角野栄子『魔女の宅急便』を読んだよ

『魔女の宅急便』書影 90 文学

魔法使いの習わし 魔女を魔女たらしめているもの

魔法使いには魔法使いの“ならわし”があります。
子供の頃に読んだ物語には、私とは違う“ならわし”を持った人たちの、こだわりや習慣にいつも、心奪われていました。
自分とは違う、違う世界の物語であることが、それにより表わされているからです。

魔法使いのキキは、真っ黒の服を着て、真っ黒のネコを連れています。それが魔女のしるし、魔女とはそういうものだからです。
しかし、13歳のキキは、そんな古臭いしきたりや慣習が煩わしく、お母さんから魔法薬の作り方も学ばないまま、魔女の修行にでかけます。

黒い服や黒いネコ、しきたりや習わし、伝統は、人と魔女を分けるものです。魔女の“ならわし”こそが、魔女のしるしで、人と魔女を分け、魔女を魔女らしくしているのでしょう。
キキたち魔女は数も減り、もうたくさんの魔法を忘れてしまっており、キキのお母さんも空を飛ぶことと、くしゃみ止めの魔法しか知りません。

境界は時に、タブーや禁忌を作ります。
私たちの世界でもよく知られたタブーは、食べものそれでしょう。豚肉食の禁止はイスラムとユダヤを分け、キリスト教世界とイスラム世界を分けています。ヒンズーの牛肉食のタブーは、イスラムの豚食の禁忌に影響を受けていると言われています。タブー・境界は、コミュニティを強化します。

しかし一方、外部から誤解や、「知らないこと」「分からないこと」による恐れや偏見も招いてしまいます。
魔女も、魔女のいない地域では怖がられているようです。キキが修行先に住み着いたコリコの町も、長らく魔女がおらず、魔女には怖いイメージがあったようです。キキが町に馴染んでゆくずつ、その誤解は晴れてゆきます。

キキは、町に馴染めるようになると、自分が魔女なのに空を飛ぶとこしかできないと気づきます。なぜ母からそれ以外の魔法を習わなかったのか、不要だと思っていたのかと思います。せっかく、コリコの町の一員になろうとしているのに、キキは自分が魔女であること、コリコの人たちとは“違う”ことを意識し始めるんですね。そうして、キキは人々と境界を濃くし、魔女らしくなってゆきます。
町に馴染むほど、人とは違う、異質な存在に自らなってゆきます。

魔女が魔法忘れ、人と馴染んでゆく中、しきたりや習わしがますます重要になってゆきます。魔女と人を分けるものですから。

13歳で独り立ちし、魔女の居ない町へ移り住むしきたりも、魔女の存在を知らしめますが、魔女がどんどん人に馴染んでゆく原因でしょう。しかしキキの例を見ると、「魔女である」意識をつなぐには、有効な手段なのかもしれませんね。

全6巻まであるシリーズなので、今後のキキの成長が楽しみです。

魔女の宅急便

  • 著者:角野栄子
  • 発行所:株式会社 KADOKAWA
  • 2013年4月25日
  • 福音館書店より1985年に刊行、2002年に福音館文庫に収録

目次情報

  1. お話のはじまり
  2. キキ、ひとり立ちの時をむかえる
  3. キキ、大きな町におり立つ
  4. キキ、お店をひらく
  5. キキ、一大事にあう
  6. キキ、ちょっといらいらする
  7. キキ、ひとの秘密をのぞく
  8. キキ、船長さんのなやみを解決する
  9. キキ、お正月を運ぶ
  10. キキ、春の音を運ぶ
  11. キキ、里帰をする

著者紹介

角野 栄子(かどの・えいこ)

東京生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。25歳からのブラジル滞在の体験を描いた『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』で作家デビュー。以来、第一線で活躍する。1982年『大どろぼうブラブラ氏』で産経児童出版文化賞大賞、84年『わたしのママはしずかさん』で路傍の石文学賞、『ズボン船長さんの話』で旺文社児童文学賞、『おはいんなさい えりまきに』で産経児童出版文化賞、85年『魔女の宅急便』で野間児童文芸賞、小学館文学賞、IBBYオナーリスト文学賞など多数受賞。2000年紫綬褒章、14年旭日小綬章を受章。

コメント

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