。そして小沢健二。

「ロッキング・オンなんて棄てろ」という原稿をロッキング・オンへ送りつけ、それがロッキング・オン・ジャパン紙面に掲載されたという。その原稿から幕が開ける。

さらに、著者の小説『さらば雑司ヶ谷』では、登場人物たちが小沢健二を語る下りがある。それが収録されている。

ネタで書かれたものではなく、著者がマジで小説にしたことがわかる。

そしてついには、樋口毅宏×小沢健二の架空対談まででっち上げてしまうのだ。

ああ、痛い痛い。全然他人事みたいに思えなくてつらい。

オザケンを扱った内容は、本書の序盤と最後。

間には、サブカルコラムが詰まっている。サブカルコラムをつらつらと読んでいると、サブカルが炸裂している。

たぶん、あさよるが高校生の頃だったら、『さよなら小沢健二』で触れられている文献や出典をすべてメモしてリストアップしたことだろう。

聞いたことのないアーティストの楽曲を探してTSUTAYAへ走ったことだろう。

こんな、樋口氏のような“語り”ができる大人になりたいと思っていた。

どこまでページをめくってもサブカルの海が広がるばかり。

あさよるはてっきり、サブカルの中の小沢健二とさよならをして、メインカルチャーの小沢健二として評価するとかいう内容かと思い読み進めていたからびっくりした。

きちんと、サブカルに始まり、サブカルに終わる。なんやこれ!逆にカッコええやんけ!

ライブ後の岡村ちゃんの楽屋に訪ねたエピソードは、マジ羨ましくてジェラった。そういう青春がない人生だった。

ジェラシーと言えば、終始漂う「トーキョー感」が羨ましくてたまらない。

東京で生まれ、東京で生きる著者にはわかっていないだろう。地方民のもどかしさを。

当たり前のように東京を授与し、東京で生きる著者。どうせ原宿あたり風を切って歩いてるんだろう!

オザケンの、どこを取っても漂う“東京っぽさ”がたまらなくカッコいいと思ってしまう。

大阪の片田舎で生まれ育ったあさよるは、決して都会で生きているわけではないのに、なんとなく田舎トークにも混ぜてもらえず、かと言って決して都会人としても振る舞えず、鬱屈したコンプレックスを抱えていた。

『さよなら小沢健二』を読むと、その、見えないように蓋をしていたコンプレックスがジリジリと自分を灼く。

空気のように東京を消費する樋口氏は、それは、オザケンの世界で生きてるってことじゃないか。

というような、思わず自分語りをせずにはおれない一冊だった。

関連記事

さよなら小沢健二

  • 樋口毅宏
  • 扶桑社
  • 2015/12/13

目次情報

はじめにオザワありき

小沢健二論

ロッキング・オンなんて棄てろ~小沢で目が覚めた~
『さらば雑司ヶ谷』小沢健二パート
「強い気持ち・強い愛」は甦ったか? 特別寄稿 小沢健二コンサートツアー「ひふみよ」によせて
『雑司ヶ谷P.I.P.』小沢健二パート
音楽は文学に嫉妬するか――山崎洋一郎×樋口毅宏ガチンコ対決 ロッキング・オンを愛しすぎた男、編集長に問う
架空対談 樋口毅宏×小沢健二

音楽編

俺はロックの限界について考えた。考えた!~史上最悪の核被爆地セミパラチンスクにロックは必要か?~
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「ありふれた生活」1/おすすめ本5冊/ウィーザー/大阪サマソニ/『1985年のクラッシュ・ギャルズ』/ジェイムス・ブレイク
ガールズ/2011年ベスト/ラナ・デル・レイ/『ドライヴ』/『まどマギ』/『キラ☆キラ』/サイン本コレクション2/モリッシー
ヘビロテするアルバム4枚/「ありふれた生活」2/フジロック/『桐島、部活やめるってよ』/村上春樹/GREAT3/木下恵介

ブックページ

『僕の中の壊れていない部分』
女たちのかいた夢―『「赤い水着、青い水着」クラッシュ・ギャルズが輝いた時代』
誰もが「冬の神話」を持っている
もっとも美しい小説―『いちげんさん』
宣戦布告「小説新潮」八〇〇号
水道橋博士の語る、十六人のフリークス列伝―『芸人春秋』
戌井昭人と私、そして『すっぽん心中』
この3冊 樋口毅宏・選 タモリ
愛情深い父と子の姿―『君たちはなぜ、怒らないのか 父・大島渚と50の言葉』
僕と『ヒミズ』と小谷実
『人間臨終図巻』とわたし
お金を払って読んでくれた人こそ読者です/図書館問題
神のように孤独な男―『やや暴力的に』
暗黒短編小説フェア
樋口毅宏オススメ「文庫まで待てない!」絶対面白い十冊
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架空テレフォン・ショッキング/読書の秋におすすめの3冊/andymori/2013年ベスト/文庫化希望の傑作選
架空対談・樋口毅宏×大瀧詠一/アカデミー賞予想/近藤ようこ/イベントに突撃/井上陽水/井田真木子/夏フェスおやじ
andymori武道館ライブ/エレカシ/角田光代/『二重生活』/トークショー・樋口毅宏×内澤旬子/サニーデイ・サービス
2015年イベント総まとめ/小谷野敦/ディアンジェロ/『サンドラの週末』/ドラえもんのおかげ

『週刊プレイボーイ』映画評

映画評

『乱れる』
私の平成No.1女優
『ファニーゲームU.S.A.』
『リトル・チルドレン』
映画秘宝ベストテン
SURPRISE MESSAGE From 樋口毅宏 to 園子温
園子温とわたし―最新傑作『ヒミズ』によせて
樋口毅宏の俺にも言わせろバカヤロウ!!ビートたけしの贖罪―『アウトレイジ ビヨンド』
観ずに死ねるか!絶望シネマ―『ソナチネ』
かつて「顔」と呼ばれた男―『凶悪』
映画の推薦コメント

その他

そして、いま私が思うこと。3・11特集に寄せて
テレビの中で空気が“壊れた”瞬間
同級生交歓
みんな、プロレスが教えてくれた。
今、再びプロレスブーム。まずは新日本から!

あとがき 2015年冬にオザワを想う
索引

樋口 毅宏(ひぐち・たけひろ)

1971年、東京都豊島区雑司ヶ谷生まれ。学生時代にニューヨークから帰国後(観光旅行)、カミングアウト(のちにただのカッコつけと判明)。エロ本出版社から強制追放を経て、2009年に『さらば雑司ヶ谷』で作家デビュー。ちょっと話題になり調子に乗る。2011年には『民宿雪国』で第24回山本周五郎賞候補・第2回山田風太郎賞候補も無事落選、2012年に『テロルのすべて』で第14回大藪春彦賞候補も選考委員からの猛烈な反対により落選。新刊『ドルフィン・ソングを救え!』のほか、著書に『日本のセックス』『愛される資格』『火花』などベストセラー多数(一部大ウソ)。なかでも新書『タモリ論』は大ヒットに。有名人をタイトルに当て込んだ他力本願ぶりに扶桑社は不快感を表明。本作をリリースと同時に、5年間連載していた「SPA!」も打ち切り決定。

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