女の子はある年頃になるとピンクを欲し、ピンクまみれになってゆくらしい。
そして、小学校へあがる頃になると、その反動で「ピンクは子どもっぽい色」と考えるようになり、ピンクから遠ざかり、水色が人気になる。
小学高学年くらいになると、ピンクは再び好きな色に返り咲くが、同時に嫌いな色ランキングでも上位になる。
そこから、ピンクへの愛憎は中年になる頃まで続くという。女性にとってピンクという色は、一筋縄ではいかない色なのだ。
女性・女の子の大問題。ピンク色について
本書では「ピンク」という色だけではなく、女性に付加されている「ピンク的な価値観」も含んで話は進む。女児に与えられる玩具は、ピンク的な思想に染まっている。レゴブロックの女の子向けのシリーズは、ピンクや明るい色で、スイーツやリゾート仕様だ。男の子のように冒険や科学者にはなれないの。
バービー人形は、実際の女性の体型よりも胸が大きく、ウエストと足首が細く、首と足が長い。それが、知らず知らずのうちに女性の意識に結び付いて、拒食症などの良からぬ影響を与えているのではないか。
ホワイトカラーやブルーカラーのように、本書では「ピンクカラー」という言葉が登場する。
ピンクカラーはおおまかに次のように分類される。
・サービス系…花屋、パン屋などの小売店の店員、ウエイトレス、キャビンアテンダント、バスガイドなど
p.149
・ケアワーク系…看護師、介護士、保育士、幼稚園教諭など
・美容系…美容師、ネイリスト、ヘアメイク、スタイリスト、アパレルなど
・アシスタント系…一般事務、受付、秘書、歯科衛生士、など
・語学系…通訳、翻訳、英会話教師、英文経理など
・人文系…司書、心理職、編集者、校正など
これらはリカちゃんのお友達があこがれる職業だという。多くの女性が希望する職種は、なり手が多いので低賃金になってしまう。そして、若い内は仕事があるが、年齢を経ると狭き門になってゆく。食いつめてしまいがちな職業でもあるということだ。
女性は幼いころから、ピンクカラーの職業を選択しがちな環境に置かれているし、受験や就職の頃に、そう指導されることもある(理系に進まず文系に進んだり)。
わたしも実は、工学部に進みたかったけれど、両親に反対され、結局、美術系の短大へ進んだ。ピンクな、そのまんまの進路を選んでしまった。学校で一番成績がいいと先生に褒められた時は、父親から「男の子に勝って嬉しいか」「女の癖に恥ずかしくないのか」と殴られた記憶がうずく。
本書を読んでいると、多かれ少なかれ、心が疼く女性は多いのではないだろうか。
わたしは、ピンクよりも緑色が好きだった。リカちゃん人形よりも恐竜が好きで、物理や科学の本を夢中で読んでいた。だから、「可愛くない」とか「男の子ならよかったのに」と言われ続けていた。もう30年以上前のはなしだ。2020年は、どんな社会に変わっているんだろう。
本書ではさらに、ピンクが好きな男の子にも言及される。世間の目は、「女の子らしくない女の子」よりも、「女の子のような男の子」へのほうが厳しい。男の子だって、ピンクが好きだっていいじゃないか。
この本、すべての人にあてはまる話題を扱っているからこそ、これ、とんでもなく深い話だぞ。
女の子は本当にピンクが好きなのか
- 堀越英美
- Pヴァイン
- 2016/2/26
目次情報
イントロダクション
第一章 ピンクと女子の歴史
ピンク=女子はフランス発/きらびやかな男性たち/子供服における男女の区別
/黒を追求してピンクを手にせよ/五〇年代アメリカとピンク/厭線カラーとしてのピンク/ウーマンリブの登場/日本におけるピンク第二章 ピンクへの反抗
女子向けSTEM玩具の登場/ピンクに対抗する女児たち/ピンク・ステンクス/政治問題としてのピンク。グローバリゼーション/ジェンダーと玩具/ファッションドールが女の子に教えること
第三章 リケジョ化するファッションドール
バービー売上不振の理由/〈プロジェクトMC2〉とギーシック/イギリス生まれおSTEMドール〈ロッティー〉/セクシーすぎない女子アクションフィギュア/多様化するドール界/男の子だってバービーで遊びたい!/技術があれば女の子も戦える
第四章 ピンクカラーの罠 日本女性の社会進出が遅れる理由
“女らしい職業”と現実とのギャップ/ピンクカラーの罠/なぜ女の子はピンクカラーに向かうのか/改善されない日本/ピンクは母性と献身の色/「プリンセス」は「キャリア」ではない/「かぐや姫」を守るためにできること
第五章 イケピンクとダサピンク、あるいは「ウチ」と「私」
ピンクへの拒否感/ダサピンク現象/主体としての一人称「ウチ」/性的客体化が女子に与える害/主体としてのイケピンク
第六章 ピンク・フォー・ボーイズ
ピンク好きな男子たち/「カワイイ」と男子/男の子への抑圧/中年男性も「カワイイ」世界へ/『妖怪ウォッチ』と『アナ雪』が切り開く時代/新しいディズニープリンセス
あとがき
堀越 英美(ほりこし・ひでみ)
1973年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。著書に『萌える日本文学』(幻冬舎、2008)、訳書に『ギークマム―21世紀のママと家族のための実験、工作、冒険アイデア』(共訳、オライリージャパン2013)など。
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