『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』|母と娘の切れない「おまじない」

『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』挿絵イラスト 90 文学

こんにちは。あさよるです。あさよるの中の人は女性でして、女性として「母と娘」の話はピリッとしてしまいます。一体何なんでしょうか。「父と息子」にも、なんらかの関係性があるのでしょうか。今日手にしたのは『女の子が生きていくときに、覚えてほしいこと』。母として、反抗期を迎えもうすぐ巣立ってゆくであろう娘への西原理恵子さん流のメッセージです。

巣立つ娘へ

本書『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』は、一丁前に反抗期を迎え、そろそろ巣立ちのときを迎えた娘を前に、著者の西原理恵子さんが自身の半生と重ねながら、巣立つ娘へ送るメッセージ。また「毎日かあさん」として、不特定の「娘たち」へ向けた言葉でもあります。

長男は16歳でアメリカへ留学し立派に巣立ってゆきました。二子の長女は高校生になって自分の意志で劇団に入り、家ではお母さんと会話もしない反抗期真っ最中。母として、順調に育つ娘が微笑ましくあるものの、まあ同じ空間にイライラしている人がいると、誰でもイラつきます。

また、サイバラさんはご存知のように現在、高須クリニックの高須先生と交際中ですから、娘が朝帰りなら母も朝帰りw のみならず、なんといっても母が西原理恵子さんですからね~。子どもたちも大変です。親が作家なんて羨ましく思えますが、子どもたちにとってはネタにされ、たまったもんじゃないのかもしれませんw

サイバラさんの二人の子どもたちは、亡くなった前夫の子どもたち。前の夫は出産後、子育てが始まってから家庭内のDVが始まり、サイバラさんも苦労なさったそうです。なんとか離婚し、前夫もアルコール中毒とDVから立ち直り、サイバラさんや子たちと真っすぐ向かい合えるようになった半年後、この世を去りました。娘さんはお父様の記憶がなく、サイバラさんや祖母(サイバラさんの姑)から〈お父さん〉の姿を伝え聞いています。

ちょっと特殊な家庭環境ですが、「母と娘」という不変のテーマは、女性なら多少なりとも身につまされるでしょう。

母と娘と言えば

ちょっと話がそれますが、ちょっと前に「あたしおかあさんだから」という曲の歌詞が話題になりました。その話題を読んで椎名林檎さんの『ありきたりな女』を思い出しました。この曲は、まさに「母と娘」の「呪い」がテーマとして扱われています。かつて娘として、母から「お呪(まじな)い」をかけられた娘はやがて母となり、また娘に「お呪い」をかけるのです。『ありきたりな女』では女性の業や醜さが生々しく切り取られていて、ゾッとするというか、あるいはそれが美しく、愛おしくもある。

女性は、母や娘に「私」と「母」と「娘」を見るそうです。十代向けの『オンナらしさ入門(笑)』というジェンダーを扱った本の中で、女性は自分の娘に母親の姿を見て、娘を育てることは母への復讐であり、「母にされたこと」や「母がしてくれなかったこと」をするという話に、なんかものすごく納得してしまいました。

「母と娘」というのは、実は「嫁と姑」以上に複雑で切っても切れない「お呪い」がかかった関係のようです。

「カネ」の話と「プライド」の話

サイバラさんが「娘たち」へ送るメッセージは、お金を稼ぐ力と、そしてプライドあるいは尊厳について。

お金の話は以前ブログでも紹介した『この世でいちばん大事な「カネ」の話』でより詳しく触れられています。お金を稼ぐこは生きることに直結しているのに、社会の中ではタブー視される話題です。しかし、働いて、稼いで、食うというのは、悪いことではありません。そのために、生きる力として稼ぐ力を、女性も身につけるべきです。サイバラさんご自身の体験がつづられています。

プライドや尊厳の話は、もし彼氏や夫が暴力をふるうなら「逃げなさい」ということ。暴力というは、実際に身体を痛めつけることだけでなく、あなたの人格否定をしたり、逃げられない相手を脅したり、恐怖で支配しようとするなら「逃げなさい」。それは、子どもがいても、絶対に逃げなさい。

そして、男性の社会的地位に乗っからないこと。「夫の年収が○千万」とか「旦那に宝石を買ってもらった」ことを自慢せずに、「自分の年収」を増やし、「自分で宝石を買う」。自分で働いて、自分で稼いで、自分で生きる自立した女性であるプライドを持つ。

生きる戦略を持て!

どちらの話も、多かれ少なかれ、多くの女性は当てはまる節があるんじゃないでしょうか。実際に殴られる等の被害はなくても、男女間でパワハラっぽい関係性になってしまったり、あるいは男性の社会的地位が自分のそれだと思ってしまったり。

かつて、女性は受け身のままでも生きてゆける時代があったのかもしれませんが、その生き方はもうありません。女性も戦略を立て、賢く、強く、ときにズルく生き抜かないといけない。とくに子どもを持てば、自分以外の人生が乗っかってきます。「逃げる」は悪手ではありません。「年収」「肩書き」「社会的地位」ではなく、自分の「良い状態」は自分で設定して、それを目指すべきだ。そのための戦略を。

貧乏も暴力も連鎖する

本書『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』で繰り返し語られるのは、貧困と暴力は連鎖するということ。だから、自分が貧しさや暴力の中にいる人は、まずはそこを抜け出し、さらに連鎖を断ち切らなきゃいけない。

十代の人にとって、学校の勉強に打ち込むことは、そこから抜け出すための有効な一手です。しかし、置かれた環境によっては、子どもに勉強をさせない親や、進学を阻む親もいます。運の要素も働きます。すべての人が望んだ未来を手にはできないでしょう。サイバラさんも上京資金を父に取られそうになり、ひどい暴力を受けてまで母親が守ったものの、サイバラさんが上京するその日、父は自殺しました。そこまでやるのかと、読んでいても気が重くなる話でした。

サイバラさんのお母様もダメな男をつかまえてしまった女性で、サイバラさんご自身も「母のようになるまい」と思っていても、やっぱりダメな男と付き合ってしまうという……。

この「連鎖」は、一体どうやれば切れるのでしょうか。サイバラさんの場合は、ご自身が成功なさったことと、娘には亡くなった父親(西原さんの元夫)の悪口を言わずいい話ばかり聞かせたそう。そして、サイバラさんは今高須先生という「ええ男」交際していること。これは、鎖が切れたって考えていいのかな?

サイバラ泣かせるなあ!

『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』挿絵イラスト

この本、泣けるんですよね。途中何度も胸がいっぱいになって、目頭が熱くなったか。女性だったら「母と娘」の関係に心当たりがあるだろうし、自分を重ねて読んでしまう。それは、サイバラさんだったり、サイバラさんの母親だったり姑だったり、あるいは娘さんに、自分を見てしまうのです。

娘さんの反抗期、文面で読んでいる分には「全然反抗してないやん」と思ってしまう あさよるは、もっとめちゃくちゃな反抗期だった気がしますw その一方で、あさよるはちょうど〈日本経済の失われた20年間〉に子ども時代、青春時代を過ごしたので、ただひたすら経済的にツラかった。お金がないと人はギスギスするもので、家族間の関係も破綻していました。だから、サイバラさんの娘さんがものすごく「妬ましい」とも思います。

次世代への思いと、自らのやるせなさと、親世代への憐れみと……何重にも泣ける。やっぱサイバラ上手いなあ。

ただこうやって「されたこと」「しれくれなかったこと」にこだわっている限り、やっぱり連鎖は切れないのかも。なーんにも忘れて、次のステージへ進みたいものです。

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女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと

目次情報

はじめに

私が女の子だった頃

第一章 母と娘のガチバトル

お母さんなんてキライ! 娘、戦線布告する。
いまどきの反抗期は、こじらせると長い。
ばあちゃん、冷戦に割って入る。母は、今夜もひとり酒。
いざという時の5分間ルール。娘が巣立つ時、母親の立場は元カレと心得るべし。

第二章 スタート地点に立つために、できること。

やりたいことができると、人は、コンプレックスと向き合うことになる。
自分の現実を認めるのは、難儀な大仕事。
根拠のない自信よ、さようなら。みっともない自分、こんにちは。
自分がどうしたいかを諦めないで。

第三章 夢見る娘とお金のハナシ

家賃と月収は、自立のバロメーター。
女の子こそ、生きていくための戦略を立ててください。

第四章 かあさんの子育て卒業宣言

鴨ちゃんのこと。
ずっと家なかった。
暴力から逃げ遅れないために。
大人になるって、どういうこと。
親と子にも、適切な距離がある。

第五章 巣立ちのとき

そこからですよ、人生が始まるのは。
そこにいてくれて、ありがとう。

第六章 女の子が生きていくときに、覚えていてほしい5つのこと。

性格悪い方が幸せになれるよ。
あなたの人格を否定していい人なんて、いない。
それはあ、あなたが受け取るべき正当な対価なのか。
女の一途は、幸せのジャマ。夢は、いっぱいあったほうがいい。
何があっても、最後は笑えると思っていれば、大丈夫

終章 女の子たちの〈エクソダス〉

西原 理恵子(さいばら・りえこ)

1964年高知県生まれ。88年『ちくろ幼稚園』でメジャーデビュー。96年カメラマンの故・鴨志田穣氏と結婚し、一男一女をもうける。97年『ぼくんち』で文芸春秋漫画賞、2004年『毎日かあさん カニ母編』で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、11年『毎日かあさん』で日本漫画家協会賞参議院議長賞を受賞。著書に『鳥頭紀行』『この世でいちばん大事な「カネ」の話』『いけちゃんとぼく』『きみのかみさま』『生きる悪知恵』『ダーリンは70歳』『洗えば使える泥名言』「スナックさいばら」シリーズなど多数。

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