『つながる図書館 コミュニティの核をめざす試み』|日本の〈新しい図書館〉模索中

こんにちは。図書館で育った……と言っても過言ではない あさよるです。幼い頃は毎日のように図書館へ通っていて、小学校に入学して「図書室を使っていい」と知ってから毎日休み時間のたびに図書室に通い詰めていました。10代の頃は「人と口を利きたくない」との中二的理由で本を読んでいましたw

先日、あさよるネットでも紹介した『未来をつくる図書館』を読んで、ニューヨークの図書館の在り方に心底驚きました。あさよるの図書館の利用法ってあくまで、図書館の一部なんだと知ったのです。

図書館は就職支援や起業支援もしていると『未来をつくる図書館』では紹介されていました。で、あさよるも地元の図書館をチェックしたところ、スペースは小さいですが就職支援、起業支援の情報があったー! ニューヨークの図書館ほどではないですが、地元の図書館も本の無料貸し出し以外の業務もしているようです。

そして今日読んだのは『つながる図書館』。これは日本の公共の図書館の取り組みを紹介したものです。日本でも図書館のありかたは大きく変化しているようで、全国で模索が続いている様子がわかりました。

全国の図書館の取り組み実例

本書『つながる図書館』は、実際に全国の図書館がどのような取り組みをしているのか、どのような立場に置かれているのかが紹介されています。図書館って自分が利用できる自分の街の図書館しか知らない方も多いはず。他の図書館の様子を知れるのは新鮮です。

ここでは『つながる図書館』で紹介されている実例の一部をちょろっと紹介します。

まず、最初に「武蔵野プレイス」という武蔵野市の図書館。こちら、写真で見てもめっちゃオシャレ。コンセプトは「市民の居場所」だそうで、広場や公園のようにカフェがあり、無線LANが使えて、ざわめきの中に図書スペースがあり、ギャラリースペースではコンサートが開かれることも。シーンと静まり返っていない雰囲気だから、子どもたちが多少ガヤガヤしても気になりません。ビジネスマンも子ども連れもみんなが一緒にいられる場なんです。それとは別に二十歳以上立ち入り禁止の、子どもたちだけのスペースがあって、ダンスやバンドの演奏ができるスタジオがあるというから羨ましい。「子どもたちの居場所」です。

鳥取市にある鳥取県立図書館では、入り口にたくさんのチラシが並んでおり、カウンターでは質問し辛い法律の悩みの回答などが、前もって置かれているんです。弁護士に相談すれば数万かかるところを、図書館であらかじめ問題の整理ができます。また、定期的に操業・融資の相談会や、中小企業判定士による相談や、特許相談会など実施されています。鳥取県立図書館ではビジネス支援として、農家や学校の先生や公務員を支えたり、若者の就職支援も力を入れています。そのために司書は専門の知識や人脈を持っていることが前提です。

課題解決型図書館へ

図書館の変化はが起こったのは、図書館の予算はどんどん削減される中、1999年「図書館館長は司書の資格を持っていなくてもよい」と法律が変更がなされ、次は図書館職員が「司書資格をもつ専門家でなくてもいい」と変更されるのでは?という現場の危機感が後押ししているそうです。

従来の貸出のみの業務は機械でもできますから、「司書でなければできないサービス」が模索され始めたのです。司書は専門知識を有しており、その図書館の蔵書にも精通している専門家です。図書館になくてはならない存在です。

神奈川県立図書館では、市立図書館と県立図書館という似た施設が二つもあるのは税金の無駄だとコストカットされた図書館です。横浜市にある県立図書館では貸出と閲覧の廃止。川崎市の県立図書館は廃館とされた。これは、横浜市民にとって市民図書館と県立図書館が並んであるので「二重行政」に見えてしまう。しかし、他の地域の住人からすれば、県立図書館は必要ではないのか?都市部とそれ以外での格差が広がってしまわないか? 非常時に果たす図書館の機能を考えると、簡単に「コストカット」してよいものだろうか。

従来の「利用者が欲しい本を探して借りる」という図書館のかたちから、新たな「課題を解決する」という専門家だからできるサービスへ移行しようとしている一方で、存続が問われ閉館になる図書館もあります。

賛否両論!武雄市図書館

武雄市図書館の話題はご存知の方も多いかも。TSUTAYAを運営するCCCが武雄市図書館の管理をしており、貸出カードは「Tポイントカード」で一日に一回利用すると3ポイントが貯まります。ここで、利用履歴の個人情報が守られないのではないかと懸念されています。図書館には「図書館の自由に関する宣言」というものがあり、「図書館は利用者の秘密を守る」としています。個人のプライバシーや匿名性が守られなければならないものなのです。

ざっと、本書で触れられていた武雄市図書館をめぐる賛否を上げます。

いいところ

  • Tポイントがたまる
  • おしゃれな知的空間で、デートに来る人も多い
  • 「まちづくり」としての図書館である
  • 小さな温泉街である武雄市の「集客」になっている
  • 夜間まで開いている
  • 20代、30代の若い世代の利用者が増えた
  • 司書によるコレクション構築や資料の活用

懸念事項

  • 貸出履歴がTポイント管理者に提供される可能性
  • 嘱託の館長と、嘱託の司書が最長5年契約で働く(市の直営時代と同じ)
  • 図書館に併設した歴史資料館が常設でなくなった
  • 他にもTSUTAYA図書館ができれば「珍しさ」がなくなってしまう

まず、Tカードを利用することで、利用者にとってポイントが貯まるのは嬉しいですが、個人情報がどこまで守られているのか気になります。

武雄市図書館は市の集客施設として働いているのは良いことに思えますが、他の市町村もTSUTAYA図書館を導入すれば希少性がなくなります。それでもなお「まちづくり」の中心となれるのでしょうか。

デジタル図書館

「青空文庫」は著作権が切れた作品をネットで無料公開しているデジタル図書館です。ご利用になられた方も多いはず。公的なものではなく、ボランティアが手作業で作っています。

国立国会図書館もデジタル化に取り組んでいます。これまで東京近郊に住んでいないとなかなか国立国会図書館の資料に当たるのが難しかったのですが、デジタルアーカイブが世界を変えたと言ってもいいんじゃなかろうか。また、他の図書館でも同様の取り組みがなされています。

また、図書館横断検索「カーリル」の取り組みもあります。「カーリル」ではネットで図書館の蔵書を検索できるサービスですが、図書館内から検索される機会が増えたことで「カーリルタッチ」が開発されました。図書館の棚の前でスマホをかざすと「カーリルタッチ」が起動し国立国会図書館のデータベースにアクセスできるもので、実験的に導入されているそうです。

図書館がコミュニティをつくる

まだまだ図書館の実例が紹介されているのですが、全部拾えなくて残念です。あさよるが「いいな」と思ったのは、小さな図書館の取り組みでした。例えば既存の図書館以外に町中に本を置いてもらったり、あるいは小さな図書館を街中に設置しボランティアが代わる代わる管理しながら運営するもの。単に図書館機能を外に持ち出しただけでなく、それを管理するための地域のつながりが生まれているそうです。「なんとなく顔見知り」のコミュニティができることで、住人と街の接点になっているのは良さそう。

以前、あさよるネットで『図書館「超」活用術』を紹介したとき、「自治体によって図書館サービス違うから」と書いたのですが、ますます今後多様化していくのかもしれません。神奈川県のような例もあれば、あさよるが棲んでいる大阪府下の図書館はサービスがいい方なのだなぁとしみじみ。

つながる図書館: コミュニティの核をめざす試み

目次情報

第1章 変わるあなたの町の図書館

「住みたい」と言われる図書館――武蔵野プレイス
人が集まる「広場」を作る/地域の課題だった四つの機能/司書の能力だけはできないシームレスな運営

第2章 新しい図書館の作り方

知の集積地が実現させた「これまでにない図書館」――千代田図書館
コンシェルジュが本をご案内/全国から視察が殺到/明確なガバナンスのもとにプロが作った図書館/指定管理者制度導入のメリット、デメリット

公募館長のもとに町民が創った図書館――小布施町 まちとしょテラソ
図書館が必要かを住民じゃ選ぶ/図書館をどうやって「演出」する?/「人情」の貸出システムで町中を図書館に/来館者数が七倍に

第3章 「無料貸本屋」批判から課題解決型図書館へ

鳥取県内を走る知の大動脈――鳥取県立図書館
米粉のベーカリーを貸出した図書館/図書館に入らずに悩みが解決できる図書館/図書館がビジネス支援に本気を出したら/ビジネス・ライブラリアンの育て方/鳥取県にはりめぐらされた知の大動脈

新しい公共図書館の“種”を蒔く
オホーツク海岸線の小さな町が「図書館」を考える/図書館員のバイブル『市民の図書館』が目指したもの/文科省の政策に出現した「解決型図書館」/「課題解決型図書館」誕生への道筋/地方分権一括法で訪れた図書館の危機/図書館を武器に暴力団と戦った女性

第4章 岐路に立つ公立図書館

神奈川県立図書館問題
県立図書館と市立図書館は二重行政?/神奈川県立図書館の舞台裏/都道府県立図書館と市町村立図書館で異なる基準/民間が考えた未来の神奈川県立図書館像/公立図書館の「官民協働」と「資金調達」の方法

第5章 「武雄市図書館」と「伊万里市民図書館」が選んだ道

視察が絶えない二つの図書館
本を売る図書館/“憲法”を掲げる図書館

伊万里市民図書館
市民が図書館の“誕生日”を祝う/市民を育て、町を作る図書館/「ブックスタート」や「家読」で子供を読書家に/指定管理者を入れないという決意/「市民」を冠するにふさわしい図書館

武雄市民図書館
毀誉褒貶にさらされる武雄市図書館/武雄市図書館を絶賛する地方自治体の首長や議員、研究者/桶渡市長が目指す市民価値の向上/代官山蔦屋書店の空間が図書館に/武雄市が世界に誇る武雄蘭学コレクション/「武雄市図書館」はあなたの町にもできるかもしれない

指定管理者制度は特効薬か、毒薬か
指定管理者制度導入が引き起こした議論/五社が指定管理者として運営する「日比谷図書文化館」/図書館側からの要望で始まった運営業務委託/指定管理者から見た指定管理者制度の課題

第6章 つながる公共図書館

デジタル化、そして本棚から外界へ――青空文庫・国立国会図書館・飯能市立図書館
青空文庫と国立国会図書館が目指す「電子図書館」/東日本大震災で広まった「デジタルアーカイブ」/本棚から外界へ拡張する飯能市立図書館

新しい公共図書館
公立図書館でも市立図書館でもない「新しい公共図書館」の波/千葉船橋市で急増中の「図書館」/小さな図書館に育つ地域のコミュニティ/公立図書館と公共図書館の違いとは/世界中の本棚を図書館化する「リブライズ」

島を丸ごと図書館にしてしまった島根県海士町
図書館がない離島/海士町らしい中央図書館が完成/島の未来をつくる図書館/海士町からお土産を自分の町へ

あとがき

猪谷 千香(いがや・ちか)

東京生まれ。東京育ち。明治大学大学院博士前期課程考古学専修修了。産経新聞で長野支局記者、文化部記者などを経た後、ドワンゴコンテンツでニコニコ動画のニュースを担当。2013年4月からハフィントン・ポスト日本版でレポーターとして、公共図書館や地方自治などについて取材している。著書に『日々、きものに割烹着』(筑摩書房)、共著に『ナウシカの飛行具、作ってみた』(幻冬舎)などがある。

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