『図説 ユダヤ教の歴史』を読んだよ

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髪型に気を使ったり、眉を整えている男性は今や珍しくないでしょう。男性だから、女性だからではなく、誰もが「見た目」を気にしています。おしゃれな洋服を選び、数あるスマホ機種の中からお気に入りを選び、靴を選び、レストランを選びます。
「見た目至上主義」なんて言葉もありますが、私たちは人の見た目で、その人の信用や実力を慮っていることは否定できません。大きな契約を交わす際に、相手の担当者の「見た目」が悪ければ躊躇してしまうでしょう。ここで言う「見た目」は、いわゆる「イケメン」「イケジョ」を指しているのではありません。着ているスーツの質や、シャツ、爪の先まで清潔感があることや、声やしゃべり方、表情やしぐさ、髪型など、多岐に渡ります。

爪の先まで身だしなみを整えるには、ある程度のお金や時間的余裕が必要です。「貧乏暇なし」と諺にあるように、お金がなくなる程時間までなくなってしまうのが世の常ですから、身だしなみを整えるためにはお金と時間を作り出す能力が必要でしょう。誰でも彼でもそう上手くはいかないでしょうから、「見た目至上主義」の格差はどんどん広がってゆくのかもしれません。

現在の私たちの生活では格差はあれど、立場や文化によって物理的に区切られた空間はありません。国境ですら本土にいると意識しないものかもしれません。私たちは文化や宗教、風習により区切られているのではなく、陸地は物理的に海洋で区切られています。

モロッコの世界遺産「フェズ」の壁

モロッコ東部にある「フェズ」という都市は、物理的な壁で囲まれた街です。細い路地に沿って建物が高い壁のようにそびえ立ち、さながら大迷路です。
街の中心にはモスクの大寺院があり、人が行き交い、街が栄えました。世界遺産にも登録され、現在でもモロッコの観光資源です。
細い路地からは、高くそびえ立つ建物の壁は殺風景ですが、ドアを開け内側に入ると一変、建物には中庭が設けられとても明るく、高級ホテルやオシャレなショップも入店しています。中央のモスクも荘厳です。

その街の規模や構造から、なかなかどんな場所なのかイメージ出来ないのですが、ランドマークを中心に商業都市ができると言うと、日本の城下町を想像しますが、大陸ではスケールが違うようです。

ヨーロッパ各地の「ゲットー」の壁

ヨーロッパの複数の都市にあった「ゲットー」も、人為的・政治的に区切られた街です。ナチスドイツの収容所を指すこともありますが、ゲットーは中世ヨーロッパにあった、ユダヤ人を強制的に移住させた街です。
中世初期のヨーロッパ都市部では、ユダヤ人が共同体を作り、自治を行うことを許されていましたが、時代が下ると重税を課され、キリスト教への改宗を迫られ、ヴェネチアやフランクフルト、地中海や東欧へ追いやられます。そこで、キリスト教社会とユダヤ世界を同時に成立させるために作られたのがゲットーでした。
川岸や地盤の悪い場所をゲットーと指定され、ぐるり壁で囲まれた区画に、とても小さな間口があり、建物は壁の内側を向いて立ち並びます。ゲットーのほとんどは区画整理でなくなってしまいましたが、ヴェネチアでは今も多くが残っています。あのヴェネチアの風景の歴史の一面です。

『図解 ユダヤ教の歴史』では、ゲットーについて絵画や写真資料も交えつつ、細かな解説がなされています。水辺で地盤がゆるい土地に、間口が狭く所狭しと並んだ建物。ゲットー内の環境は、想像するまでもなく劣悪だったことでしょう。
先ほどの「フェズ」とは大きく印象が異なります。

Information

図説 ユダヤ教の歴史

  • 著者:市川 裕 =編著
  • 発行所:河出書房新社
  • 2015年3月20日

目次情報

  • はじめに 市川裕
  • 第一章 ラビ・ユダヤ教の歴史 市川裕
  • 第二章 ラビ・ユダヤ教の歴史 市川裕
  • 第三章 イスラーム社会のユダヤ教 嶋田英晴
  • COLUMN 中世のユダヤ賢者の横顔 嶋田英晴
  • 第四章 カバラー 山本伸一
  • 第五章 中近世西欧のユダヤ人ゲットー 李 美奈
  • 第六章 近代国民国家におけるユダヤ教の多様性 市川裕
  • 第七章 二〇世紀のユダヤ教――ショアーとアメリカとイスラエル 市川裕
  • あとがき 市川裕
  • 参考文献・図版出典一覧
  • ユダヤ教の歴史 関連年表

編・著者略歴

市川 裕(いちかわ・ひろし)

東京大学大学院人文社会系研究科教授。宗教史学、ユダヤ思想、比較法史研究。主な著書に『宗教の世界史7 ユダヤ教の歴史』(山川出版社)『ユダヤ教の精神構造』(東京大学出版会)などがある。
■はじめに/1、2、6、7章/あとがき

―市川 裕『ユダヤ教の歴史』(2015、河出書房新社)p.132

執筆者略歴

嶋田英晴(しまだ・ひではる)

東京大学大学院人文社会系研究科研究員。中世イスラーム支配下のユダヤ史研究。主な論文に「ユダヤ教徒の生き残り戦略 中世イスラーム世界の場合」(博士論文)がある。
■3章/コラム

山本伸一(やまもと・しんいち)

日本学術振興会特別研究員PD。ユダヤ神秘思想およびメシアニズム研究。主な論文に「シャブタイ派思想における半規範主義の起源と展開」(博士論文)がある。
■4章

李美奈(り・みな)

東京大学大学院人文社会系研究科修士課程在籍。イタリアのユダヤ史・ゲットー研究。主な論文に「隔離と同化 ゲットーの壁とはなんであったのか」(工学修士論文)がある。
■5章

―市川 裕『ユダヤ教の歴史』(2015、河出書房新社)p.132

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