馬場マコト

『未来のだるまちゃんへ』|目を見開いて、理解して、面白がって

かこさとし『未来のだるまちゃんへ』挿絵イラスト

こんにちは。かこさとしさんブームな あさよる です。きっかけは、「あさよる」の本を見つけたからでした。豆の家族の一日を追っかけるドキュメンタリー絵本です。

さらに『あさよる、なつふゆ、ちきゅううはまわる』という本も見つけて、図書館で資料請求してみました。こちらももちろん かこさとしさんの本です。

で、この本、読んだことあるかもしれない……!というか、図書館に寄贈したの、自分じゃね?というw 「あさよる」って自分で考えた名前だと思ってたんですが、まさか元ネタがあった疑惑……。

かこさとしさんと福岡伸一さんの『ちっちゃな科学』もおもしろかったのです。子どもの好奇心や興味を、大人になってもずっと絶やさないかこさんも素敵です。

だるまちゃんだった

本書『未来のだるまちゃんへ』では、絵本『だるまちゃんとてんぐちゃん』の作者、かこさとしさんの半生と、そして子どもたちへの眼差しが記されています。

『だるまちゃんとてんぐちゃん』とは、1967年に出版された名作絵本です。〈だるまちゃん〉と〈てんぐちゃん〉は仲良しで二人で遊んでいますが〈だるまちゃん〉は〈てんぐちゃん〉のステキな出で立ちが羨ましくなり、お父さんの〈だるまどん〉に帽子や扇子や履物を強請ります。〈だるまどん〉は〈だるまちゃん〉のために道具を用意してくれるのですが、なんだか違う……という、すれ違いがおかしい絵本です。

大人が読んでも面白く、まただるまちゃんが愛おしくてたまらないのですが、どうやら〈だるまちゃん〉のモデルはかこさとしさんご自身の体験にあるそうです。かこさんのお父様は、欲しがってもないのにアレコレと子どもに与えたがる方だったそうで、欲しくもないものを「欲しい」と言い、買い与えられる自分に歯がゆさを感じていらしたそうです。それが〈だるまどん〉の姿であり、欲しくないものを用意されて困っている〈だるまちゃん〉なんですね。もちろん、お父様にも十分に目をかけられない息子への気持ちからなのですが、すれ違いなんですね。

かこさとし『未来のだるまちゃんへ』挿絵イラスト

みんな、だるまちゃん?

〈だるまちゃん〉のもう一つの特徴は、なんでもよく「観察する目」と「好奇心」です。〈てんぐちゃん〉の衣装をよく観察していて、同じものが欲しいと思います。羨ましがっているというよりは「ステキ!」「いいな!」「ほしい!」って素直に自分の興味に従っています。

で、誰もが子ども時代、だるまちゃんだったんじゃない?ってことですね。

『未来のだるまちゃんへ』の中では、かこさんの子ども時代の思い出が語られています。かこさんは福井県で生まれ子ども時代を過ごしました。満州事変のあと、鯖江から兵隊さんたちが大陸へ出兵するのを、学校をあげて見送りへ行きました。そのとき、子ども心に「出征というのは、こんなに寂しいものなのか」と感じたそうです。周りは大人も子どもも「万歳」と声を上げ、旗を振っているのに、兵隊たちは誰も笑っていない。

当時小学一年生だったかこさんだけでなく、多くの子どもたちはその雰囲気を感じ取ったようで、いつも戦争ごっこして遊んでいる子らも、帰り道も黙ったまま。何も知らない子どもだからこそ、その場の「空気」を誰よりも率直に感じたのかもしれません。

「子どもだから何もわからない」のではなく、「こどもだからこそ、理屈じゃなく感覚でわかる」ってこともあるのかも。子どもを侮ってはいけないし、馬鹿にしてはいけない。彼らは「わかっている」んだと思いました。

次のだるまちゃんへ

かこさんはセツルメント活動を通じて、子どもたちを大人の目線で観察し、また絵本作家として活動を開始します。当初は会社員との二足の草わらじで、作家であることも隠していたそうです。家庭では父となりましたが、実の子との一緒に過ごす時間は少なかったと告白されています。家庭よりも、自分の運動や活動に没頭していたというのは、ちょっと意外な横顔でした。かこさんご自身が、夢中にのめりこむ〈だるまちゃん〉だったのです。

子どもたちの関わりの中で、大人の〈だるまちゃん〉の、未来の〈だるまちゃん〉へのメッセージです。

 生きるというのは、本当は、喜びです。
生きていくというのは、本当はとても、うんと面白いこと、楽しいことです。

(中略)

僕は、子どもたちには生きることをうんと喜んでいてほしい。
この世界に対して目を見開いて、それをきちんと理解して面白がっていてほしい。
そうして、自分たちの生きていく場所がよりよいものになるように、うんと力をつけてそれをまた次の世代の子どもたちに、よりよいかたちで手渡してほしい。

p.251-252

「目を見開いて、それをきちんと理解して面白がっていてほしい」というのが、かこさんらしいと思います。世界には悪いことも嫌なことも考えたくないこともいっぱいあるけど、目を見開いて、理解して、そのうえで面白がってほしい。「面白がる」ってのがレベル高いし、ポイントですね。

だるまちゃんだったあさよるは

あさよるも、かつては〈だるまちゃん〉でした。いいや、ホントは今も〈だるまちゃん〉でありたい。けれども、どうだろう、興味や好奇心は尽きていないだろうか。

あさよるも、子どもの頃は何もわかっていなかったけども、なんとなく社会の雰囲気は感じていました。90年代に子ども時代を過ごしたので、将来貧しい社会がやってくることは悟っていたし、9.11テロに大人たちが落ち込んでいる理由がわからなかった。「起こるべくして起こった」としか思わなかった。原子力発電にムリがあるのは理科の本に書いてある。

なのに今なにが起こっているのか、自分の知識が邪魔してまっすぐ目に入りません。子どもの話はバカバカしく聞くに耐えないと感じてしまう。ほんとは、新しい人が古い人に教えてくれているのに。

『未来のだるまちゃんへ』を読んで、結構ヘコみました。〈だるまちゃん〉の話に耳を傾ける〈だるまどん〉はえらい大人だなあ。

関連本

『花森安治の青春』/馬場マコト

『ミライの授業』/瀧本哲史

『本を読む人だけが手にするもの』/藤原和博

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