2016年4月に始まったNHK『朝の連続テレビ小説「とと姉ちゃん」』も終わってしまいました。あさよるも張り切って、ドラマ開始時に主人公のモデルになった大橋鎭子さんの随筆を読んだりしました。
ドラマは終わってしまいましたが、次に手にとったのは『花森安治の青春』。花森を主人公とした物語仕立てで、間に著者の馬場マコトさんのルポが挟まる構成です。
花森安治は思想家であり、広告マンであり、ジャーナリストやグラフィックデザイナー、編集者の顔を持ちます。
花森安治は10代の頃フェミニズムと出会います。母を思い、フェミニストとして生きようと思います。旧制高校時代には、校友会雑誌の編集を一人で手がけ、東京帝国大学へ進学後も、東京帝国大学新聞部に所属しました。
「ペンは剣よりも強し」を信じた花森青年も、大学卒業後召集され、中国とロシアの国境近くに出兵します。が、肺病のため帰国。帰国後は大政翼賛会の宣伝部に所属しました。
「贅沢は敵だ」「進め 一億火の玉だ!」「欲しがりません勝つまでは」など、あの有名な標語の採用に、花森安治も関わったそうです。敗戦後、大橋鎭子と出会い、「暮しの手帖」を創刊します。
ペンが剣になる「戦争」
雑誌「暮しの手帖」は戦後、皆が“暮らし”を大切にしなかったから戦争が始まったのだとし、暮らしを見つめ直すことがコンセプトです。ですので、反体制の思想のある雑誌です。
ですが、花森安治さんの半生を知り、とても意外というかなんというか……読み始めには大きな戸惑いも感じました。
「ペンは剣よりも強し」を地で行くはずの優秀な青年が、こうもあっけなく体制に呑みこまれ、戦地で銃を構え、人を撃つ。病気により本土へ帰ってきてからも、先輩に誘われ翼賛会で活躍をする。ペンが持っている大きな力を、戦争を躍動し、国を鼓舞する力に使うのです。
戦争というのは、一人の力では抗えない大きな蠢きなのだろうか。花森安治ほどの人でも、「流れ」から離れることはできないのか……ゾッとする読書体験でした。
大橋鎭子さんと出会い、『暮しの手帖』の創刊に際してのエネルギッシュさや、戦後の花森安治さんの活躍が爽快であればあるほど、戦時中の彼の様子が浮き彫りになるようでした。
広告とは、デザインが持っている力とは
『花森安治の青春』を、あさよるは文庫版で読みました。まぁまぁぶ厚めな文庫です。
どんなボリュームもある内容かとビビっていましたがw、思いの外読みやすい文体で、物語っぽく時系列に話が進んでゆくので、一気に読み切りました。
しかし先に上げたように、ショッキングというか、胸にズシンと重いものが残る読書でした。広告とは、編集とは、デザインとは何だろうと、答えのない問が降り掛かってきたようです。
広告やデザイン関連の仕事をしている人、目指している人は、花森安治の思想、生き方に触れてみることをすすめたい。あさよるも広告・デザイン系出身で、他人事と思えない内容だったからです。
サクッと読める上に、読み応えもある内容で、よい読書でした( ´∀`)bグッ!
花森安治の青春
目次情報
一 花森安治の机
二 西洋館と千鳥城
三 帝大新聞のストーブ
四 松花江の夕映え
五 宣伝技術家の翼賛運動
六 花森安吾の一番長い日
七 日本読書新聞の大橋鎭子
八 ニコライ堂のフライパン
九 松葉どんぶりと胡麻じるこ
十 花森安吾の一戔五厘の旗
参考文献
あとがき
文庫版あとがき
解説――後藤正治
馬場 マコト(ばば・まこと)
1947年石川県金沢市生まれ。早稲田大学卒業後日本リクルートセンター入社。マッキャンエリクソン博報堂、東急エージェンシー制作局を経て、1999年より広告企画会社を主宰。新聞協会賞、ACC賞、電通テレビ部門賞、ロンドン国際広告賞など受賞歴多数。『ビッグ・アップル・ラン』(講談社)で第6回潮ノンフィクション賞優秀賞。著書には『戦争と広告』(白泉社)、『朱の記憶 亀倉雄策伝』(日経BP社)など多数。
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