中野信子『シャーデンフロイデ』|ざまあみろ!人の不幸が嬉しい気持ち

10 哲学

こんにちは。えらそうばってる人を見ると、いじわるしたくなる あさよるです。自分のことを大きく見せようとしたり、上から目線な応対をする人を見ると、なんかこっちもトゲトゲした気持ちになっちゃう。ただ、相手の挑発に乗るのは、相手の思うつぼだったりする。本当は、スルーするのが大人の対応なんだろう。

他人の失敗や、他人の不幸を期待してしまう、喜んでしまう気持ちのことを「シャーデンフロイデ」と言うそうだ。今回読んだ本では「他人を引きずり下ろす快感」とも書かれている。

ドキッとする言い回しだけれども、多少なりとも誰もが持っている感情じゃないかと思う。

愛が人の不幸を喜ばす

「シャーデンフロイデ」とは、

誰かが失敗したときに、思わず沸き起こってしまう喜びの感情(p.14)

だそうだ。ネットスラングでいうところの「メシウマ状態」。他人の不幸は蜜の味。えこ贔屓されているあの子の化けの皮を剥がしてやりたい。いつも出しゃばる気にくわないアイツがポカをして穴を開けてしまう様子を見て「いい気味だ」とほほ笑む。

それは誰もが持っている感情で、本書『シャーデンフロイデ』では、脳科学的にその現象を分析してゆく。

シャーデンフロイデには、通称「幸せホルモン」「愛情ホルモン」とも呼ばれている、オキシトシンという脳内物質が関係しているらしい。オキシトシンは、人々が愛し合ったり、仲間を大切にしたい気持ちを起こさせるホルモンだ。男性よりも女性の方がオキシトシンが分泌されやすく、授乳中の母親が我が子を大切にするのにも、オキシトシンは重要な役割を果たす。

「愛情」と言えばポジティブな印象だけど、言い方を変えれば「執着」とも言える。母親は我が子に執着するからこそ、身を削ってでも子育てができる。仲間や恋人は、その人でなければならず、他の人じゃダメなのだ。

だからオキシトシンが分泌されると、子どもや仲間、パートナーを守るために、攻撃的になったり、保守的になるそうだ。素敵な恋人ができたら「その恋人を失わなうんじゃないか」と嫉妬する。あるいは、同僚に非の打ち所がないような素敵な恋人ができたら、あの人はどうやってそんな人と付き合ったのか、なぜわたしじゃなかったのか、と「妬む」。

ちなみに「嫉妬」と「妬み」は心理学的には別のものだそう。「嫉妬」は自分が持っている物を奪いにくるかもしれない人を排除したい感情。「妬み」は自分よりも良い物を持っている人に対して、その差を解消したい感情だ。「妬み」は、相手があまりに格上で足元にも及ばないとき、「憧れ」にも変わる。

シャーデンフロイデは、執着や嫉妬や僻みの発露だけれども、それは愛着や愛情、絆の裏返しだ。必ずしも悪いものではなく、人間社会には必要な存在でもある。

いじわるな自分に無自覚な人は厄介

シャーデンフロイデを感じない人はいないだろう。他人の不幸を楽しむのは品がいいとは言えないけれども、厄介なのはシャーデンフロイデに無自覚で、「自分はそんなものを持っていない」と否定する人じゃないだろうか。たぶん、本人は本当に、自分にはそんな邪悪な心はないと信じ切っているんだろう。だからこそ厄介だ。まだ「他人の不幸は蜜の味」と自覚的で露悪的な人の方が、話が早いだけにマシな気がする。

状況把握できるだけで

「最高の復讐は幸福になること」という言い回しがある。誰かのせいで自分が不幸になって破滅してしまうと、他人を喜ばせてしまうだけだ。自分が幸せになることが、一番人を悔しがらせることだから。それって、まさに「シャーデンフロイデ」。

自分の幸福になるために必要なのは、他人の悪口の輪に参加したり、イヤなヤツのことを思い出してイライラする時間ではないだろう。それは自分の時間=人生を他人に乗っ取られているのと同じだ。自分の時間は、自分の判断と決断によって、自分が采配することが、自分の幸せにつながっている。「させられる」のではなく、自分はどうするのかを考えるところから始まるのかもしれない。

あと、いじわるな気持ちになったとき「オキシトシン仕事してるなぁ」と思ってもいいだろうし、いじわるされたときも「ああ、シャーデンフロイデ」と心の中でツッコむのも、いいかも。よくわからない思いにとらわれるよりは、きちんと今の状況を言葉で認識すれば、理解が変わるだろう。

関連記事

中野信子さんの本

シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感

第1章 シャーデンフロイデ

シャーデンフロイデとは何か
“幸せホルモン”オキシトシン
オキシトシンの働き その1「安らぎと癒し」
オキシトシンの働き その2「愛と絆」
愛が憎しみに変わるとき
愛情が持つ、ネガティブな側面
愛情を糧に成長するヒト
女の脳から、母親の脳へ
母親の愛が重い
毒親脳ができる仕組み
嫉妬と妬みの違い
良性僻みと悪性僻み
シャーデンフロイデの意味
子どもはまだ“人間”になっていない
向社会性の弊害
薬としてのオキシトシン
もう一つの「絆ホルモン」AVP
なぜ人は不倫を糾弾するのか
「愛」を利用する人たち
メシウマ=シャーデンフロイデ

第2章 加速する「不謹慎」

正義感が引き起こす、サンクション
ヒトの脳は誰かを裁きたくなるようにできている
利他的懲罰としての“不謹慎狩り”とシャーデンフロイデ
サンクションが起こりやすいとき
あなたが先にルールを破った
誰かと一緒に過ごすということ――集団の性質
リベンジの危険を乗り越えるほどの快感
ソロモン・アッシュの「同調圧力」実験
社会的排除の原理
標的を「発見」するものは妬み感情
脳はいつでも楽をしたい
個よりも社会を優先させられる社会
「災害大国」で生き延びてきた日本人
個体の生命より、社会が優先?
セクショナリズムという形で現れる社会性
日本人の抱える承認欲求の正体
「悔しさ」の値段――最後通牒ゲーム
相手の不正を許さないのは、協調性の高い人
協調性の高い人たちに共通した脳の特徴
セロトニンが少ない日本人

第3章 論理的であるということ

集団を支配する「倫理」
ミルグラム実験の驚くべき結果
「正しい」人ほど、残酷な行為に抵抗がない
ルールに従順であるがゆえの弊害
ジンバルドーの「スタンフォード監獄実験」
アドルフ・ヒトラーと、サード・ウェーブ実験
美しいことは、正しいこと
倫理的であることが理性を麻痺させる
「正義」という名の凶器
「悪」を攻撃している〈わたし〉は素晴らしい
用心深い現代の若者たち
ツイッターの世界に潜む罠
承認欲求ジャンキー
セックスより感覚
不寛容の無限ループ
「自分こそが正しい」――正義バブルの時代

第4章 「愛と正義」のために殺し合うヒト

集団リンチの裏側にある心理
内集団バイアスと外集団バイアス
生き延びてきたDNA
人間は、もともと戦うことが好き
政治的信条は生まれつきのもの?
新しい民主主義を模索する時代に入った
宗教戦争はなぜ起きるのか
非宗教的な子どもほど寛容である
戦争に向かう脳
テロリストをつくるのは簡単
「現代の病理」に逃げてはいけない
愛が抱える矛盾

中野 信子(なかの・のぶこ)

一九七五年東京都生まれ。
脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部卒業。
東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。
フランス国立研究所にて、博士研究員として勤務後、帰国。
脳や心理学をテーマに、研究や執筆を精力的に行う。
現在、東日本国際大学教授。
著書に『脳内麻薬』『ヒトは「いじめ」をやめられない』『サイコパス』『心がホッとするCDブック』などがある。
テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。

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