『エネルギー問題の誤解 いまそれをとく』を読んだよ

京都の揚屋、数寄屋建築の角屋の外観 30 社会科学

かつて人々が舞い、鑑賞した能を疑似体験?

薪能(たきぎのう)と呼ばれる能があります。夜間、舞台の周りに篝火をたき、能を舞うのです。
神事として舞われたのがルーツですが現代でも各地で公演され、燃え盛る篝火に照らされる風景が、その間だけ、かつて電力のない時代の人々が見た脳の姿を目の当たりにしているように思います。

長い長い芸能の歴史の中で、ほとんどの時代にはスポットライトもなかったのですから、昔の人が演じ、見た姿を現在ではなかなか目にする機会がありません。

ろうそくの明かりに浮かび上がる数寄屋建築に思いを馳せる

京都市に現存する「角屋」と呼ばれる数寄屋建築があります。江戸時代の揚屋(高級遊女を呼び遊ぶ場)として建てられ、京都・島原で唯一現存する揚屋の建物です。新選組や桂小五郎、久坂玄瑞など、幕末の志士達も訪れたそうです(仲間内で会合をしていた?)。館内を案内していただき「これは円山応挙の画ですねぇ~」とサラリと紹介されたり、その豪華さに驚きました。

現在も期間限定で内部を見学できます。さすが高級揚屋は、隅から隅まで美しい建具や屏風が使われ目を奪われるばかりです。壁がすすけ、それを磨き上げた独特の艶が印象的です。
電気のない時代、照明は炎でした。角屋では一級品のろうそくが使われていたそうで、ろうが解け、燃えるとすすがでます。壁がすすけてしまうのはどうしようもないことらしいのです。

ふと、ろうそくの明かりでこの綺羅びやかな室内を照らすと、一体どのような風景が浮かび上がるのだろうか、金箔や貝殻が炎にちらちらと照らされた姿はどのようなものだろうか、と、想像が膨らみます。
残念ながら、とてもとても貴重な建物ですから、火はご法度。私達がその姿を目にすることはできないでしょう。

電力のない時代の生活、社会を忘れてしまった

明かりというものは、街の姿を変え、目に見えるものを変え、時間の感覚や、世界のあり方さえも変えてしまうものようです。私たちはもう、蛍光灯のなかった時代の街の姿、時間の流れ、どのような生活をしていたのか想像できません。

近代の明かりを大きく変えたものは電力です。私たちの生活の全ては、電力なくしては成り立ちません。現在のほとんどの世代は、すでに電気のなかった時代を知りません。もちろん、電力がもたらした恩恵は、明かりだけではありません。電力の普及は、ありとあらゆる日本の風景を変えたでしょう。かつて、私たちの先祖がどのように生きていたのか忘れてしまったのです。

しかしながら現在、私たちは電力エネルギーの大きな問題に直面しています。エネルギーがいずれなくなってしまうことに、日本人が初めに実感したのは、1970年代のオイルショックでしょう。日本国外で起こる情勢が、私たちの生活そのものに大打撃を与えることを痛感したのかもしれません。

発電方法の一長一短、電力が十分でなければいけないワケ

『エネルギー問題の誤解 いまそれをとく』では原子力発電をはじめ、化石燃料による発電や、自然エネルギーを使った発電の一長一短が客観的に紹介されており、化石燃料が良い/悪い、自然エネルギーが良い/悪いと、一概に判断ができないことが分かります。もちろん、原子力発電による安全性やその害は周知ですが、反面、電力が足りなくなる混乱や、それによりもたらされる害も考えなければなりません。
本書では、電力は枯渇してはならず、常に供給され続けることを前提として考えるよう警鐘しています。確かに、電力は私たちの社会を形作り、命をつないでいるものです。停電する=エアコンが使えない、病院や公共施設が機能停止するなどの、直接的な混乱もさることながら、停電により失業したり、会社が倒産し露頭に迷う家族や、失業や消費の低下など、考えなければなりません。

さらに、国土やその土地の持っている歴史は、その国々により様々です。日本の例が外国に当てはまるわけでもなく、同じく外国の例が日本では通じないことがたくさんあります。要は、お手本がないのです。
しかし、これから経済発展をしようとしている途上国が、現在のエネルギー問題を直視し、どのようなエネルギー供給を国内に取り入れてゆくのかは、参考になるのかもしれません。

原子力発電に反対する人はもちろんですが、賛成派の殆どの人も短期的には原発も致し方なしと考えているにすぎず、長期的には廃炉にすべきだと考えているのではないでしょうか。私たちの生活に直接関わることですから、感情的にもなってしまいます。しかし、命にかかわる事柄だからこそ、冷静な目線、考えを知る必要がありそうです。

エネルギー問題の誤解 いまそれをとく エネルギーリテラシーを高めるために

  • 著者:小西哲之
  • 発行所:株式会社化学同人
  • 2013年8月10日

著者略歴

小西 哲之(こにし・さとし)

1981 年、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。1981~2003年 まで日本原子力研究所、2003 年から京都大学エネルギー理工学研究所教授、2008~2013 年同大学生存基盤科学研究ユニット長併任。博士(工学)。研究分野は、核融合工学、エネルギーシステム評価、サステナビリティ学。
核融合、先進原子力などのエネルギーシステムの工学と、一方でh安全性や環境、社会や経済への影響を評価する研究、さらには地球環境問題や人類の持続可能な発展を考える学際領域「サステナビリティ学」の研究に従事している。

コメント

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