『アヘン王国潜入記』|のどかな山間のアヘン栽培日記

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こんにちは。人が読んでいる本が読みたくなる あさよるです。『アヘン王国潜入記』も誰かが読んでいるのを見つけて、読みたい本リストに入っていたのでした。だって、タイトルが『アヘン王国潜入記』ですよ!?で、表紙がコレですよ!?ケシのお花畑で武装した男性が笑顔で並んでるんですよ!?

と、インパクトしかなかったので、読みたかったのです。

本エントリーでは、ミャンマーを「ビルマ」と表記しています。本書『アヘン王国潜入記』が「ビルマ」表記ですので、それに倣いました。

世界の大麻薬生産地域に潜入

本書『アヘン王国潜入記』はノンフィクション作家の著者・高野秀行さんが、実際にビルマ(ミャンマー)のワ州と呼ばれる地域にあるムイレ村という閉ざされた村へ潜入し、村人と共にアヘンを育て収穫するまでの半年以上に渡る記録です。

まず、ビルマの一角がアヘン王国なのかという理由から。引用します。

 ゴールデン・トライアングル、もしくはその和訳「黄金の三角地帯」という名称は誰しも一度は耳にしたことがあると思う。インドシナのタイ、ラオス、ビルマの三国が境を接するあたりに広がる、いわゆる《麻薬地帯》である。麻薬といってもいろいろあるが、ここは麻薬の王たるアヘンもしくはアヘンを精製して商品化された非合法モルヒネやヘロインの世界最大の生産地である。世界のアヘン系麻薬の六〇~七〇パーセントはこの国境地帯から流出しているというもっぱらの評判であった。
しかし、タイとラオスはもともと生産量が少なったうえ、政府の規制でアヘンの生産は一九八〇年代に入ってから激減している。(中略)
ところが、ビルマでは諸々の事情からアヘンの生産量は落ちるどころか九〇年代になってからも増加する一方で、今ではゴールデン・トライアングルの全生産量の九割以上をビルマが担っているという。(中略)
といっても、アヘンはビルマのどこででも獲れるというわけではない。生産地は漠然とタイ、ラオスと国境を接するシャン州と考えられているが、その六〇~七〇パーセントがワ州で産出されていることはほとんど知られていない。つまり、全世界の四割前後のアヘンをこの小さな土地が生み出していることになる。

p.16-17

ゴールデン・トライアングルを地図で見ますと、中国、ラオス、タイ、ビルマ(ミャンマー)にまたがる地域。アヘンの育つ気候や土地にこの辺りが適していることと、自治区であるワ州はビルマ政府の支配を受けていないことなど、国際的“裏”の仕事がしやすい要因なのでしょう。

近代から隔絶された村で

その中のムイレ村に潜伏するという、どんなに退廃した恐ろしい土地なんだろうと想像していましたが、本書『アヘン王国潜入記』を読むと、牧歌的でのどかな土地で驚くばかり。そこで暮らす人々ものんびりと朗らかに生きているのが印象的。しかし、そんな平和そうな小さな村の中にも拘わらず、戦争の影が生々しく潜んでいる。徴兵されている人もいるし、戦争で夫を亡くした未亡人も多い。

村人たちの多くは農業に従事しています。もちろん、アヘン栽培です。他の作物は作られていないようで、村の食事は貧しいもののよう。農業といっても、日本の超効率化された農業のようなものではなく、原始的農業を想起させるようなもの。開墾した土地にアヘンの種をまき、あとは雑草を抜くだけ。親類や知り合い同士で畑を手伝いながらも、当番やスケジュールもなく、その日その日予定が変わってゆく。著者は積極的に毎日雑草取りに参加していたら、アヘンの収穫時に少しアヘンを分けてもらえることになりました。

村人たちの間では喧嘩やモメ事も少なく、万一喧嘩が起こっても次の日には仲直りする。

資金源はアヘンなのだけど、収穫の半分以上は政府に差し出さないといけないし、兵も取られるし、かなり税は重い。

そして、このムイレ村はとても不思議な村なのだ。ムイレ村は電気もなく、近代から隔絶された村だ。他の村との交わりもなく、婚姻も村内で行われる極めて「閉じた」村である。このムイレ村での日々を読んでいると、世界がこの谷あいしかないような錯覚に陥るが、実は山一つ越えれば電気もあるしラジオも衛星放送も見れて、世界情勢がリアルタイムで入って来る。車で三日も走ればセブンイレブンがあるという。決して、近代文明から遠く離れているわけでなく、すぐ隣にあるのだ。どうやらムイレ村はじめこのあたりの地域は、首狩りをしていたようで、未だにその名残があるよう。

教育とは、医療とは、労働とは

ムイレ村では一切の近代的医療がない。衛生観念もなく、我々の感覚でいうと「不潔」な環境だ。だから、病気になったらサヨウナラだ。現に、本書中でも元気だった若い男性がある日コロッと死んでしまう場面がある。非常に恐ろしい。

「教育」というものもなく、子どもたちは字も読めない。著者・高野秀行さんの世話役のアイ・スンさんが、滞在中だけ村で学校を始め、アルファベットを子どもたちに教える。すると、それまでみんな平等で同じだった子どもたちの中で、優秀な子と落ちこぼれが生まれる。そして、貧富の差が浮き彫りになる。教育とは子どもを画一化することであり、するとその中で優劣、貧富の差が現れる。

労働も同じで、村人たちは特に取り決めもなく畑仕事をやっている。だから、働いている様子を見ても優劣の差はない。

近代化されていない村を見ることで、近代のシステムを垣間見るようで興味深い。

だんだん常識が入れ替わってゆく

ムイレ村はアヘンと共にある。アヘンを育て、収穫することが目的で潜伏した著者は、ついにアヘンを手に入れる。

しかし、その頃には著者自身もアヘン中毒になっておりw、村を足早に立ち去る。タイのチェンマイに戻ってから、収穫物のアヘンを自慢するとひどく怒られ、その場で処分してもらうことになる。そう、ワ州にいたころはアヘンがある生活が当たり前だったが、そこから一歩外へ出ると「あってはならないもの」なのです。

ムイレ村へ潜入時も常識が全く違う村で驚くことばかりだったが、半年経ちそこから外へ出てくると、次は世界の常識にクラクラする。

冒険記・探検記ってオモシロイ

本書は探検記になるんだろうと思うけれども、これは面白い。世界のどこかにこんな世界があるんだ!

また、著者の目線も楽しい。出来事を綴っているだけなんだけれども、ユーモアで溢れている。

一方で、子どもたちへの教育事情や医療事情などもしっかりを描かれている。

あさよるは時折、衛生観念の無さや、教育がないということに腹立たしさも感じた。すぐそばでは近代の文明があるのに、それに触れられない彼らは長生きができないだろう。実際に、本書に登場する人達は年寄りがいない。

それも含めて、知らない世界を覗き見た興奮は面白かった。高野秀行さんの他の本も読みたい。

アヘン王国潜入記

アヘン王国潜入記 (集英社文庫)

アヘン王国潜入記 (集英社文庫)

  • 作者:高野 秀行
  • 出版社:集英社
  • 発売日: 2007-03-01

目次情報

プロローグ――「善悪の彼岸」へ

第一章 アヘン王国、ワ州

人民元が流通する町、首都パンサン
「反政府ゲリラ」の総司令官に会う
雲南省から電気を買う
「文化はないが、歴史はある」

第二章 手探りの辺境行

山奥に出現した華やかな市場
「長男ワ人、次男漢人、三男シャン人」
ワの酒プライコーの特殊な飲み方
もっと辺鄙な村に行きたい
ビルマ共産党はワに何を残したか
目つきの鋭い男たちの正体は?
「荒れ地に花を咲かせましょう」
「マラリア」の診断に感激する

第三章 アヘンとワ人

「神の薬」から万能の解毒剤へ
イスラム教徒によるアヘンの《麻薬》化
アヘン戦争は「薬物戦争」だった
アヘン、ワ人と出会う

第四章 ゴールデン・ランドの草むしり

ムイレ村の朝は杵の音から始まる
「水中国」から来た謎の男
村にはなぜ未亡人が多いのか
ケシ栽培は純粋な農業である
ネズミのお供え、そして楊枝占い
酔いどれ司祭、サム・タオじいさん
ワ州にて教団に立つ
《国家》は誰のために?
ワ軍幹部の「敏感的問題」

第五章 「アヘン=モルヒネ化計画建白書」

「ぼくの名前はチ・コ・コです」
知られざる「東南アジアのユーゴスラビア」
ムンマオでクンサー降伏の報を聞く
世界史を変える夢を見る

第六章 白いケシと緑の軍服

ある若者のあっけない死
「男が死ねば家が絶え、女が死ねば畑が絶える」
アヘンの強烈な効き目を体験する
「板夢」の心地よさとは何か
「ロマンチック」な村生活
収穫の熱い季節がたってきた
準原始共産制の財テク事情
ヘロイン・ブローカーとルビーの指輪
アヘンの吸いの彷徨
ヤン・ライン集落の三大アヘン人
ワ軍の税はアヘンの現物
「招き猫」敬礼で、さようなら

第七章 最後に残された謎

新麻薬王タ・パンの誕生
アメリカ政府の発表が意味するもの

エピローグ――ワ州と外部世界をへだてる壁

あとがき
文庫版あとがき
主要参考文献
解説 船戸与一

高野 秀行(たかの・ひでゆき)

1966年東京都生まれ。早稲田大学探検部当時執筆した『幻獣ムベンベを追え』でデビュー。著書に『巨流アマゾンを遡れ』『東西シルクロードは密林に消える』『怪しいシンドバッド』『異国トーキョー漂流記』『ミャンマーの柳生一族』『アジア新聞屋台村』など。2006年『ワセダ三畳青春期』で第1回酒飲み書店員大賞受賞。

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