NHKの「ハーバード白熱教室」が話題になったのは2010年のことだそう。当時、あちこちで話題になっていたのを覚えています。……あさよるはちょこっとしか見ていなかったので、7年遅れでやっと本を読みました(苦笑)。
マイケル・サンデルさんはハーバード大学の政治哲学の教授です。サンデル教授の「Justice」という科目があまりに人気すぎて、ハーバード大は初めて講義の一般公開に踏み切ったそう。テレビで放送されたのはその模様だそうですね。
社会のリーダーはどんな決断をするか
講義を受けるハーバード大学の学生たちは、未来の社会のリーダー候補たちです。リーダーたちは「決断」を迫られます。決断を誤れば、たくさんの人の命が失われたり、生活を失ってしまいます。
『これからの「正義」の話をしよう』では、さまざまなケーススタディを見ながら、どんな決断をすべきなのか。個人がどうしようもない事態の中で、下した決断が法秩序に反していた場合、それを裁くことははたして「正義」なのだろうか?
有名な列車事故のたとえ話を見てみましょう。あなたは線路を見下ろす橋の上にいます。
線路上を路面電車が走ってくる。前方には作業員が五人いる。(中略)ブレーキはきかない。路面電車はまさに五人をはねる寸前だ。大惨事を防ぐ手立ては見つからない――そのとき、隣にとても太った男がいるのに気がつく。あなたはその男を橋から突き落とし、疾走してくる路面電車の行く手を阻むことができる。その男は死ぬだろう。だが、五人の作業員は助かる(あなたは自分で飛び降りることも考えるが、小柄すぎて電車を止められないことがわかっている)。
P.32
一人の人間を犠牲にすることで、より多くの命を救える。究極のシーンです。この例えの悩ましいのは、一人の人物を〈自分が突き落とす〉ということ。自分が人を〈殺す〉のです。しかし、それで多くの人が救われる。
このような選択を、民衆のリーダーは迫られます。大統領や総理代大臣、官僚や行政の長は「決断」しないといけない場面があります。日本は災害が多いですから、リーダーの判断によって多くの人が助かったり、逆に被害が拡大します。一人の犠牲で、多数の人が救われるなら、それを選択するシーンが実際に起こっているのでしょう。
そして「正義」の話。仮に、太った男を橋の上から突き落とし、一人を犠牲にして五人を救った人物は、殺人罪に問われるのでしょうか?五人の命を救った彼を殺人犯にする社会は、良い社会なの?それが「正義」?
難しい…わかんない…(;´Д`)
未来のリーダーたちを相手に「正義」の授業をしているのです。サンデル教授は「見て見ぬふり」という選択はさせてくれません(-_-;) 必ず何らかの決断をせねばならない。
『これからの「正義」の話』ではほんとたくさんのケースが集められているのですが、サンデル先生は〈答え〉を与えてもくれません。〈これからの〈正義〉の話〉なのですから、「答えはまだない」のかもしれません。
また、アメリカ社会と日本社会でも違いがあるでしょうし、なにより、あさよるは重大な決断をする立場にはないw
あさよるが読むと、どうしても〈個人〉のケーススタディに読めてしまうのが難しさに拍車をかけました。サンデル先生の意向も組めなくって、苦しい読書となりました。
ヤイヤイ言いながら読むのが面白いかも
あさよるのような凡人が『これからの「正義」の話をしよう』を読むならば、他人とヤイヤイと話しながら読むと面白いのかなぁと。
「思考実験しようぜ」とか「ギロンしようぜ」とかってノリはあまり好きじゃないのですがw、たくさんのケーススタディを見ながら、あーだこーだ言うにはぴったり。
あるいは、「自分が大統領だったら」「次期総理大臣になったら」という仮定のもとに話すとなお面白いかも。
なにせ、一人で読んでて、うまく吞み込めずモゴモゴと苦しい感じでした。一人で読んでると行き詰っちゃうぜ。
これからの「正義」の話をしよう
目次情報
第1章
正しいことをする幸福、自由、美徳
パープルハート勲章にふさわしい戦傷とは?
企業救済への怒り
正義への三つのアプローチ
暴走する路面電車
アフガニスタンのヤギ飼い
道徳のジレンマ第2章
最大幸福原理--功利主義ジェレミー・ベンサムの功利主義
反論その1:個人の権利
反論その2:価値の共通通貨
ジョン・スチュアート・ミル第3章
私は私のものか――リバタリアニズム(自由至上主義)最小国家
自由市場の哲学
マイケル・ジョーダンの金
私は私のものか?第4章
雇われ助っ人――市場と倫理どちらが正しいのか――徴兵と傭兵
志願兵制の場合
金をもらっての妊娠
代理出産契約と正義
妊娠を外部委託(アウトソーシング)する第5章
重要なのは動機――イマヌエル・カント権利に対するカントの見方
最大幸福の問題点
自由とは何か
人格と物
道徳的か否かを知りたければ動機を見よ
道徳の最高原理とは何か
定言命法 対 仮言命法
道徳と自由
カントへの疑問
セックスと嘘と政治第6章
平等をめぐる議論――ジョン・ロールズ契約の道徳的限界
同意だけでは不十分な場合――ベースボールカードと水漏れするトイレ
同意が必須ではない場合――ヒュームの家とスクイジー・マン
利益か同意か? 自動車修理エサムの場合
完璧な契約を想像する
正義の二つの原理
道徳的恣意性の議論
平等主義の悪夢
道徳的功績を否定する
人生は不公平か第7章
アファーマティブ・アクションをめぐる論争テストの差を補正する
過去の過ちを補償する
多様性を促進する
人種優遇措置は権利を侵害するか
人種隔離と反ユダヤ的定員制限
白人のためのアファーマティブ・アクション?
正義を道徳的功績から切り離すことは可能か
大学の入学許可を競売にかけては?第8章
誰が何に値するか?――アリストテレス正義、目的因(テロス)、名誉
目的論的思考:テニスコートとクマのプーさん
大学の目的(テロス)は何か?
政治の目的は何か?
政治に参加しなくても善い人になれるか
習うより慣れよ
政治と善良な生活
ケイシー・マーティンのゴルフカート第9章
たがいに負うものは何か?――忠誠のジレンマ謝罪と補償
先祖の罪を償うべきか
道徳的個人主義
行政府は道徳的に中立であるべきか
正義と自由
コミュニティの要求
物語る存在
同意を超越した責務
連帯と帰属
連帯は同族を優遇する偏見か?
忠誠は普遍的道徳原理に勝るか?
正義と善良な生活第10章
正義と共通善中立の切望
妊娠中絶と幹細胞の論争
同性婚
正義と善良な生活
共通善の政治謝辞
原注
マイケル・サンデル [Michael J.Sandel]
1953年生まれ。ハーバード大学教授。ブランダイス大学を卒業後、オックスフォード大学にて博士号取得。専門は政治哲学。2002年から2005年にかけて大統領生命倫理評議会委員を務める。
1980年代のリベラル=コミュニタリアン論争で脚光を浴びて以来、コミュニタリアニズムの代表的論者として知られる。主要著作に『リベラリズムと正義の限界』、Democracy’s Discontent、Public Philosphyなどがある。
類まれなる講義の名手としても著名で、中でもハーバード大学の学部科目「Justis(正義)」は、延べ14,000人を超す履修者以来初めて講義を一般公開することを決定、その模様はPBSで放送された。この番組は日本では2010年、NHK教育テレビで『ハーバー白熱教室』(全12回)として放送されている。
鬼澤 忍(おにざわ・しのぶ)
訳者
翻訳家。1963年生まれ。成城大学経済学部経営学科卒。埼玉大学大学院文化科学研究科修士課程修了。おもな訳書にワイズマン『人類が消えた世界』、ハート『ダイヤモンド』(以上早川書房刊)、バーンスタイル『華麗なる交易』、ローウェンスタイン『なぜGMは転落したのか』、マエダ『シンプリシティの法則』など多数。
コメント
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