宇宙法則のグランドデザイン!『ホーキング、宇宙と人間を語る』

スティーヴン・ホーキング、レナード ムロディナウ『ホーキング、宇宙と人間を語る』書影 40 自然科学

2010年に発表された『The Grand Design』の日本語訳版です。

人類は太古の昔から、「なぜこの世界はあるのか」「なぜ私たちはいるのか」と問い続けてきました。そこから、科学が生まれ、哲学が生まれ、信仰が生まれ、芸術が生まれました。

ホーキング博士は、宇宙には巨大な設計図があると言います。それが「グランドデザイン」です。

その設計図を解き明かすことこそが、人類が抱き続ける「なぜ」「どうして?」に終止符が打たれるでしょう。

自然法則はいかに創られたか?

第1章「自然法則はいかに創られたか?」は、人が日食や月食の予想もできなかった頃から話は始まります。時折訪れる「食」は、天が気まぐれに起こすのではなく、規則性があることに気づきます。

天文学のはじまりです。

と言っても、自然は混沌の世界。地震や火山の噴火、台風、病気など「災い」は、神さまの仕業、天罰だと考えるしかありませんでした。

古代ギリシアの哲学者、タレスは、自然は秩序ある原理に従っているとしました。現在へつながる物理学のスタートです。

記録に残る中で、最初に自然法則を定式化したのはピタゴラスでした。楽器の元の長さと音の周波数が比例することを説明しました。

ついで、アリキメデスによって、「テコの原理」「浮力の法則」「反射の法則」が記述されました。

歴史としても、物語としても

人類の歴史は、ひとつひとつ秩序ある法則を積上げてゆく歴史でもあります。

そこには、悲喜こもごも物理学者たちの人間模様も潜んでいます。「物理ってなんだか難しそう!」と苦手意識があるなら、物語集として楽しんでみるのも一興でしょう。

この世界はどうなってるの?

モデル依存実在論

現代の量子力学は「ここに量子がある」と言っても、それを実際に知覚することは不可能です。ですから私たちは、モデルを作り、そこに当てはめて考えます。それを「モデル依存実在論」と言います。

モデルを立てて考える限り、常にモデルというフィルターを通して世界を見ることになります。モデルが歪んでいれば、世界で歪んで見えます。それは、丸い金魚鉢の中の金魚が、外の世界が歪んで認識していることと同じです。

しかし、金魚鉢の金魚も、外の様子をじっくりと観察すれば、物理法則を見つけることができるでしょう。確かに像は歪んでいますが、金魚鉢の外で起こっている事柄の法則性は変わらないからです。

宇宙を、宇宙の外側から見ることができれば、その構造は一目瞭然です。しかし、それは不可能で、宇宙の内側から外を眺めることしかできません。人類も、宇宙という金魚鉢に閉じ込められた金魚と同じなのです。

しかし、注意深く外の様子を観察すれば、法則性が見い出せるのです。

良いモデル

良いモデルの例も提示されていました。

  1. 簡潔である。
  2. 任意の、あるいは調節のできる要素が少ない。
  3. すべての観測事実を矛盾なく説明できる。
  4. 将来の観測に関する予言、特にその内容が観測結果に合わなければモデルが間違っていると分かるような詳細な予言ができる。

『ホーキング、宇宙と人間を語る』p.73-74

これらを満たすことで、ずっと頭の中で扱いやすくなります。ややこしいモデルだと、考えるのもややこしいですからね。「歪んでいてもいい」というモデル依存実在論を知ると、なんだか自分も、新しい物理法則を考えることができるんだと勇気も湧いてきます。

一度は否定された理論の中にも―宇宙定数

また、一旦は否定された法則も、再び復活することもあります。アインシュタインは自身の理論に「宇宙定数」を盛り込みましたが、後にこれが否定され、アインシュタインも誤りを認めました。「宇宙定数の導入が生涯の最大の過ち」と悔いたエピソードは有名です。しかし、この宇宙定数は、再び着目されています。

物理法則の解明は、柔軟でダイナミックな発想が肝心です。

素朴な気持ちや好奇心を思い出す一冊

「物理なんてとっつきにくいなぁ」という人も、物理学者たちの苦節ン千年の歴史だと思えば楽しめるはず。大河ドラマですね。中学校で習った理科を思い出しつつ、チャレンジしてみてください。

ここで語られることは、小難しい、理屈にまみれた話ではありません。

「この空の向こうになにがあるのだろう」「私はなぜここにいるのだろう」「この気持ちはどこから来るのだろう」

ホーキング博士も幼いころ胸に宿した衝動のままに、突き進んでこられたのでしょう。そんなロマンチックで好奇心に満ちた一冊です。

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ホーキング、宇宙と人間を語る

  • 著者:スティーヴン・ホーキング、レナード・ムロディナウ
  • 翻訳:佐藤 勝彦
  • 発行所:株式会社エクスナレッジ
  • 2011年1月5日

目次情報

  • 第1章 この宇宙はなぜあるのか?――存在の神秘
  • 第2章 自然法則はいかに創られたか?――法則の決まり
  • 第3章 実在とは何か?――モデル依存実在論
  • 第4章 すべては無数の歴史の足し上げで決まるのか?――量子論の描く世界
  • 第5章 万物の理論はあるのか?――無数の宇宙を予言するM理論
  • 第6章 この宇宙はどのように選ばれたのか?――相対論と量子論の描く宇宙像
  • 第7章 私たちは選ばれた存在なのか?――見かけ上の奇跡
  • 第8章 グランドデザイン――宇宙の偉大な設計図
  • 謝辞
  • 訳者あとがき
  • 用語集

著者紹介

スティーヴン・ホーキング(Stephen Hawking)

ケンブリッジ大学ルーカス記念講座教授を30年にわたり務める。現在も、筋萎縮性側索硬化症と闘いながら、精力的に研究を続けている。1942年、オックスフォード生まれ。オックスフォード大学、ケンブリッジ大学大学院で物理学と宇宙論を専攻。1974年、史上最年少の32歳でイギリス王立協会会員となる。2009には、アメリカのオバマ大統領から大統領自由勲章を授与された。著書に『ホーキング、宇宙を語る』(早川書房)、『ホーキング、未来を語る』(ソフトバンククリエイティブ)、『ホーキング、宇宙の全てを語る』(ソフトバンククリエイティブ)、『ホーキング、宇宙の全てを語る』(ランダムハウス講談社)などがある。

レナード・ムロディナウ(Leonard Mlodinow)

カリフォルニア大学バークレイ校にて博士号を取得後、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団招聘研究員などを経て、現在はカルフォルニア工科大学にて物理学を研究している。著書に『ユークリッドの窓』(NHK出版)、『ファインマンさん最後の授業』(メディアファクトリー)、『ホーキング、宇宙のすべてを語る』(ランダムハウス講談社)、『たまたま――日常に潜む「偶然」を科学する』(ダイヤモンド社)などがある。

訳者紹介

佐藤 勝彦(さとう・かつひこ)

東京大学名誉教授、大学共同機関法人自然科学研究機構長。1945年、香川県生まれ。京都大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。北欧理論原子物理学研究所客員教授、東京大学理学部助教授、東京大学大学院理学系研究科教授、ビッグバン宇宙国際研究センター長、明星大学客員教授などを経て現職。専門は宇宙物理学、宇宙論。インフレーション理論の提唱者の1人であり、国際天文学連合宇宙論部会長、日本物理学会会長を務めるなど、その功績は全世界に認められている。著書に『宇宙はわれわれの宇宙だけではなかった』(PHP研究所)、『相対性理論』『宇宙論入門』(岩波書店)、『宇宙137億年の歴史』(角川学芸出版)、『インフレーション宇宙論』(講談社)などがある。

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