
「働く」ことは、誰にだって同じことなのかもしれません。14歳の魔女、キキも同じです。
魔女の修行のためにコリコの町へやってきたキキも、宅急便をはじめて2年目です。お届け物を請け負って、町の人に喜んでもらっています。キキの貢献で、魔女への悪いイメージも払拭されつつあります。
しかし、キキの仕事は順風満帆ではありませんでした。「町の人に喜んでもらいたい」と始めた仕事なのに、不意に「黒い手紙」を運んでしまったからです。結局は勘違いだったのですが、キキが運んでいる物は、人の良心ばかりではないのかもしれません。
キキは悩み戸惑います。自分の仕事について、魔女について、自分の持っている魔法について。
働くこと。キキの悩み・仕事の悩み
1巻のあらまし/魔女の修行をはじめるキキ
『魔女の宅急便』1巻では、13歳の魔女・キキが親元を離れ、コリコの町で単身修行を始めました。キキはあどけなく、一人ぼっちで寂しい一方、新たな町で人々と関わり、生きる楽しさや初々しさでいっぱいでした。一時帰省したけれど、やっぱりコリコの町へ早く帰りたいと思いました。
人は「優しい心」「嬉しい気持ち」ばかりじゃない……
2巻ではコリコの町の、オソノさんのグーチョキパン店へ帰るところからお話が始まります。気分も新たに2年目の修行がはじまりますが、キキを待ち受けるものは、なんだか割り切れない、モヤモヤすることでした。
「黒い手紙」を運んでしまったことから始まり、キキの胸は戸惑い、悩み、迷い始めます。
キキの悩みは、どんな仕事にもついて回るものではないでしょうか。その中で、キキはどんな答えを導き出すのでしょうか。
人の死・老い、そして思春期の恋心
町の人々との交流は、嬉しいものばかりではありません。人間が年老いてゆく様子や、人の死にも出会います。人と関わるということは、そういうことです。
そして、キキは年頃の娘さんです。男の子のことが気になっちゃうし、おしゃれもしたい。キキは、コスモス色のワンピースを着て、出かけます。
そして、キキはまだ気づいていない恋心。
人が生まれること、生きること
暗示的に「性」にまつわることも、描かれます。キキと出会った頃、妊娠中だったオソノさんは出産を無事に終え、子育ての最中です。そしてまた、新たな命を身ごもります。
キキが、赤ちゃんの写真をパパへ届ける仕事もしました。せっかく赤ちゃんが生まれたばかりなのに、遠くの島で仕事に没頭するパパ。そんなに重大な仕事って、どんなものなんでしょうか。しかし、離れ離れでも、それはその夫婦・家族のカタチのようです。
キキが魔女じゃなかったら?
そしてどうやらキキは、魔女であることにコンプレックスを抱いているようです。みんなが親切にしてくれるのは、キキが魔女だから?魔女じゃなかったら、誰もキキに見向きもしないの?
空を飛んでお届け物最中のハプニングから、キキは魔法を使わず自分の足で歩きまわるようにしました。魔法に頼り過ぎないようにです。そのおかげで、空の上からじゃ出会えない人々に出会います。
成長は人との関わりの中にある
キキは仕事を通して人々に出会い、そのせいで思い悩みます。そして、人々との関わりの中で、キキも少しずつ成長してゆきます。
魔女修行も次巻で3年目に突入です。
キキは、どう仕事と向き合い、生きるのでしょうか。続きが楽しみです。
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新装版 魔女の宅急便 2 キキと新しい魔法
- 作者:角野栄子
- 発行所:株式会社KADOKAWA
- 2013年5月25日
目次情報
- キキ、コリコの町に帰る
- キキ、カバを運ぶ
- キキ、空色のかばんを運ぶ
- キキ、森の窓を運ぶ
- キキ、シャツを運ぶ
- キキ、赤ちゃんの写真を運ぶ
- キキ、おしゃれの自分を運ぶ
- キキ、黒い手紙を運ぶ
- キキ、りんごを運ぶ
- キキ、さんぽを運ぶ
- キキ、赤い靴を運ぶ
- キキ、町の女の子を運ぶ
- キキ、おいもを運ぶ
- キキ、運動靴を運ぶ
- キキ、湯たんぽを運ぶ
- キキ、種を運ぶ
作者紹介
角野 栄子(かどの・えいこ)
東京生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。25歳からのブラジル滞在の体験を描いた『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』で作家デビュー。以来、第一線で活躍する。1982年『大どろぼうブラブラ氏』で産経児童出版文化賞大賞、84年『わたしのママはしずかさん』で路傍の石文学賞、『ズボン船長さんの話』で旺文社児童文学賞、『おはいんなさい えりまきに』で産経児童出版文化賞、85年『魔女の宅急便』で野間児童文芸賞、小学館文学賞、IBBYオナーリスト文学賞など多数受賞。2000年紫綬褒章、14年旭小受章を受章。
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