『トットチャンネル』|初代テレビの個性派女優・黒柳徹子の自伝

こんにちは。『トットてれび』見ました!

『トットてれび』は2016年4月~6月にNHKで放送されたテレビドラマです。〈トットちゃん〉こと黒柳徹子さんのエッセイを実写ドラマ化したもので、黒柳徹子さん役を満島ひかりさんが演じ、その熱演っぷりが話題になりました。

満島ひかりさんに黒柳徹子さんが憑依しているようで、「スゴイ」を通り越してむしろ「コワイ」域。他の役者さんも好演されており、音楽やダンスも織り込まれてとても楽しいドラマでした。

で、ドラマの話も語りたいところですが、ドラマの原作である黒柳徹子さんの『トットチャンネル』も読みました。

もしかしたら『窓ぎわのトットちゃん』を読んだことがある方も、その続編である『トットチャンネル』も是非ご一読を。

事実は小説よりもドラマチック

〈トットちゃん〉は黒柳徹子さんの愛称です。黒柳さんが幼い頃、周りの人から「テツコちゃん」と呼ばれるのを「トットちゃん」と聞き間違えて、自分のことを「トットちゃん」と呼んでいたのが、はじまりです。

本書『トットチャンネル』の主人公は〈トットちゃん〉。黒柳徹子さんの自伝でありながら〈トットちゃん〉というキャラクターが奔放に伸び伸びと振る舞っているようで、エッセイなのに物語を読んでいるようです。

そしてまた『トットチャンネル』で描かれる黒柳さんの経験も、この上なくドラマチックなのよね~!

テレビに入社する!

音楽大学の声楽家に通っていたトットちゃんは、ある日NHKの求人広告を見つけます。

「NHKでは、テレビジョンの放送を始めるにあたり、専属の俳優を募集します。プロの俳優である必要はありません。一年間、最高の先生をつけて養成し、採用者はNHKの専属にします。なお、採用は若干名……」

p.12

ウエイトレスや事務員募集の求人広告にNHKの求人があるのが面白いです。日本にテレビジョン…今のテレビ放送が始まろうとしていた時代です。テレビなんて見たことがない、それがどんなものなのか知らなかった時代の人にとって、テレビ局を志望するって、どんな感じだったのかな?

NHKの入社試験は、履歴書提出からトットちゃんはダメダメ。「ああ、落ちた」「これで最後」「もう終わった」と試験を一つ受ける度に落ち込むトットちゃんなのですが、そのダメダメさ=なにもない、無垢な状態が評価され、高倍率を潜り抜け採用されます。

しかし、テレビ放送が始まったばかりのテレビ局内はドッタバタ!テレビ番組の制作も、今では考えられないようなグダグダさだったようです(笑)。黒柳さん、今は「徹子の部屋」では〈芸人殺し〉と称されていますが、黒柳さんが潜り抜けてきたハプニングを知ると、あの堂々たる振る舞いが納得できました(笑)。

NHKにエントリーしてから、試験の様子、採用後の教育、テレビ放送開始直後の番組制作の様子など、細かく描かれており、とっても貴重なお話を知れました。歴史のなかのお話ですね。

小さな東京、すぐそこのお茶の間

『トットチャンネル』を読んでいて感じたのは大都会・東京のマス・メディアのお話ではなく、小さな東京という街の、生まれたばかりの小さな放送局、そんな感じ。

黒柳さんご自身が東京生まれ東京育ちの方だからなのかもしれません。当時の東京の街は今より規模が小さかったのかもしれません。

トットちゃんはとても、テレビジョンという国を挙げたプロジェクトに挑むような意気込みでもないし、飄々とフラフラと、時代の波に動かされながら、そして力強く波に乗って流れてゆきます。

ああ、とっても素敵。

小さな東京の街と、まるで、すぐそばにいるようなテレビ。遠く離れた異世界のお話ではなく、きちんと世間と地続きの世界なのです。

やっぱこの時代……憧れちゃう

『トットチャンネル』は昭和二十八年から始まります。戦後のこの時期を回想するエッセイは、新しい波が到来し、活気に満ち、どうしても「羨ましい」と思ってしまいます。

大橋鎭子さんのエッセイ『「暮しの手帖」とわたし』を読んだときもそうでした。物のない時代、何もない中から新しいことを始める力強さと共に、得も言え割れぬ羨ましさが……そして、それを含めて「憧れて」しまう自分もいます。

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黒柳徹子さんも大橋鎭子さんも、新しい時代の新しい仕事をした女性でしょう。あさよるは、今の時代をどう生きるのかなぁ~なんて。

更に、黒柳徹子さんの軽やかでキュートで知的な文体が、余計に高揚感やワクワクや戸惑いやいろんな気持ちがない交ぜになった空気を感じさせます。

トットちゃん、売れっ子テレビ役者になって連日引っ張りダコ。ついに過労で倒れ、ドクターストップが言い渡されたところで本書は終わります。続きの話、読みたいっ。

トットチャンネル

目次情報

細面
ソプラノ・ブス
“お母さんになる!”
郵便受け
書留
受付
赤巻紙 青巻紙 黄巻紙
筆記試験
素直
恋人からの手紙
面接
だます人
小さい靴
プロとアマ
女座長
担任の先生
五食
営業妨害
ゼンマイ仕掛け
自分の声
サイン・プリーズ
ストライキ
若干名
津々浦々
蹴落とさねえ奴は!
無色透明
お稽古は「リハーサル」
メトロノーム
縞馬
タップ・ダンサー
懐中時計
プラットホーム
卒業式
どうしたんですか?
忍者か!
障子、笑って!
七尾玲子さん
狐のお面
真似なんか、してない!
スージーちゃん
踏まないで下さい
ヤン坊 ニン坊 トン坊(Ⅰ)
ヤン坊 ニン坊 トン坊(Ⅱ)
にわとり
「趣味、相撲」
壁とパジャマ
三好十郎先生
芸名
「終」
テレビジョン
競馬
無声さん
河原で泣け!
見開き
五十八円
クリスマス
怪談
内縁関係
有名人
拙者の扶持
インタビュー
お見合い
結婚詐欺
二宮金次郎
仕出し
初めての旅
お上手ねえ
カラー・テレビ
「実家に帰ってます」


あとがき

黒柳 徹子(くろやなぎ・てつこ)

東京乃木坂生れ。東京音楽大学声楽科卒。NHK放送劇団に入団、NHK専属のテレビ女優第一号として活躍。その後、文学座研究所、ニューヨークのメリー・ターサイ演劇学校などで学ぶ。1984年(昭和59)年ユニセフの親善大使就任。超ベストセラーの『窓際のトットちゃん』は世界35カ国に翻訳されている。他に『トットチャンネル』『トットの欠落帖』など。

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