大いなるマンネリ?『陰陽師 螢火ノ巻』を読んだよ

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夢枕獏『陰陽師』書影

今宵も、京の都の土御門大路の屋敷の縁側で、安倍晴明(あべの せいめい)と源博雅(みなもとの ひろまさ)は、ゆるゆると二人、酒を飲んでいる。
10年前もそうだったし、20年前もそうだった。

人気シリーズになった夢枕獏氏の「陰陽師」シリーズは、もうかれこれ30年もの間、ポツリポツリと連載されつづてている。
きっと、10年後も20年後も、彼らは同じように酒を飲んでいるだろう。

マンネリであることがファンの喜び

「陰陽師」シリーズは、愛すべき「大いなるマンネリ」シリーズだ。
作者の夢枕獏さん自身も『陰陽師 太極ノ巻』のあとがきで、「マンネリを恐れない」と書かれていた。
それはシリーズのファンにとっては嬉しい一言だった。


「マンネリ」というと悪い印象があるかもしれない。
面白くないとか、退屈とか、そういうイメージとくっついているかもしれない。
が、実際には違う。
『水戸黄門』や『ウルトラマン』も、『サザエさん』も『ドラえもん』もずうっと同じことを繰り返す。
シェイクスピアだって、スターウォーズだって、お決まりのお話だ。
だからと言って、私たちはそれらの物語を、悪いものだとは思わない。
大いなるマンネリバンザイ、なのである。

マンネリは「定番」であり「ベタ」である。
私たちはそれを愛している。
春が来て夏になり、秋が終わると冬が来る。冬の寒さもいつの間にか和らぎ、また春がくる。
自然界こそベタ、マンネリを繰り返している。
そして、それこそが平穏であり、幸福であろう。

安倍晴明と源博雅は今日も縁側でゆるゆると酒を飲んでいる。
ときにうわさ話をしながら、ときに散りゆく花々を眺めながら、ただただ同じ時間をすごす。
博雅の聞いてきた頼みごとや、厄介事を晴明が聞きながら。

蛍火ノ巻

『陰陽師 蛍火ノ巻』は、蘆屋道満(あしや どうまん)が度々登場する。

蘆屋道満。
なにやら恐ろしい、悪い人物に描かれることの多い呪術師だが、夢枕版・蘆屋道満は、飄々とユーモラスな好々爺に描かれる。
ギラギラと光る目は妖しく、一杯の酒を求めて、気まぐれに人助けのようなことをする。

先ほど「大いなるマンネリ」だと書いた途端だけども、「陰陽師シリーズ」だって、どんどん描かれるものは変わっている。
ただ、晴明と博雅が今宵も酒を呑むように、道満も今宵酒を呑む。
スポットライトに照らされる場所が変われど、彼らはなにも変わらない。
それだけのことだ。

メディアミックスされる『陰陽師』

さて、小説「陰陽師シリーズ」のキャラクターたちは、つつがなく同じ日々を過ごしている。
それこそがファンの喜びだ。

一方、それを原作に、メディアミックスされた作品たちは、違った道へ進んでゆく

代表すべきは岡野玲子のコミックス『陰陽師』だ。

名作コミックス『陰陽師』が巣立ってゆく


コミックス『陰陽師』は全13巻刊行されている。
夢枕獏の小説を原作に沿った物語が紡がれていたが、どんどんと巻を追うごとに「岡野版・陰陽師」として、原作とは全く違った高みへ上り詰めた。
まるで神話の世界のような物語と、美しいタッチ、むせ返るような細やかな空気感が官能的。

さらに、2011年より『陰陽師 玉手匣』がスタートした。


こちらはすでに、原作から“原案”夢枕獏となり、全く違った歩みを始めている。
無印のコミックス『陰陽師』の頃の、息を呑むような細密な世界観から一変、鉛筆の線で描かれた、伸びやかで艶めかしい空気感で、胸がいっぱいになる。
現在、年一度くらいのペースで刊行されており、早く先が読みたくてむず痒い。

アクロバティックに世間へ知らしめた映画版『陰陽師』

「陰陽師シリーズ」で知名度が高いものは、映画版『陰陽師』だろう。
野村萬斎のアクロバティックな晴明像は、さすが狂言師。
狂言の演目でもバク転や激しい動きをするものがある。
身が軽い。


テレビでも何度も放映されており、知っている人も多いものだろう。
私も、なんだかんだ言いながらとっても好きだ。
また、晴明と博雅の出会いのシーンが描かれているシリーズでもある。

好きなのはNHKテレビドラマ版『陰陽師』だったりする

ちなみに、晴明と博雅。
この二人は同じ時代に生きた人ではあるが、ちと世代が違う。
ゆるゆると友人同士、身分を超えて飲み友達になるような「歳の差」ではないだろう。
と、ちょっと夢を壊すようなことを言いつつ。

メディアミックスされた作品の中では、NHK版『陰陽師』が好きだったりする。


2001年に放送され、安倍晴明を稲垣吾郎が、源博雅を杉本哲太が演じる
小説の物語を映像化されており、また見たいなぁとレンタル屋を時折さがす。
NHKのドラマなので、また再放送されるのを願う。

さらに舞台で演じられたり、2015年にも市川染五郎が安倍晴明役でテレビドラマ化された。
こちらはまだ目を通していないので、楽しみである。

陰陽師 螢火ノ巻

  • 著者:夢枕獏
  • 発行所:株式会社 文藝春秋
  • 2014年11月15日

目次情報

  • 双子針
  • 仰ぎ中納言
  • 山神の贄
  • 筏往生
  • 度南国往来
  • むばら目中納言
  • 花の下に立つ女
  • 屏風道士
  • 産養の磐
  • あとがき

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