『フランス人は10着しか服を持たない』|異文化の中でメンターに出会う

こんにちは。あさよるです。年末、大掃除がそろそろ話題になりはじめていて、片付けや掃除なんかの本を読みたいモード。今日読んだ『フランス人は10着しか服を持たない』は、人からすすめられた本でもある。しかも、外出先で本を読んでいたら初対面の人に話しかけられて、「最近何を読んだのか」という話題でこの本をおすすめされた。「読んどきます」と答えたので、律義に一応読んでみる。

本書は以前に話題になっていたのは知っていたから、読んだものとばかり思っていたが、そんなことはなかったみたい。単にシンプルライフやミニマリストの本かと思いきや、異文化の中で自分のスタイルを見つけてゆく過程がまとめられていて、一人の人間の成長期というか、未熟だった若者が成熟してゆく様子がサラッと書かれていて、さわやかな気持ちだ。

メンターと出会うこと

わたしたちは時々、尊敬したり憧れたりできる人物に出会えることがある。そういう人物のことを「メンター」とか「師匠」とか呼ぶんだろうけれども、わたしはあまり、そういう言葉を使うのは好きじゃない。言葉として「この人はわたしのメンターだ」と認識してしまうと、なんだか言葉に縛られてしまって、本当に大事な本質をうっかり見失ってしまいそうな気がするからだ。だから、わたしは「メンター」とか「師匠」とかいちいち考えずに、ただただ「すごい!」「すてき!」「おもしろい!」と心躍らせることに専念している。

そして、過去を振り返ると「あの頃に出会ったあの人は、わたしの師匠だったのだなぁ」とわかる。夢中になって、一心にその人の持っている「なにか」を吸収しまくっていたり、好奇心や、あるいは反発・怒りを抱いていたりして、わたしの血肉となっていたことに、後々気づくから。

10代の多感な頃の出会いを話題にしがちだけれども、未成熟な子ども時代の考えや発想よりも、大人になってから、つまり20代以降に自分の身に起こった出来事の方が、大人の身体で感じて考えているだけに、実はより密度が濃いんじゃないかと思っている。社会的な経験はね。

『フランス人は10着しか服を持たない』は、以前話題になってタイトルくらいは知っている人も多いかもしれない。カルフォルニア出身の著者、ジェニファー・L・スコットさんが、パリに留学した際、ホームステイ先のホストファミリーを通じて、パリの文化に触れた経験から、シンプルライフを見出す話だ。と言っても、彼女は留学後すぐに新しい生活に突入したわけじゃない。カルフォルニアへ帰国後、また元の生活に戻ってしばらく時間が経ってから、パリでのホストファミリーの暮らしぶりを思い出し、そして彼らが良いお手本だったことを知る。

つまり、学生時代が終わってから、当時出会った人物が自分のメンターであることを知る。留学中は慣れない土地で、違う文化の中で生活するのに夢中だったんじゃないだろうかと想像する。だから、その最中は何が何だかわからないんだけれども、しばらく時間が経って落ち着いた時に「自分は特別な経験をした」と気づく。

「満足」は自分が決める

で、『フランス人は10着しか服を持たない』は、アメリカ人がフランスの文化に触れて、カルチャーショックの中から、自分の生き方を見出してゆく物語だ。もともと著者は、飽食で物が有り余った生活の中から、質素で倹約なパリでの生活に、ホームステイで半強制的に放り込まれる。ホストファミリーの夫婦は、ムッシュー・シックとマダム・シックと本書では呼ばれている。とくにマダム・シックが、著者のメンター的存在になってゆく。

彼らは「シック」に生きている。「シック」とは服装や髪型のテイストだけじゃなくて、生き方そのものがシックなのだ。つまり、服装も髪形も生き方も、その人のスタイルだ。そして、パリで出会う人たちは、みなそれぞれに「スタイル」のある人ばかりだったと回想される。

クローゼットに入っている服も最低限で、だけど質の良いものが用意されている。決して、寝巻姿で家の中を歩き回らず、家庭内でもきちんとした服装をしている。厳選された調度品に囲まれ、一番良い食器でいつも家族が食事を取っている。普段はテキトーにやっておいて、特別な日だけ着飾るのではなく、日頃の平凡な毎日こそ良い物に囲まれ、良い環境で過ごしているのだ。

質素で最低限の生活なんだけれども、選び抜かれた道具たちに囲まれ、折り目正しく生活することは、生活そのものが豊かで充実している。そんな価値観・世界観に、著者は留学で初めて触れたのだ。読んでいると、やっぱりアメリカは豊かで物が溢れていることがわかる。パリでは、どんなものも大事に大事に手入れしながら使わないといけないそうだ。例えばパリでは女性用下着が壊れやすいから乾燥機にかけられないと書かれていた。

大事なのは「自分のスタイル」を持っていることだ。自分のスタイルがあれば、購買欲を煽ってくるセールスにいちいち反応しなくていいし、ブームや見栄に振り回されることもない。「自分が満足できる」ことに集中できれば、それだけで豊かだ。何に満足を感じるのかは、周囲と比べなくても、自分で決めればいい。

長く使える良い物を持つ

今、日本でもアメリカの量販店が全国展開されていて、大量に食品や生活雑貨を購入することで、倹約に努めている人もいる。それは一つの生活スタイルだろうけれども、だからこそ「物を手入れしながら大事に使う」という素朴なことを、時々思い出しておいても悪くはないだろうと思う。

わたしはどちらかというと、大量にものを買いこむタイプではなく、多少割高でも必要なときに必要なだけ買えばいいやと思っている。もちろんセールで安く買えたらラッキーだけど、焦って要らないものや、中途半端なものを買うよりは、よく考えてから定価で買ったほうがいいんじゃないかなぁと考える。なので、買い物にでかけても、何も買わずに帰ってくることも多い。

それでも、これまでは家には物がたくさんあって「安い物を買わなきゃいけない」と思っていた。ここ数年、片づけを進めていて、持ち物がかなり厳選できるようになってからは、「良い物を、それなりの値段で欲しい」思うようになった。これはかなり心境の変化だ。できれば、何年も何十年も手入れしながら長く使えるものが欲しい。だから、デザインや素材にもこだわりたい。オーダーメイドしたいとも思う。それは浪費ではなく、むしろ以前よりも使うお金は減っているから、ふしぎな話。

異文化の中から

『フランス人は10着しか服を持たない』では、メンターと出会うこと、異文化に刺激されることが、読みどころだろう。本書は著者学生時代の若い頃の経験をもとに自分のスタイルを確立してゆく過程が収められているけれども、いくつになってもメンターにも出会うし、異文化にも触れる機会は続くと思う。

そのときに、自分が全身でぶつかってゆける準備はしておきたい。自分を動かすのは好奇心かもしれないし、違和感や戸惑いから始まるかもしれない。面白く楽しい経験かもしれないし、怒りや反発から自分のスタイルを見つけるかもしれない。ときどき、自分をひっかきまわす「何か」に、これからも出会うだろう。

そのとき、本書の著者、ジェニファー・L・スコットさんのように、メゲずに挫けずに、よく周囲を観察して、自分をつくる力としたい。本書『フランス人は10着しか服を持たない』から学べることがあるなら「メンターを持つこと」と「異文化に触れること」が、「シンプルライフ」というテーマでまとめられていることだろう。生活をテーマにしているから、自分の経験が、生き方そのものを大きく変えることがよくわかる。

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フランス人は10着しか服を持たない

目次情報

Introduction 日常が突然、特別なものに見えてくる

Part1 食事とエクササイズ

Chapter1 間食はシックじゃない

間食をしたくならないインテリア
おやつを食べるなら体に良い物を
食べながら歩くなんてあり得ない!
お腹を空かせて夕食を心から楽しむ
きちんとした食事がいちばん大事

Chapter2 食べる喜びを我慢しない

情熱をもって食べる
味わうことに集中する
珍味のテクニック
ビュッフェでお皿に何をとるか?
盛りつけの重要性
朝食の前に着替える

Chapter3 面倒がらずに体を動かす

エクササイズは毎日の買い物で
フランス人はジムに通わない
自分の体つきに満足する
パリジェンヌのように暮らすテクニック

Part2 ワードローブと身だしなみ

Chapter4 10着のワードローブで身軽になる

10着のワードローブの中身
要らない服はどんどん捨てる
ワードローブ整理のためのチェック項目
自分らしい10着の選び方
1カ月実験

Chapter5 自分のスタイルを見つける

なぜその服を着ているのか?
定番のスタイルを持つ
テーマを一語で表す
世の中に向けて自分を表現する
汝自身を知れ
ありのままの自分に満ち足りる

Chapter6 ノーメイクみたいにメイクする

パリでよく見る3つのメイク
服装に合わせてメイクを変える
美肌のためにいつでも水を飲む
マッサージを定期的に受ける

Chapter7 いつもきちんとした装いで

誰に会っても自信を持っていられるように
第一印象を操作する
イケてない服は一着も持たない
後ろ姿も必ずチェック!
ラクなのにシックに見える旅行服
「もったいないから今度着る」はダメ!
素敵なナイトウェアを手に入れる
作りこまないヘアスタイル

Chapter8 女らしさを忘れずに

女らしさの決め手は姿勢
自分を表す香水を見つける
フランス女性の爪は短い
髪の手入れに時間をかけない
やり過ぎは禁物
目には見えない女らしさ

Part3 シックに暮らす

Chapter9 いちばん良い持ち物をふだん使いにする

素晴らしい家具に囲まれて暮らす
上等な食器をふだん使いにする
良いもの以外は捨てる
身近な人にもマナーを持って接する
一人のときこそ美しく振る舞う
予算内でいちばん良い物を選ぶ

Chapter10 散らかっているのはシックじゃない

なぜ散らかってしまうのか?
あせらずに、時間をかけて
物を買わない
家族にも片付けの習慣をつけさせる
決まりと規律のある暮らし
身の回りの管理
家を片付けておくその他のコツ

Chapter11 ミステリアスな雰囲気を漂わせる

沈黙は金
沈黙を楽しむ
何を話せばいいの?
打ち明け話は誰にする?
ほめられても謙遜しない
いつまでもロマンティックな関係を大切に
別人になろうとしない
ミステリアスに見せるその他のコツ

Chapter12 物質主義に踊らされない

買い物リストを持っていく
洋服の衝動買いにご用心
プライド――見栄っぱりの訓話
持っている物に満足する
新しい物好きさんへのアドセンス

Chapter13 教養を身につける

本を持ち歩く
紙の新聞を読む
インディペンデント系の映画を観る
アートに親しむ
語彙を豊かにする
テレビの時間を減らす
旅行する
新しいことを学ぶ

Chapter14 ささやかな喜びを見つける

家事や雑用を片付けるコツ
五感をフルに生かす
ひとつのことに心を集中させる
お楽しみはほどほどに

Chapter15 質の良さにこだわる

良質な食べ物を選ぶ
質の良い服を長く着る
下調べして買う
経験の質を高める
かけがえのない時間を過ごす
わたしが「暮らしの達人」になるまで

Chapter16 情熱をもって生きる

訳者あとがき

ジェニファー・L・スコット [Jennifer L. Scott]

南カルフォルニア大学卒業(演劇専攻)。大学3年生のときにフランスのソルボンヌ大学、パリ・アメリカ大学へ留学。典型的なカルフォルニアガールだったのが、パリの由緒ある貴族の邸宅で暮らすことになり、マダム・シックに出会う。女性として、妻として、母としてのマダムの生き方に感銘を受け、シックなライフスタイルに目覚める。
2008年よりライフスタイルブログ The Daily Connoisseur を執筆。アメリカの物質主義に踊らされる生活に異を唱え、美しく心豊かな暮らしやシックなおしゃれを提案。パリで学んだ素敵な暮らしの秘訣を紹介した連載記事が大反響を呼ぶ。それをもとに、各テーマをさらに掘り下げて1冊にまとめた Lessons from MADAME  CHIC (本書:『フランス人は10着しか服を持たない』)は世界12ヵ国で刊行され、ベストセラーとなった。続編 At Home with MADAME CHIC も2014年10月に刊行。イギリス人の夫とふたりの娘とチワワとともに、カルフォルニア州サンタモニカに在住。毎年ヨーロッパに滞在し、つねに新たなインスピレーションを得て、シックなライフスタイルの秘訣を発信し続けている。

神崎 朗子(かんざき・あきこ)

翻訳者。上智大学文学部英文科卒業。訳書に『スタンフォード大学の自分を変える教室』『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。』(ともに大和書房)、『ぼくたちが見た世界――自閉症者によって綴られた物語』(柏書房)、『ベスト・アメリカン・短編ミステリ』(共訳、ディーエイチシー)などがある。

コメント

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