『雨はどのような一生を送るのか』|地底と天界には水が満ちていた

40 自然科学

こんにちは。あさよるです。あさよるの幼いころの遊び道具は「水」でした。右のコップの水を左のコップに注ぎ、左のコップの水を右のコップに注ぎ、右のコップの水を左のコップへ注ぎ……と延々と同じことを飽きずに朝から晩までやっていました。夢中になっていたのは、水のねちゃ~っと吸いつくような粘度と、あと、水と水が混ざり合う瞬間を見たくて同じことを繰り返していたのを思い出します。今でも、川の水面をボンヤリ眺めていると時間を忘れます。こちらも、川の水が交じり合う瞬間とか、エネルギーがどう伝播してゆくのだろうとか、キラキラと輝く水面の形を記憶しようとしたり、移ろってゆくものから目が離せない感じ。

本書『水はどのような一生を送るのか』では、一番身近でふしぎな「水」の性質について解説するのもので、これまで科学者たちがどのように水の性質を考え、どのような実験が行われてきたのか知るものです。易しい文体で誰でも読める内容ですが、読み応えあって面白かったです(`・ω・´)b

小さな「ハテナ」を解明すること

『雨はどのような一生を送るのか』は「どうして雨は降るの?」「雲はなんで落ちてこないの?」なんてとっても素朴な疑問に答える内容です。しかもただ、知識としてトリビアを羅列するのではなく、雨が降る理由、雲が落ちてこない理由を、科学者たちはどのように考え、どんな実験がなされてきたのかが紹介されます。

例えば、雨はどうして降るのか。雨が降り、地表や海から蒸発した水分が再び空中へ蒸発し、上空で冷やされ雨となって降ってきて……とグルグルと循環しているのは自明の事実。水の循環の図式は誰もが一度は目にします。しかし、昔の人は海の水が蒸発して雨になるとは考えなかったんです。聖書に登場する〈ノアの箱舟〉のお話では、「大いなる深淵が裂け」「天の窓が開かれた」ことによって、地上が水で覆いつくされてしまいます。昔の人は、大地の下と天空の上は水が満ちていると考えていました。地面が裂けて地底の水が流れ込み、さらに天空が開いて水がなだれ込んできたと表現されています。

マジメに遊ばないとヤバイ

本書では、これまで科学者たちが試みた実験が紹介されています。実験器具の図を見ていると、結構単純で、小中学校の実験でやったようなものが多いのです。あさよるはてっきり、学校の実験で、簡易版というか、子どもにもできるよう簡略化されたものなのかと思ってましたが、意外にも簡単な装置を使って実験し、検証されてゆくんだと知りました。雲をつくる実験なんか学校でやった記憶がありますが、あれはそのまんまの実験だったのですね。

また、水が流れる様子や、地面に水が浸み込んでいく様子、海の水が蒸発する様子など、わたしたちは知識がなくてもなんとなく経験で見知っていることがあります。たとえば、海の水はペタペタしていて蒸発しにくいとか、砂利や石が重なった筒の中を水が進むとき、じわじわっと浸透してゆく、など、別に特別実験しなくても、なんとなく経験で知っています。

この「なんとなく経験で知っている」ってのが、とても大事なんですね。知識として、教科書の文言を暗記するのは辛いし難しいしすぐに忘れてしまうでしょう。体験に基づく記憶の方がずっと思い出しやすそうです。

勉強ってのは、机に向かってテキストを読むことじゃなく、野山や川や海で遊びまくる方がずっと効率がいいのかもしれません。遊びってマジメにやらなやなんですね。

『雨はどのような一生を送るのか』挿絵イラスト

世界は変わる

先ほど、昔の人は地底と天界には水が満たされていると考えていたと紹介しました。その世界観は現代では否定されています。だけど、今わたしたちが考えているこの世界の形も、これからの未来、どんどん変わっていくのでしょう。

あさよるは10代のころから化学がむっちゃ苦手で超大嫌いだったのですが、苦手&嫌いを少しでも克服しようと、ずっと避けて通ってきた化学の勉強を少し始めてみました。大嫌いな理由は、なんかとりとめもなく、ただひたすら暗記するしかないのが耐えられなかったのですが、改めて勉強すると、目から鱗と言いますか、「世界の捉え方が変わった!」という経験をしました。しばらくクラクラしておりました。

世界が変わる経験ってやめられないですよね。あさよるが生きている間に、あと何回くらい同じ経験ができるのでしょうか~。

関連記事

雨はどのような一生を送るのか

目次情報

はじめに

第1章 地球をめぐる水――その概念ができるまで

水の循環はあたりまえ?
ノアの洪水はどのようにして起こったのか
プラトンが記述した「タルタロス」
アリストテレスによる現実的な説明
地球は巨大な蒸留器なのか
想像から観測へ--マリオネットによる雨量と河川流量の測定
エドモンド・ハレーが観測した地中海からの蒸留量
地球表面での水のやり取り

第2章 雲と凝結核――雲をつくる微粒子の発見

雲はなぜ落ちてこないのか
凝結核の発見
あなたは発見者ではない
実験してみよう
エアロゾル粒子とは
飽和水蒸気圧とは
表面張力が飽和水蒸気圧を変える
物質が水に溶けると水蒸気圧が下がる
雲に関するホットな話題

第3章 雨粒の生成――メカニズム解明から人工雨量へ

雨粒はどのようにしてできるのか
雲は牛乳のようなもの?
雲粒は合体しない――ベルジェロンの考察
水と氷とは飽和水蒸気圧が異なる
水は0℃では凍らない――過冷却とは
ベルジェロンが唱えた「氷晶雨仮説」
フィンダイゼンが描いた夢――気象の人工調節
シンプソンの反論――氷晶がなくても雨は降る
世界初の人工降雨実験
雲の中で起こる連鎖反応
論争の決着
雲の種類と雨の形成

第4章 雨と植物――森林は雨を大気に返す

木の葉にたまった雨粒はどこへ行くのか
樹木からの雨の蒸発――「遮断損失」とは
雨が降っている最中になぜ蒸発が起こるのか
人間とヒマワリの発汗量を比較する
植物による吸水と蒸散のしくみ
樹木はどうやって高いところまで水を吸い上げるのか
樹木からの蒸散量をどうやって測るのか
森林はどれだけの水を大気に放出するのか
森林は洪水を防ぐのか
ハイロドグラフとピーク流量
森林が河川流量におよぼす影響を調べるにはどうすればよいのか
森林によってピーク流量が増加することもある

第5章 降雨の浸透――水は地中でどう動くのか

雨が土壌に浸み込む速さ
ミクロに見た雨の浸透
地中海のさまざまな形態
破産した不運な男
ペローの実験
ポテンシャルの高い水、低い水
母親の期待に応えたダルシー
雨が地下水になるまで何年かかるか
セシウムの行方

第6章 降雨の流出――雨はどんな経路で川にたどりつくのか

何が問題か
ホートンの考えと論争の始まり
森林に地表流はあるのか
地中降水流の存在
やはり地表流は存在する
日本のヒノキ林で起こるホートン地表流
雨量から河川流量を推定する
合理式――コンピューターのいらない簡単な方法
単位図法――流域の特性を考慮する
タンクモデル――タンクの底から出てくる水流を河川流量と考える
分布流出モデル――コンピューターを用いた精密な計算

第7章 蒸発――「気象オタク」ドルトンの実験とその発展

気象観測を50年以上続けた男
蒸発は溶解現象か
空気のもつ水蒸気圧の測定
蒸発率と飽和水蒸気圧との関係
風が蒸発におよぼす影響
新しい気候区分をつくりたい――ソーンスウエイトによる蒸発散量の測定
エネルギー保存の法則を利用した蒸発測定
「ボーエン比」のアイデア
より簡単な蒸発散量の推定法――ペンマンの式
海からの蒸発率を推定する
大陸からの蒸発散率

第8章 地球の雨の特徴――タイタンの雨と比較する

地球を他の天体と比較する理由
タイタンについて
地球ではなぜ水蒸気が雨になるのか
地球の積乱雲は背が低い
地球の雨粒は小さい
地球の水循環は激しい

参考文献

三隅 良平(みすみ・りょうへい)

1964年福岡県生まれ。
防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門 総括主任研究員。筑波大学生命環境系教授(連携大学院)。
名古屋大学大学院理学研究科 大気水圏科学専攻 博士課程修了。博士(理学)(名古屋大学)。
科学技術庁防災科学技術研究所、文部科学省研究開発局開発企画課などを経て現職。
専門は気象学(雲物理学)で、災害を引き起こす激しい雨の発生機構や、降雨粒子のモデル化について研究している。
著書に『気象災害を科学する』(ペレ出版)がある。趣味は天体観測(月面スケッチ)、水泳、相撲観戦など。

コメント

  1. […] 『雨はどのような一生を送るのか』|地底と天界には水が満ちていた […]

  2. […] 『雨はどのような一生を送るのか』|地底と天界には水が満ちていた […]

タイトルとURLをコピーしました