『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』|読者も〈創作〉したくなる

こんにちは。とある美術系の短大へ進学しデザインの勉強をしながら順調に留年し、満期で退学。その後、フラフラしながらブログを書いている あさよるです。今回読んだ『最後の秘境東京藝大』風に言えば「行方不明」になっている人間です(・ω<)

さて、本書『最後の秘境東京藝大』は、音楽、美術、工芸系出身の人にとって、読んでるだけでムクムクとやる気が湧いてきて、本を放り出しちゃうような、創作意欲が刺激される内容。その辺の自己啓発本よりも「そうだ、こうしたかったんだ」と、いつかの創作意欲的な何かが刺激される内容です。

上野の森の音校と美校

著者・二宮敦人さんは小説家で、奥様が現役の東京藝大の学生であり、奥様を通して藝大生の摩訶不思議な生態に触れ、このようなノンフィクションの執筆が始まったらしい。ちなみに奥様は彫刻科らしい。

東京藝大は国立大学で唯一の芸術系大学で、大ざっぱに音楽と美術系の専攻にわかれ、それぞれが「音校」「美校」と呼び分けられている、らしい。音校と美校は学生の雰囲気もパッと見て違うよう。

彼らの性格も違う。音校では教授は師匠であり、ステージに立つ彼らは日ごろから身のこなしや身だしなみにも気を配る。楽器の奏者であるにはお金もかかるようで、仕送りの金額もデカい。また、ケガをしてはいけない等の配慮から、家事をしないなど、徹底しなければならない。

一方、美校では、授業が始まっても教授も学生も全員遅刻だったり、見た目もかなり個性的。教授だって、とても国立大学の教授陣には見えないような、汗にまみれたニオイ漂っていたりもする。そんで、いわゆる座学は20単位ほどで、あとは創作。ほぼ放置。著者の奥様も、ほとんど出席せずに自宅で創作活動をしているようだ。だから「やりたいことが見つけられない人」はここは向かない。

生き残る者はわずか

東京藝大は、超難関校だ。東京大学よりも倍率が高い! 何年も浪人するのが当たり前で、藝大に入学してくる時点で「選ばれた人」なのだ。しかし、その藝大でも、卒業後ほとんどは行方不明らしい。プロとして生き残のはごくわずかで、数十年に何人の天才を生み出すためのカリキュラムだとも言える。

国立大学だとはいえ、なかなかシビア。そんな中、美校のデザイン科だけはビジネスライクで儲かることしかしないというキャラが際立っている。

音校の競争もすさまじく「受験で肩を壊す」というスポ根マンガか!という話や、やはり日本中の音楽大学で学生が育っていて、ライバル関係にあるらしい。ヨーロッパへ留学する人は、言語やアジア人であることも壁になりえるそうだ。そんな中、飄々と口笛奏者をめざす人や、考古学の研究で音楽を学んでいる人など、斜め上な人も登場する。とりあえず、全員天才にしか思えないんだが。

みんな真面目だ!

音校の人たちは、ただただひたむきで「スポ根」顔負け。インタビューに答えている人たちは、みんな謙虚であり、自分のやってることに手ごたえがある様子で、読んでいて清々しい。

で、美校の人たちは、クソ真面目に不真面目なことを掘り下げていて、頭が下がる。アイデアが脳裏を過っても、実際にやっちゃうのは、やっぱスゴイ。普通はさ、酒の肴にキャッキャ騒いで終わりでしょ。美校の、実習がほぼ放置状態というのも、これで成立しているのは各自真面目に創作をしているからに他ならない。「学生を放置ししとけば勝手に研究してくる」なんてこと、ある?

自分の進路を考えずにおれなかった

あさよるはかつて広告デザインを勉強したのですが、「これから」のことをぼんやり考えてしまった。そもそも美大は親のすすめで、デザインも「喰いっぱぐれがない」という消極的な理由で選んだ。本音を言うと、工芸系へ進みたかった。

これからの自分の進路、「創作」をしてもいいのかもな。

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最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常

目次情報

はじめに

1.不思議の国に密入国

オペラとゴリラの境界線 妻の腕が筋肉質なわけ
上野動物園のペンギンを一本釣り?
全員遅刻v.s.時間厳守 仕送り毎月五十万

2.才能だけでは入れない

受験で肩を壊す 三浪くらいは当り前 “選手生命”を考えて浪人する
問題見なくていいじゃないか 全音符の書き順は?
筋肉がないと脱落 ホルンで四コマ漫画を

3.好きと嫌い

元ホストクラブ経営者 教授たちの「膠会議」
四十時間描きつづける 義理立てしてヴァイオリンを捨てる
嫌いだからこそ 伝えられるもの

4.天才たちの頭の中

口笛チャンピオン オーケストラに口笛を
現代の「田中久重」 宇宙の果てから来た漆
「かぶれは友達」

5.時間は平等に流れない

親知らずも抜けない 建築家の段ボールハウス
一緒に泊まって、一緒にご飯食べて、一緒に寝る
恋愛と、作品と

6.音楽で一番大事なこと

寝ても醒めてもフル再生
指導者は真っ裸 自主練は九時間
楽器のための「体」 目が見えなくなっても、片腕をもがれても
全員で呼吸する

7.大仏、ピアス、自由の女神

謎の“金三兄弟” 命取りになる機械しか置いていない
貴金属の相場は毎日確認 蒸気で睫毛が燃えそう
離れたくても、離れられない

8.楽器の一部になる

踊る打楽器奏者 最初の一音で癖を見抜く
理想の音 楽器別人間図鑑
最終兵器「響声破笛丸」

9.人生が作品になる

仮面ヒーロー「ブラジャー・ウーマン」
ちんちんはいつか生えてくるもの?
人生と作品は血管で繋がっている
恋愛の練習 毎週のように誰かを口説く

10.先端と本質

納豆はタレつき? タレなし?
家の中に雨を降らせる ひょうたんを出産?
アスファルトの車、ゴミ箱ポスト
いかに無駄なものを作るか

11.古典は生きている

キラキラシャミセニスト ボカロと三味線
演奏者は考古学者 バロック音楽という電撃
末端は本当に美しくなければならない

12.「ダメ人間製造大学」?

半分くらい行方不明
芸術は教えられるものじゃない
オルガンのホームパーティー
六十代の同級生 仕事をしていない時間がない

13.「藝祭」は爆発だ!

手作り神輿と絶叫する学長
立ち聞きにも長蛇の列
ミスコンは団体競技?
夜更けのサンバと「突き落とし係」

14.美と音の化学反応

同級生は自分だけ
仏像を学ぶために音楽を学ぶ
売れる曲も、売れない曲も
美術と音楽の融合

二宮 敦人(にのみや・あつと)

1985年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。2009年に『!』(アルファポリス)でデビュー。ユニークな着眼と発想、周到な取材に支えられた数々の小説を送り出し人気を博す。『郵便配達人 花木瞳子が顧り見る』(TO文庫)、『占い処・陽仙堂の統計科学』(角川文庫)、『一番線に謎が到着します』(幻冬舎文庫)、『廃校の博物館 Dr.片倉の生物学入門』(講談社タイガ)など著者多数。本書が初めてのノンフィクション作品となる。

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