『はじめての土偶』を読んだよ|太陽の塔は土偶?

土偶のように見える「太陽の塔」の後ろ姿。黒い太陽が描かれる 20 歴史、世界史、文化史

三が日も終わりお正月ムードもそろそろ終えて、日常モードへ戻らないといけません。
しめ縄や門松などのお正月飾りも、1月14日、15日くらいに、燃やしてしまう行事がありますね。この行事自体は全国的に分布しているそうですが、呼び名が様々です。私の住んでいる地域では「とんど」とか「どんと」と言いますが、ウィキペディアには「左義長」という言葉で紹介されていました。初めて知った言葉でした。

と言っても、私の生まれ育った地域では「とんど」あるいは「左義長」の習慣がありませんでした。お正月飾りは「神様の物だから、人間が勝手に触ってはいけない」と教えられ、実際に各家の玄関には一年中しめ縄が下がっています。毎年、古いしめ縄の上から新しいしめ縄をつけてゆくのです。その内勝手に取れて落ちたら「神様がいらなくなった」というわけです。

しかし、お正月飾りの意味を調べると、お正月が済めば燃やしてしまう理由もわかるような気がします。むしろ、とんどを終えないと新たな一年が始まらないのかもしれません。

捨てられるために生まれてきたもの

お正月の直前まで、大掃除に明け暮れていました。そこで用意する掃除用品ですが、なかなか面白いものがたくさんあります。
中でも「ゴミ袋」という存在の不可解さが気になって仕方がありませんでした。今では殆どの自治体ごとに決められた指定ごみ袋を、多くの地域では購入します。昔ながらの黒いゴミ袋もやはり、「捨てるため」に存在するのです。「ゴミ袋の本分は捨てられること」なんです。捨てられてこそのゴミ袋です。

神様の話とゴミ袋を一緒にしては怒られてしまうかもしれませんが、穢れを清めるためには必ず必要なものです。捨てられるために生れ出づるゴミ袋に思いを馳せます。

粉々に砕かれた土偶たち

実は土偶も、捨てられるために生み出されてたものだと言われています。
土偶の多くは、バラバラに砕けてゴミ捨て場から見つかります。古いものなので割れてしまっているのは当然かと思いますが『はじめての土偶』では、発見されている全ての土偶が割れていることが紹介されています。欠損せずに出土した土偶はゼロなのです。
しかも、多くは粉々で、しかもゴミ捨て場である貝塚の端と端だったり、別の貝塚からパーツが見つかることもあるようです。わざわざ土偶を割り、それを意図的に貝塚に捨てているようなのです。

土偶の多くは女性の形をしています。乳房や女性器、キュッとくびれたウエストなど、女性らしい部位が強調された姿です。しかも、妊婦であることが多いのです。ふっくらと膨らんだお腹に、妊娠中にお腹にできる正中線が表現されています。

土偶がなにか神聖な、特別な目的で作られたのではないかと考えられているのは、多くが女性的であること、更に妊婦を象っていることが多いこと、そして、それを粉々にして廃棄しているからです。
今でも、人間へ厄が降りかからないよう、厄除けで器や持ち物を人の代わりに壊してしまう習慣があります。葬儀で、故人の使っていた食器を割る風習も、同じような理由でしょう。

命の誕生は今もなお神聖で神秘的

さて、土偶はなぜ割られているのでしょうか。安産祈願で妊婦の像を割ったのかもしれませんし、妊娠出産という不思議で神秘的な力を大地に注ぎ、豊穣を願ったのかもしれません。
本書『はじめての土偶』は、学術書というよりは、土偶のカラーグラビアがたくさん掲載され、その形状やシルエット、細かな装飾など、古代の人々の造形の豊かさに感嘆させられます。そして、細かなディテールを知ることで、これが何か意味のある、特別なものであっただろうと感じられます。
更にそれだけではなく、奈良女子大学の武藤先生のコラムや解説も充実していますから、まさに『はじめての土偶』というタイトルに相応しい内容です。

縄文土器を高く評価した岡本太郎「太陽の塔」も現代の土偶?

岡本太郎も、縄文土器を高く評価していた一人です。代表作である「太陽の塔」も、土偶のようにも見えますね。それは不思議な顔やポーズだけではありません。『はじめての土偶』を読み、土偶への理解を一つ深めから見ると「太陽の塔」に描かれた不思議な模様が、土偶表面に施された装飾に通ずるように思えます。内部に「生命の木」が内蔵されているのも、土偶が妊婦であり、命を宿していることを連想させます。
さらに本来ならば、万博で建てられた施設は解体しなければなりません。太陽の塔は特例で現存していますが、万博の終了とともに壊されていたものです。ここも、土偶との類似を感じます。

と言っても、岡本太郎自身は、太陽の塔と土偶の関係について何も言及していませんから、すべて空想のお話です。しかし、今やどう見ても土偶に見えるようになってしまいました。

はじめての土偶

  • 監修:武藤康弘
  • 取材・文:譽田亜紀子
  • 発行所:世界文化社
  • 2014年8月1日

目次情報

  • ようこそ、土偶の世界へ!
  • ざっくりわかる土偶年表
  • 土偶が見つかった場所
  • 第1章 ドッキリな人たち
    仮面の女神/ミミズク土偶/遮光器土偶/合掌土偶/両腕を広げる板状土偶/板状土偶/中空土偶/壺を持つ妊婦土偶/山形土偶/板状土偶/有孔鍔付土器
    ・DOGU 基本の「キ」 ①土偶 Q&A
  • 第2章 5人の女神たち
    縄文のビーナス/縄文の女神/相谷熊原土偶/土偶/遮光器土偶
    ・Column 土偶をよく見る① なぜ土偶は女性を表しているといわれるのか
    ・DOGU 基本の「キ」 ②縄文人の暮らし
  • 第3章 対決!テーマで見る土偶
    ポーズを取る土偶/動物顔の土偶/カタチ対決
    ・Column 土偶をよく見る② 表情いろいろ
    髪形対決/仮面土偶/遮光器土偶
    ・Column 土偶をよく見る③ 文様いろいろ
    大小土偶/三角頭/赤い土偶
    ・Column 土偶の仲間たち 動物土製品
    円錐・筒形土偶/母子土偶
    ・Column 「現在人と土偶」土偶再発見!
  • 第4章 土偶に会いに行こう!
    中空土偶に会いに行こう/合掌土偶に会いに行こう/縄文の女神に会いに行こう/縄文のビーナス、仮面の女神に会いに行こう
    ・Column 発掘と修復① 土偶はどのように掘り出されるのか
    ・Column 発掘と修復② 土偶が展示されるまで
  • ここでも会える!本書で紹介した土偶の展示・所蔵館一覧

監修

武藤 康弘(むとう・やすひろ)

1956年秋田県生まれ。85年國學院大學大学院修士課程修了。97年博士(文学)東京大学。87年東京大学助手。99年奈良女子大学助教授、2011年同大学教授、現在に至る。少年時代から、曾祖父の血を引いた考古少年で、秋田の山野で縄文土器や石器を拾いまくる。中学3年生の時に、秋田県湯沢市の鐙田遺跡の発掘で、掘り出されたばかりのほぼ完形の結髪土偶を手にしたのが土偶との最初の出会いである。

譽田 亜紀子(こんだ・あきこ)

岐阜県生まれ。フリーのライター。2010年に出版された『奈良で「デザイン」を考えてみました』取材中に奈良県観音寺本馬遺跡から出土した土偶に出会い、造形の素晴らしさに衝撃を受ける。現在、ひとりでも多くの人に土偶の面白さを伝えるために活動中。

コメント

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