【書評/レビュー】なぜ物理が不可欠か『世の中ががらりと変わって見える物理の本』

カルロ・ロヴェッリ『世の中ががらりと変わって見える物理の本』書影 40 自然科学

わたしたちは、地球が丸いと知っている。

丸い地球は、太陽の周りをグルグル回る。太陽も、大きな大きな銀河系の中にある。銀河系も無数に宇宙に存在する。そして、宇宙はビッグバンで始まった。そういう風に、わたしたちは学校で教わった。ビッグバン宇宙論は私たちの「常識」だ。

だけど、もし……。

1000年前の人に、わたしたちの「常識」を話して聞かせたら、ビックリ仰天腰を抜かすに違いない。だって、1000年前はまだガリレオ・ガリレイもアイザック・ニュートンも生まれていないんだから。

同じように、もし……。わたしたちが1000年後の未来の人と話ができたなら、わたしたちは彼らの「常識」にビックリ仰天腰を抜かすに違いない。だってきっと、今、私たちが「常識」「当たり前」と思っていることも、未来では覆され、当たり前が当たり前でなくなっているんだから。

現在・過去・未来と「時間」は一方通行に流れてゆく。そんなの当たり前。「意志」ってなに?だけど、私は私だよね。当たり前。なぜ命は生まれて、死んだらどうなるの?そんなの誰にも分からないよ。当たり前でしょ。

自分の「思い込み」から脱却せよ。

“7つの短い物理の授業”で物理を学ぶべき理由が示された

本書は2015年イタリアで話題になったベストセラーの翻訳版。原題は『Sette brevi lezioni di fisica』で、邦題にすると『7つの短い物理の授業』という、なんとも味も素っ気もないタイトルだが、《ロヴェッリ・ミラクル》と称され、本国では大人気になったそうだ(と、あとがきで紹介されていた)。

はてさて、なぜこれがイタリアで人気になったのだろうか?と、不思議でたまらなかった。内容は、よくある物理学の変遷に軽く触れつつ、相対性理論や量子力学など現代の物理に触れるものだ。しかもページ数も少なく、かなり駆け足で進んでゆくので、初心者向けにも関わらず、ある程度の理解がないと難解いのではないかと訝しんだ。

しかし、最終章を読み、なぜこれがベストセラーになったのか合点がいった。本書は、なぜ我々に物理学の知識が必要なのか、読者に答えを提示している。

それは「常識からの脱却」だ。

信じきると、信じていることすら気づけない

今、わたしたちは囚われている。それは、これまで人類が培ってきた「常識」「思い込み」かもしれないし、「思想」や「信仰」かもしれない。わたしたちは囚われていることにも気づいていない。そう断言できる。それは、現在の物理学が辿った変遷を見れば分かる。

かつて誰が、地球が宙に浮いたものだと想像できただろうか。南極と北極に立った人は、お互いに逆さまを向いて立っている。昼を制すあの太陽がまさか、この宇宙ではありふれた恒星だと、誰が想像できただろう。わたしたちは、かつての思想を破壊し覆すことで、現在の世界観を手に入れてきた。そして、今後もそれが起こり続けるだろう。

今わたしたちが信じきって疑いもしないモノゴトも、いずれ誰かが目をつけ、疑い、思いもよらない答えを導き出すだろう。だから、もし未来の世界にコンタクトできれば、未来の常識を知ってわたしたちは腰を抜かすだろう。それがどんなものなのかサッパリわからないが、我々の生死感や世界観が覆っているだろう。

東洋思想と西洋思想が混ざり合う時

西洋と東洋は相反するものではない。西洋と東洋は対になり、ユーラシア大陸という一つの島の中で、互いに影響し合い発展し続けてきた。今日の物理や医学など「科学」は西洋思想のもと、欧米の大発展とともに大きく飛躍したものだ。そして時代は流れ「先進国」であったヨーロッパも円熟期に差し掛かった。そして今、東洋の国々が発展しようとしている。今後、これまでの物理・科学に東洋思想が合間り、更なる大変革が起こるだろうと、楽しみで仕方ない。

それは、医学や科学技術などわたしたちの生活を豊かにするだろう。だからこそ囚われていてはいけない。しかも、わたしたちはアジア人だ。東洋の思想を持っている上に、西洋の学問を教育されている。すでに、両方を自在に扱える準備はできている。

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世の中ががらりと変わって見える物理の本

  • 著者:カルロ・ロヴェッリ
  • 監訳:竹内薫
  • 訳者:関口英子
  • 発行所:株式会社 河出書房新社
  • 2015年11月20日

目次情報

  • はじめに
  • 第1回講義 世界でいちばん美しい理論
    • アインシュタインの発見した矛盾とその克服
    • 重力場こそ空間そのもの
  • 第2回講義 量子という信じられない世界
    • 光は粒でできている
    • ハイゼンベルクの目まいがする電子論
  • 第3回講義 塗りかえられる宇宙の構造
    • 宇宙観の歴史
    • 宇宙の新しい発見
  • 第4回講義 不安定で落ち着きがない粒子
    • 波立ち揺らぐ素粒子
    • 優雅ではない標準モデルと暗黒物質
  • 第5回講義 粒でできている宇宙
    • 二大理論を統合する理論
    • 無限に小さくなるブラックホール
    • ビッグバンの前
  • 第6回講義 時間の流れを生む熱
    • 熱から生まれる未来と過去
    • 確率と予測の熱力学
    • 時間の流れとは何か
    • 時間の流れを解く鍵は熱
  • 最終講義 自由と好奇心をもつ人間
    • 人間がつくりあげる世界のイメージ
    • 人間の脳と物理学
    • 自然法則と自由な意思決定
    • 自然の一部である私たち人類

著者紹介

カルロ・ロヴェッリ

1956年、イタリアのヴェローナ生まれ。ボローニャ大学で物理学を専攻、パドヴァ大学の大学院に進む。その後、ローマ大学や米国のイェール大学、イタリアのトレント大学などを経て、米国のピッツバーグ大学で教鞭をとる。現代は、フランスのエクス=マルセイユ大学の理論物学研究室で、量子重力理論の研究チームを率いている。専門は、《ループ量子重力理論》。理論物理学の最先端を行くと同時に、科学史や哲学にも詳しく、複雑な理論をわかりやすく解説するセンスには定評がある。
主な著作に、“Che cos’ è il tempo ? Che cos’ è lo spazio ?”〔時間ってなに? 空間ってなに?〕など。2014年に刊行された“La realtà non è come ci appare-La struttura elementare delle cose”〔目に映る姿とは異なる現実世界―ものの基本的な構造〕で、メルク賞、およびガリレオ文学賞を受賞。

監訳者紹介

竹内 薫(たけうち・かおる)

東京生まれ。東京大学理学部物理学科、マギル大学大学院博士課程修了 (Ph.D)。長年、サイエンス作家として科学の面白さを伝え続ける。NHK「サイエンスZERO」の司会などテレビでもお馴染み。

訳者紹介

関口 英子(せきぐち・ひでこ)

埼玉県生まれ。大坂外国語大学イタリア語学科卒業。翻訳家。児童書やノンフィクション、映画の字幕までイタリア語の翻訳を幅広く手掛ける。おもな訳書に、A・アンジェラ『古代ローマ人の24時間』、『古代ローマ帝国1万5000キロの旅』(共訳)(以上、小社)、I・カルヴィーノ『マルコヴァルドさんの四季』(岩波少年文庫)、P・レーヴィ『天使の蝶』、D・ブッツァーティ『神を見た犬』(以上、光文社古典新訳文庫)などがある。

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