そろそろ街中に年末の慌ただしい雰囲気がにじみ出てくる頃でしょうか。
お正月を迎えるために大掃除に励んでいる方もおられるでしょう。
片付けをしていると、たまに高価そうなものも出てきます。
そこそこ高級なブランドの壷やお皿など、新品で桐の箱の中から登場します。
昭和時代の我が家の遺産です。
しかし、何十年と使っていないものなのですから「要らない」に決っているはずが……「高価なものだ!」と分かるや否や「もったいない」が発動し、再び箱に詰め元に戻す……。
ということを、数十年間行われ続けてきました。
だけど、売値」がいくらになるのかは、実際に古道具屋なりに見てもらわないとなんとも言えません。
「たぶん、実際に売ると価値がないだろうなぁ」と薄々気づきながら、また同じ場所へしまい込んでしまうのでしょう。
「価値」ってなんだろう?
“価値”というものはとても不思議なものです。
最たるものは、「お金」の価値でしょう。
ただの紙切れや金属に特別な価値を私たちは見ています。
近年では、“仮想通貨”が話題になりました。
更に、ゲームで使われるアイテムも、何かを手に入れるために何かを手に入れ……と、広義の意味の通貨として使われていると言えるでしょう。
人は見たいものしか見ない
「人は見たいものしか見ない」という言い回しは、あのユリウス・カエサルの残した言葉が元になっています。
『文系の壁』では著者である養老孟司氏が、作家の森博嗣氏、バーチャルリアリティ映像開発の藤井直敬氏、スマートニュースの鈴木健氏、新聞記者の須田桃子氏の4人の理系の面々とそれぞれとの対談が収められています。
4人との対談内容はジャンルや話題は違いますが、共通して話されているのは「人は見たいものしか見ない」ことです。
いつも絵を書いているハズの美大生に、山の木々の形状を説明すると「見たことがなかった」と意外な返事が返ってきた話題を発端に、選挙システムの不公平や、原子力発電のメリット/デメリットなど、「そういうものだ」と思い込み、気にならなくなってしまう話を考えます。
STAP細胞の騒動だって、研究者たちは「見たいものを見」てしまった。
そして、報道も、私たちも、「見たいものを見」た。
疑惑が浮上してからの経過にもまた、私たちは「見たいものを見た」のかもしれません。
先ほど上げた、通貨の価値もまた、「このお金を他の人と交換できるだろう」という信頼によって成り立っています。
これもまた「見たいものを見ている」状態です。
私たちはある程度、知っていて騙される、「そういうことにする」ことで、社会を成立させているのです。
文系はデジタル的に割り切れる
特に、文系と言われる人々はデジタル的です。
「はい/いいえ」「賛成/反対」「好き/嫌い」「共感する/共感しない」と、二つに一つを割り切れます。
どうやら理系の人々は「どちらでもない」や「どちらでもある」あるいは「ここまでは◯◯だけども、ここからは△△で、□□はわからない」など、1か0かの世界ではないようです。
「自然」を相手にすると、一つ一つの働きはわかるけれども、要素が増えると複雑すぎてとても観察できない、とても把握できない。
ですから、抽象度を上げたり下げたり、単純化したりと、思考する必要があるようです。
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Information
文系の壁 理系の対話で人間社会をとらえ直す
- 著者:養老 孟司
- 発行所:PHP研究所
- 2015年6月29日
目次情報
- まえがき
- 第一章 理系と文系――理論と言葉 森博嗣×養老孟司
- 第二章 他者の現実を実体験する技術で、人類の認知は進化する 藤井直敬×養老孟司
- 第三章 「唯脳論」の先にある、なめらかな社会の可能性 鈴木健×養老孟司
- 第四章 ジャーナリズムか、生き物そのものを見るか 須田桃子×養老孟司
著者略歴
養老 孟司(ようろう・たけし)
1937年、鎌倉市生まれ。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。95年、東京大学医学部教授を退官し、同大学名誉教授に。89年、『からだの見方』(筑摩書房)でサントリー学芸賞を受賞。
著書に、『唯脳論』(青土社・ちくま学芸文庫)、『バカの壁』『「自分」の壁』(以上、新潮新書)、『本質を見抜く力――環境・食料・エネルギー』(竹村公太郎史との共著)『日本のリアル』(以上、PHP新書)など多数。―養老孟司『文系の壁』(2015、PHP研究所)p.217
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