ビジネス書としての『西洋美術史』|美術史は世界史を知ることだったりして

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こんにちは。あさよるです。あさよるは一応、美術科出身でして(自分でも忘れがちですが)、ちょこちょこ美術関連の本は読んでいます。今日読んだのは『西洋美術史』という、タイトルはすごく平凡。だけど副題が「世界のビジネスエリートが身につける教養」とあり、ビジネス書になってるんです。

最近はこういう教養本の話題本が多いですね。本書『西洋美術史』も話題になってたので、手に取ってみました。

内容は、真面目な西洋美術史入門編って感じなのですが、取り上げられている美術作品は近年日本で話題になった美術展の作品も多く「実際に美術館で見た!」って人も多いかも。ブリューゲル「バベルの塔」(バベル展)や、「レディー・ジェーン・グレイの処刑」(怖い絵展)って、昨年でしたっけ。

「バベル展」@国立国際美術館(大阪)2017/09/14

↑あさよるも足を運びまして、感想を書こうと思いつつ放置してた(;^ω^)

教養としての美術史

『西洋美術史』は「世界のビジネスエリートが身につける教養」と副題がついているのが面白いところです。内容自体は普通に西洋美術史を紹介する本なんですが、この副題によってビジネス書になっているのですね。なるほど。今のグローバルな時代、これくらいの西洋美術史は知っていてもムダにはならないでしょう。というか、一般教養の範疇かなぁと思います。

本書『西洋美術史』で知られることはまず、「美術作品はただ見た目がキレイで、気持ちよくさせてくれるもの」ではないということ。美術作品を自分の「感性」のみで観賞しようとする人がいますが、実はそういう代物じゃない。「どうしてその作品は創られたのか」「創った人はどんな人か」「当時の人たちはその作品をどう扱ったのか」なんかを読み解いてゆくと、時代背景や、宗教観、歴史的出来事、科学や医学、哲学など他の分野の進歩など、絡み合ってその作品が存在しているのがわかります。

本書『西洋美術史』も、古代ギリシャから話が始まります。ギリシャ人たちは、

人間の姿は神から授かったものであり、美しい人間の姿は神々が喜ぶもの(p.16-17)

と考えていました。だからギリシャ彫刻はあんなに均整がとれて美しいのです。また、無表情なのも、感情を露にするのは慎んだ方がいいと考えられていたからだそうです。ギリシャ彫刻をモデルにした石膏像って、学校の美術室なんかに据えられていましたが、あの石膏像の元ネタを知るのも面白いですね。

で、そのギリシャ人たちが作った彫刻をコピーし、商品化したのがローマ人でした。コピーがつくられたことで、後世までギリシャ彫刻が伝えられもいます。それが古典となり、今に至る西洋美術の原点になっているのです。

思想・宗教、歴史を押える

美術・芸術を知るとき、同時に知ることになるのがギリシャ神話だったりキリスト教思想だったり、多くの日本人にとっては異文化の思想です。本書『西洋美術史』でも、ギリシャ人たちの思想がローマ帝国へ広がり、そしてアジアからキリスト教が入ってきて国教となり、キリスト教の宗教画や、キリスト教の思想に沿った作品が創られます。またその歴史の中では、伝染病が流行ったり、王様の時代から貴族の時代、市民の時代へと移り変わったり、社会もダイナミックに変化し続けます。

西洋美術史を知ることは、ヨーロッパの歴史、世界史を知ることでもあります。

また、近代の画家たちは日本の浮世絵に影響を受けたという話がありますが、日本の絵師たちも西洋絵画を学んでいます。江戸時代の鎖国中にも西洋絵画の技法がじわじわっと入ってきていて、文化と文化は常に交じり合い、影響しあい、変化し続けているんです。

「子ども向け」を読めない大人へ

本書『西洋美術史』の内容って、普通の西洋美術の歴史なのですが(つまり、奇をてらったり話題先行のものではなく、真面目な内容です)、「ビジネスエリートが」と副題をついていることが面白いと紹介しました。

この手の本は、中高生向けに書かれた本が秀逸で、わかりやすく良い本が多いんです。あさよるネットでも、10代向けの教養本をたまに紹介しています。美術史を扱ったものだと、池上英洋さんの『西洋美術史入門』なんか。

あさよる自身も「はじめて触れる知識は、子ども向けの本から読もう」と思っていて、小学生向けに書かれた本から中高生向けと、だんだん対象年齢を上げながら勉強することが多いです。子ども向けの本、オススメです。さらに、書店よりも、図書館のほうが探しやすくてオススメです。

なんですが、子ども向けの本を読む習慣がない方や、抵抗がある方もいらっしゃるようで、本書のような大人の教養本も必要なのかなぁと思います。そして、本書のような切り口は面白いとも感じました。

子ども時代に美術に触れる機会がなくても、大人になってから興味がわくこともあります。そんなとき、こんな導入本があるのは便利です。

知識が増えると感性も磨かれる

あさよるは、知識が増えることは、より多くの情報を入力できるようになり、結果的に自分の感性がより刺激され、磨かれてゆくことだと思っています。もし、なんの知識もない方が感受性が豊かなのだとしたら、生まれたばかりの赤ちゃんが一番感性豊かなことになります。だけど、自分自身の経験でも、周りの人を見ていても、赤ちゃんの頃よりも、言葉を覚えた子どものほうがより多くの刺激を感じているだろうし、さらに肉体も精神も成長した思春期の方が、強い刺激にさらされているように思います。

大人はロマンチストです。他人の話や、作り話に触れて涙したり感動したり、友人や仲間、伴侶や恋人など、他人をまるで自分の一部のように想い、怒ったり喜んだりもします。こういうの、子どもの頃にはなかった感覚じゃないかなぁと思います。

だから恐れず知識を吸収しても、好奇心は尽きないんじゃないかなぁ。知れば知るほど面白い世界。美術の沼へいらっしゃい。

美術関連の本で定番は『カラー版 西洋美術史』あたりでしょうか。

増補新装 カラー版 西洋美術史

この本は、有史以前、人類が登場した氷河期から始まります。とにかくたくさんの作品がカラーで詰め込まれています。最初の一冊にはしんどいかもしれませんが、入門編として早い時期に読んでおきたい。

テレビでもおなじみの山田五郎さんの『知識ゼロからの西洋絵画史入門』も西洋美術史の面白がり方を知れる内容でした。

知識ゼロからの西洋絵画史入門

あと、面白かったのが『知識ゼロからの名画入門』 。著者は「なんでも鑑定団」の鑑定家でもある永井龍之介さんで、「もしあの名画を買うならいくらか?」という本。

知識ゼロからの名画入門

当然のことながら、とんでもない値段がつきまくるんですが「なぜその値段なのか」「どんなところに価値をつけるのか」というのが面白かったです。美術品はその作品自体が宝物や、世界に一つしかない物ですから、お金には換算できない。それをあえて「○億円」と鑑定して、その理由がくっついてるのが新鮮に思えました。

以上3冊はブログでも紹介したいなぁと思いながら放置していたので、ここでかわりに挙げておきますw

関連記事

世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」

目次情報

はじめに 「美術史とは、世界のエリートの“共通言語”である」

第1部 「神」中心の世界観はどのように生まれたのか? ギリシャ神話とキリスト教

なぜ、古代の彫刻は「裸」だったのか?――ギリシャ美術

「男性美」を追求した古代ギリシャの価値観
古代ギリシャの発展と美術の変化
現存するギリシャ美術のほとんどはコピー
COLUMN 平和の祭典「オリンピック」の始まり

ローマ帝国の繁栄と、帝国特有の美術の発展――ローマ美術

ローマ美術のもうひとつの源流「エルトリア」
「美」の追求から「写実性」の時代へ
後世に影響を与えたローマの大規建築
ローマ帝国の衰退とキリスト教美術の芽生え

キリスト教社会がやってきた――宗教美術、ロマネスク

「目で見る聖書」としての宗教美術の発達
キリスト教最大の教派「ローマ教会」が発展できたワケ
修道院の隆盛によるロマネスクの誕生
巡礼ブームで進んだ都市化と「ゴシック美術」の芽生え
COLUMN キリスト教公認以前のキリスト教美術

フランス王家の思惑と新たな「神の家」――ゴシック美術

ゴシック様式に隠された政治的メッセージとは?
「光=神」という絶対的な価値観
大聖堂建立ブームの終焉と「国際ゴシック様式」の発展

第2部 絵画に表れるヨーロッパ都市経済の発展 ルネサンスの始まり、そして絵画の時代へ

西洋絵画の古典となった3人の巨匠――ルネサンス

「再生」を果たした古代の美
レオナルド・ダ・ヴィンチは軍事技術者だった!?
宗教改革による盛期ルネサンスの終焉

都市経済の発展がもたらした芸術のイノベーション――北方ルネサンス

レオナルド・ダ・ヴィンチにも影響を与えた革新的絵画
台頭する市民階級に向けた“戒め”の絵画とは?
絵画から読み解けるネーデルランドの混乱
COLUMN ドイツ美術史の至宝デューラーとクラーナハ

自由の都で咲き誇ったもうひとつのルネサンス――ヴェネツッア派

貿易大国ヴェネツッアの発展と衰退
自由と享楽の都が生み出した謎多き絵画
ヴェネツッア絵画は二度輝く

カトリック vs プロテスタントが生み出した新たな宗教美術――バロック

「プロテスタント」の誕生
宗教美術を否定するプロテスタント、肯定するカトリック
カラヴァッジョの革新的なアプローチ
対抗宗教改革の申し子・ベルニーニ
COLUMN バロック絵画の王「ルーベンス」

オランダ独立と市民に広がった日常の絵画――オランダ絵画

オランダ独立と市民階級の台頭
市民に向けて描かれた多種多様なオランダ絵画
レンブラントとフェルメール
COLUMN オランダ人を翻弄した17世紀の「チューリップ・バブル」

第3章 フランスが美術大国になれた理由 “偉大なるフランス”誕生の裏側

絶対王政とルイ14世――フランス古典主義

ルイ14世が作りあげた「偉大なるフランス」
かつての芸術後進国フランスで、美術家たちが抱えたジレンマとは?
「プッサン知らずして、フランスの美を語るなかれ」
COLUMN 古典主義以前のフランス様式

革命前夜のひとときの享楽――ロココ

「王の時代」から「貴族の時代」へ
勃発した「理性」対「感性」の戦い
ロココ絵画の三大巨匠
聞こえてきた「フランス革命」の足音

皇帝ナポレオンによるイメージ戦略――新古典主義、ロマン主義

フランス革命と「新古典主義」の幕開け
現代の政治家顔負けの「ナポレオン」のイメージ戦略
再び起こった「理性」対「感性」の争い
2つの様式で揺れる画家たち

第4章 近代社会はどう文化を変えたのか? 産業革命と近代美術の発展

「格差」と「現実」を描く決意――レアリスム

「現実」をそのまま描いたクルーべの革新性
マネから読み解く19世紀フランス社会の「闇」

産業革命と文化的後進国イギリスの反撃――イギリス美術

「イギリス」が美術の国として影が薄い理由
「肖像画」によって輝いたイギリス美術
英国式庭園の霊感源となったクロード・ロラン
産業革命でさらに発展するイギリスの国力と文化

産業革命の時代に「田舎」の風景が流行った理由――バルビゾン派

近代化によって生まれた「田園風景」需要
サロンを牛耳る「アカデミズム」

なぜ、印象派は受け入れられなかったのか?――印象派

「何を描くか」ではなく「どう描くか」の時代へ
マネを中心に集まった印象派の画家たち
印象派の船出「グループ展」の開催
アメリカ人が人気に火をつけた印象派

アメリカン・マネーで開かれた「現代アート」の世界――現代アート

アメリカン・マネーに支えられたヨーロッパの芸術・文化
女性たちが開拓した現代アートの世界
ノブレス・オブリージュの精神で広がる「企業のメセナ活動」

おわりに
掲載美術品一覧
人名索引
主な参考文献

木村 泰司(きむら・たいじ)

西洋美術史家。1966年生まれ。米国カルフォルニア大学バークレー校で美術史学士号を修めた後、ロンドンサザビーズの美術教養講座にてWORKS OF ART修了。ロンドンでは、歴史的なアート、インテリア、食器等本物に触れながら学ぶ。東京・名古屋・大阪などで年間100回ほどの公演・セミナーを行っている。
『名画の言い分』『巨匠たちの迷宮』『印象派という革命』(以上集英社)、『名画は嘘をつく』シリーズ(大和書房)、『美女たちの西洋美術史 肖像画は語る』(光文社)、『おしゃべりな名画』(ベストセラーズ)、『西洋美術史を変えた名画150』(辰巳出版)など、著書多数。

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