現場の声を、伝えること。
問題やトラブルを、把握すること。
「現場力」ってなに?
改善点を見つけること
現場力って、改善点を見つけることです。
現場では、問題点が目に見えて噴き出します。システムの不具合や、上手くいかないことを、現場の人は知っているんです。
その現場での問題をどうやって吸い上げるか。そして、どう問題を解消するのか。これによって、効率や収益にも大きな変化につながります。
『現場力の教科書』では、実際に現場力を見極め、改善に成功した企業の事例がたくさん紹介されています。
「失敗した人を責める」は逆効果
現場の問題を見つけるといっても、決してしてはいけないのは、失敗やミスを責め立てること。
失敗がバレると制裁が待っていると知ると、人は失敗を隠そうとします。現場の問題、都合の悪いことが隠蔽されていってしまうと、全体にとっても困った事態です。
現場力を高めるにはまず、きちんと現場で起こっていることを把握することです。それは、良いことも、悪いこととも。
言いにくいことや、失敗、ミス、不具合もすべて把握され、即、改善や修繕など、問題解決のために動き始める。
その土壌づくりが、現場力なのだなぁと思いました。
どんどん「改善文化」を回してゆく
「現場力」のことを、本書『現場力の教科書』では「改善文化」とも呼ばれていました。
問題発覚は、隠蔽すべき悪い事柄ではなく、きちんと問題解決に取り組むべき事柄です。問題が取り除かれた現場が、以前よりもずっと良いものになります。
それを繰り返し、どんどん「改善文化」を回してゆくことで、企業全体が成長してゆくのです。
大学の講義のような内容(の、コンパクト版)
『現場力』の教科書は、全15回の講義と補講という形式の章立てです。模擬的な大学の講義なんですね。
ですが、ページ数は多くないので、全15回の講義のコンパクト版といったところ。
コンパクト版なのでサクッと読みやすい反面、深い知識や、より専門的な内容を知りたい人には不向きです。
あくまで、「現場力」という考えを知るための、コンパクト版。ここを出発点に、より深い内容へ進んでゆきましょう。
起業の取り組み、具体例がオモシロイ
実際に、企業がどのような取り組みをしているのかもたくさん紹介されており、これだけでも面白かったです。
例えば、トヨタでは自動車の組み立て現場でトラブルがあれがすぐに、天井からぶら下がった紐を引くだけで、担当者が飛んでくる。どこでトラブルが起こっているか一目でわかるよう、「アンドン」という光で知らせるシステムが採用されています。
旭山動物園は、ユニークな展示が話題になり、今や北海道を代表する観光名所です。しかし、もともと旭山動物園は、廃園寸前にまで陥っていた動物園でした。しかし、飼育員を「飼育展示係」を呼び、その動物の持っているオモシロイ特性や、ユニークな姿を最も引き出せる「見せ方」を徹底しました。と言っても、経費は限られていますから、手作りで、発想の転換で「見せた」のです。
社員同士の距離を縮めることで、「現場力」を高めた企業もあります。毎週、全社員出席でバーベキューを開くのです。最初の内は、嫌がる社員もたくさん居ましたが、続けていくうちに社員同士にもメリットが実感できるようになってからは、進んで参加する人が増えたそうです。
どんな「現場力」が必要なのかは、その起業、組織によって違います。ですから、例はあくまで一例でしかないのですが……本当に、企業にとって必要なことって違うんだなぁというのを知れて、面白く思いました。
なにが必要か、どんな現場力が欲しいのか、ってことこそが、その組織の持っているものなんでしょうね。
自分の働き方、これからの仕事を考える
『現場力の教科書』で書かれていることって、企業や組織全体で考え、実践する内容です。
ですから、まさに現場で働く自分ひとりだけが、「現場力」を知ったところで、組織が変わるわけではありません。正直、多くの「現場」で働く人にとっては、読んでもどうにもならない本でしょう。
じゃあ、読んでも仕方がない?
いいえ、それでもやっぱり「現場」の持っている力について知る、考えるのは、とても意味のあることです。
それは、今現在の自分の仕事を考えること。自分の働き方を考えることです。そして将来の、これからの仕事、これからの働き方を考えることです。
もう、終身雇用を前提に考えている人もいないでしょうから、誰もが今後、数回の転職を想定しています。だから、自分の仕事、自分の働き方を常に考えておかねばなりません。
これから、新しく「仕事」に関することに触れたいなぁという人に『現場力の教科書』をおすすめします。
「現場」の力は絶大だし、みんなで問題や改善点をシェアしあう必要性を、大きく感じます。
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現場力の教科書
- 遠藤功
- 光文社
- 2012/9/14
目次情報
はじめに~戦略と実行は一体のものである
講義1 「現場力」とは何か?
経営の3つの要素/ビジョンや戦略だけで勝つのは難しい/「現場力」という競争上の優位性/現場とは価値創造に関わるすべての職場/オペレーショナル・エクセレンス/すべてはお客さまのために
ケーススタディ1 利益を生み出すことができる花王の現場講義2 戦略と現場力の整合性
戦略と現場力は一体のもの/なぜ花王は情報機器事業から撤退したのか/「ビジネスモデル」とは何か/「資源ベースアプローチ」と現場力
ケーススタディ2 戦略と組織能力の一貫性で世界一を実現したトヨタ講義3 バリューセンターとしての現場
現場は多用な価値を生み出している/現場をコストとして位置づけたことによる弊害/現場力を測る5つのものさし/二律背反の克服/逆ピラミッドの三角形
ケーススタディ3 現場から新事業を生むヤマトホールディングス講義4 現場力とは自律的問題解決能力
強い現場をつくる3つの条件/問題は現場力を高める梃子/「問題」とは何か?/「設定型の問題」によって現場力を磨く
ケーススタディ4 奇跡の現場力で絶大な人気を獲得した旭山動物園講義5 平凡の非凡化
小さな改善の積み重ねが大きな成果を生む/改善の3つのレベル/業務の3の特性/よい「くせ」を付ける/無意識の行動習慣こそ本物の現場力/有事の現場力vs平時の現場力
ケーススタディ5 現場力を磨き、世界一になったサンドビック瀬峰工場講義6 サービス業における現場力
サービス業の特性/真実の瞬間/サービスはポリシーで提供する/サービス・トライアングル
ケーススタディ6 サービス力で他を圧倒する千葉夷隈ゴルフクラブ講義7 流通業における現場力
流通業の変化と業界再編/流通業とチェーン・ストア・オペレーション/個店主義による店づくり、売場づくり/店長の割合と本部の割合
ケーススタディ7 逆境をチャンスに変えたコープさっぽろ講義8 現場力は三位一体によって生まれる
ボトムアップはトップダウンから引き出される/ミドルアップ・ミドルダウン/スモールチームで知恵を競う/現場リーダーの役割
ケーススタディ8 「管理職から支援職へ」を推進する天竜精機講義9 現場力を支える共通の価値観
「らしさ」を明確にする/「ウェイ」を制定しただけでは意味がない/人のプラットフォーム
ケーススタディ9 「コマツウェイ」で「日本国籍グローバル企業」を目指す講義10 PDCAサイクルと褒める仕組み
「場」でPDCAサイクルを回す/褒める仕組みで現場力を高める/「小さな声掛け」が何より大事
ケーススタディ10 テッセイの「エンジェル・リポート」講義11 組織密度と組織熱量
一体感とエネルギーの熟成/組織密度はコミュニケーションで高まる/健全な対立関係/物理的な壁を取り除く/組織熱量は共通の夢から生まれる
ケーススタディ11 バーベキューで組織密度を高める都田建設講義12 現場力が生まれるメカニズム
自走する現場をつくる/5-20-100の理論/「個の情熱」から「組織の執念」へ
ケーススタディ12 「安全の番人」をつくるJR東日本講義13 現場力の海外移転
海外シフトが進む日本の製造業/木に竹は接げない/マザーベースとしての日本の現場
ケーススタディ13 中国でヤマト流の現場力を育てるヤマト運輸講義14 現場力と「見える化」
問題解決の第一歩は問題発言/「アンドン」の3つの意味/問題亜紀欠のPDCA/「見える化」の5つのカテゴリー
ケーススタディ14 店舗における「見える化」で大きな効果を上げるイトーヨーカ堂講義15 「見える化」の落とし穴
「見える化」で成果が上がらない原因/情報共有ではなく、共通認識の熟成を目指す/「つなぐ化」で成果が上がらない原因/情報共有ではなく、共通認識の熟成を目指す/「つなぐ化」「粘る化」による風土革命
ケーススタディ15 「見える化」で生産性を上げたソフトウェア会社補講1 強い現場を生み出すための7つの要素
補講2 現場力とコア・コンピタンス
補講3 バリュー・ドリブンかインセンティブ・ドリブンか?
おわりに 参考文献
遠藤 功(えんどう・いさお)
早稲田大学ビジネススクール教授。株式会社ローランド・ベルガー日本法人会長・早稲田大学商業学部卒業。米国ボストン・カレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職。カラーズ・ビジネス・カレッジ学長。中国・長江商学院客員教授。株式会社良品計画社外取締役。著書は『経営戦略の教科書』(光文社新書)、『ビジネスマンの基礎知識としてのMBA入門』(共著、日経BP社)『現場力を鍛える』『見える化』(以上、東洋経済新報社)、『課長力』(朝日新聞出版)など多数。
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