こんにちは。あさよるです。光文社新書は、思わず手に取ってしまう煽りタイトルの本が多いですね。目を引き手に取らすという点では秀逸とも言えますが、タイトルと中身が違っていることも多いので、あまり期待をせずにページをめくり始めます(苦笑)。今回手に取った『天然ブスと人工美人どちらを選びますか?』というタイトル。もう、煽りまくっていて「はいはい、いつものやつね~」と読みはじめたのですが、話が二転三転して、予想外の結末に着地して、驚きました。
なにをテーマとしているのかわかりにくかったのですが、あさよるなりにまとめてみました。冒頭で「美人論&ブス論」は「どんな顔の人が書いているか」で印象が変わるという話から始まり、最終章では著者の容姿についての話で終わります。なるほど、著者の「顔」を知らずに読みはじめたときと、「顔」の理由について知った後では、本書の意味がまるで変っているのです。
「美のヒエラルキー」が支配する美の格差社会
本書では、この世は「見た目」が大事な美のヒエラルキーが存在する美の各社社会であるとの前提で話が進んでゆきます。書店では「美人論&ブス論」の本が溢れ、また「見た目」本が持て囃されます。大ヒットした『人は見た目が9割』が代表ですね。しかし、これらの「見た目」本は、容姿が「悪くない」人に向けた本であり、そもそも容姿が優れない人は対象外だと指摘します。
本書では、著者の山中登志子さんは、自らを「外見オンチ」と称しておられます。ここでいう「外見オンチ」とは「天然美人以外」みんなです。山中登志子さんは、10代の頃「脳下垂体腫瘍」という病気を患い、「病気で顔が変わった」という経歴を持っています。「脳下垂体腫瘍」とは、脳の脳下垂体から成長ホルモンが過剰に分泌され、体が過剰に成長し「先端巨大症」とも呼ばれる病気です。山中さんの場合は思春期の頃に発病し、顔や手足が成長し「外見オンチ」になったとの経緯を、本書の最終章にて紹介されています。
元はかわいらしい姿だった著者が病気により「顔が変わってしまった」のち、美の格差社会の中で、編集者として各所で取材を続けてこられたのが、本書です。
「天然ブスが人工美人になる」ことは想定されている
本書では「天然ブスと人工美人のどっちがいい?」という質問を著者が男性に問いかけた結果が紹介されていました。多くの男性は回答を濁し、「好きになった人の顔が好き」という模範解答をする人もいました。中には「人工美人が好き」と答える人もいました。この質問の興味深いことは、「天然ブスがいい」と答えた人はいなかったという結果です。
「人工美人」についても言及されています。人工美人……すなわち美容整形手術で人工的に美人になった人のことです。美の格差社会の中では、美人は持て囃されますが、人工美人には後ろ指をさされるのが現状です。「ブス論&美人論」の本を書いている作家の中に、美容整形手術を受けたことを公開した上で、他人の美醜について言及してる人もいますが、稀な例です。
ふしぎなことに、整形疑惑が絶えない芸能人たちは、整形についてカミングアウトしません。例外として、飯島愛さんが現役時代に整形を発表したくらいだと本書では指摘されていました。他に、プチ整形と言われる、ボトックスやシワやシミ取りを公表するくらいです。それくらいに、「美容整形」は広まっているといえど、未だに「公言しない」ことなのでしょう。
可愛い人が「外見オンチ」になった
美の各社社会では、「外見オンチ」から人工的に美人になることは想定されています。あるいは、「美人でない」ということに奮起して、外見を磨く人もいます。しかし、元々が可愛らしい人が、「外見オンチ」になったという例は想定されていません。まさに、かわいらしい容姿だった著者の山中さんが、病気によって顔が変わり、「外見オンチ」になったことは、想定外。
だから、病気のことを隠していると、男性からは恋愛対象外で、低ランクの女性として接せられ、アケスケに男性同士の下ネタにも参加できることもあるそうです。しかし、病気について明らかにすると、相手は困った様子を見せます。「外見オンチ」の理由が、病気によるものだと分かると、どう反応して良いのかわからないのです。
「外見オンチ」の恋愛、セックス、人生観
本書『天然ブスと人工美人どちらを選びますか?』では、人はどんな顔の人の発言かによって、発言内容の受け止め方が変わる、という話から始まります。巷にあふれる「美人論&ブス論」の本を手に取れば、著者の顔写真を検索し、「この人なら語る“資格”がある」と品定めしていると、著者は言います。
本書も、著者の山中登志子さんの病気については伏せ、著者が自らを「外見オンチ」だと自称していて、執拗に人の容姿についてこだわっているようにページは進んでゆきます。そして最終章にて、著者の「顔が変わった」理由についてネタばらしばなされ「ああ、この人ならこの本を書く“資格”がある」と納得させる構成なのでしょう。最後まで読むと、著者の立場が分かるので、本書に書かれている内容が、また違った意味で読めてしまうからオソロシイのです。
本書では病気で顔が変わってしまった著者による、恋愛やセックス、結婚や人生観も盛り込んで、話が展開してゆきます。バブル真っただ中に付き合っていた彼氏には「1千万円あげるから整形手術をしていいよ」と言われたと回想しています。「ヒューマニズムでセックスさせるな」と言われたこともあるそうです。インターネットが普及してからは、いわゆる「出会い系」で出会った人たちとのエピソードも盛り込まれています。
自分の「顔」が好きか、嫌いか
本書の最後で、山中登志子さんは
自分のからだも顔も、好きとはいえない。でも、嫌いでもない。微妙だ。でも、もっと好きなりたいと思っている。まだまだこの「変わった顔」から課題をもらっている。(p.245)
と結んでおられます。山中さんの場合、編集者という職業柄「人と違う」ことで、自分の存在を覚えてもらいやすいとも書いておられます。
この「自分のからだも顔も、好きとはいえない。でも、嫌いでもない。微妙だ。」というのは、多くの方が共感する言葉でもあるのではないかと思いました。「美の各社社会」とはよく言ったもので、誰もが自分の容姿について、なんらかを感じて生きているのではないでしょうか。
そういえば あさよるも昔、自分の容姿にコンプレックスがあって、他人と真正面から目を合わせられなかったことがありました。恥ずかしくて俯いてしまったり、顔を手で隠してしまったり、今もクセでやってしまいます。他人から容姿について特に指摘された記憶はありませんが、ちゃんと「美人じゃない」と空気を読んでいたのです……。コンプレックスについて、真っすぐ見つめてこなかったから、自分を振り返りつつ、コンプレックスから周りの人に勘違いをさせるような言動をしていたなあと思いました。
本書では、自分の容姿にコンプレックスがあっても、人間には「フェチ」があり、「どこかにあなたのマニアがいる」というのが印象的です。
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天然ブスと人工美人 どちらを選びますか?
目次情報
1章 「美人論&ブス論」の書き手の顔
「美人論&ブス論」を書く“資格”/姫野カオルコと菜摘ひかるの美容整形小説/フェミ業界は「外見オンチ」を救えるか?/林真理子の、生きた「美人論&ブス論」/大石静『わたしってブスだったの?』/著書に顔写真を載せたくない著者たち/「外見オンチ」が対象ではない「見た目」本/興味深い「顔」当事者たちの顔面本/『買ってはいけない』の企画・編集・執筆者/なんだ、ブスじゃん!/「美人論&ブス論」を書きたくなった動機
2章 美の格差社会――私的「美人論&ブス論」
美人とブスのシンプルな区別/美の各社社会/「ミスコン」世界一の森理世さんはなぜ叩かれたのか/山本モナのリベンジとキャラ変え/はっきりしない女も、はっきりしすぎる女もダメ/おバカキャラのスザンヌに学ぶ「癒し」「隙」/天然美人、人工美人、天然ブス、人工ブス/顔の“偽装”/スポーツ界での顔の「勝ち組」たち/メディアでの美人の「場の支配力」/人工美人で思い浮かぶタレント/旬と永遠/カムバックを期待され続ける山口百恵/おじさまたちの「永遠」吉永小百合/“自力”の天然美人/天然ブスと人工美人のどっちを選ぶ?
3章 顔が変わった女たち
すっぴんのあゆの顔に触れた美容外科医/美容整形とプチ整形の違い/全身美容整形映画『美人はつらいよ』が韓国で大ヒット/美に価値を置きつつ、整形手術組には後ろ指/コミカルなコミック『カンナさん大成功です!』/“米倉涼子”が天然ブスから人工美人へ/山田優主演映画「整形美人ですが、何か?」/『ハンサム★スーツ』の使用前&使用後/美人と思ったことは一度もない?/美容整形をカムアウトしたタレントたち
4章 顔とカラダにメス――美容整形
美容整形番組『ビューティー・コロシアム』/一〇〇〇万円で美容整形できた過去/大塚美容整形外科の無料カウンセリングへ/美のプロフェッショナルの美容外科医/考えられるのはあごと鼻の手術/「変わった顔」へのメス代一六四万円/美容外科医が「視力を失い見えたもの」/「外見オンチ」のスピリチュアル処方箋/美容整形の失敗からネット心中/美容整形をカムアウトした飯島愛のホンネ/「美人論&ブス論」を書くきかっけ
5章 フェチが「外見オンチ」を救う
「外見オンチ」の恋愛通信簿/顔はマルコ、生き方はブラック・ジャック/永遠の手フェチ/モテそうにない秀才東大生/不幸フェチとコミットメントフォービア/スナフキン好きは性欲の感知度が強い/素直に自分のフェチを認める/どこかにあなたのマニアがいる
6章 「見た目」とセックス
どんな相手でもセックスできるのか?/「外見オンチ」コンプレックスとセックス/「ヒューマニズムでセックスさせるな」/『ユー・ガット・メール』恋愛なんてない/メル友探し「エキサイト」でモテモテ/『アルジャーノンに花束を』好きの一八歳フリーター/白川郷のツアーに一緒に参加/同世代との出会いもカメラが縁/メールだけでは終わらない/ヨーロッパで出会った男性たち/一〇歳年下の男性と出会った雪の日/会社のメールアドレスから「出会い系」へ/超有名企業のエンジニア/早期退職組の有名メーカー部長/家に居場所がないという技術者/ロス在住の明るいエリート社員/中小企業のオーナー/下着フェチ談義/ぽちゃ好きな新聞記者との出会い/大学生たち/ぽちゃ好きも多い/それっきり、相手から切られたケース/「出会い系」で彷徨った数年間/高学歴、有名企業の癒されたい男たち/東電OLはわたし
7章 顔の履歴書
顔が変わってしまった/患者は一〇〇万人に三~四人/カムアウトの必須アイテムは「顔」/「外見」ランキング下位からランキング外へ/初恋の人に出会った受験会場/二度と開かなかった卒業アルバム/病院で顔に向けられたカメラ/八センチもの太ももの傷/大学四年のとき考えた就職と結婚/“人権派”という錯覚/テレビでよく見かける有名男性の視線/美容院は一つの鬼門/靴のサイズは24.5幅広4E/『24.5のブルース』とシンデレラ/ベトナムで「おかま」の合唱/報道写真家との出会いとヌードの油絵/わたしなりの“悪友”とのつきあい方
おわりに――外見オンチ応援カウンセラー
山中 登志子(やまなか・としこ)
1966年山口県岩国市生まれ。お茶の水大学(家族関係学専攻)卒業。編集家、「通販あれこれ」(http://www.rakuten.co.jp/arekore)店長、化粧品企画&プロデュース会社「萬株式会社」プロデューサー。200万部のベストセラー『買ってはいけない』の企画・編集・執筆者。著書に『外見オンチ闘病記』(かもがわ出版)、『第2の江原を探せ!』(共著、扶桑社)などがある。
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