【書評/レビュー】黒崎直『水洗トイレは古代にもあった トイレ考古学入門』を読んだよ

黒崎直『水洗トイレは古代にもあった―トイレ考古学入門』書影 20 歴史、世界史、文化史

トイレに関する話を、子供たちは大好きです。排泄の何が面白いというのかと不思議ですが、自分たちもかつてそうだったのです。トイレの話題でツボに入ってゲラゲラ笑い転げなくなることは、子供から大人になることなのかもしれません。

排泄は生きることと直結しています。食べることと排泄は一つの行為のはじめと終わりです。
「食べる」ことは、生き物の命を奪い罪や穢れをも連想させることであると同時に、生きる歓びを文字通り噛みしめることでもあります。
それに対し、「排泄する」ことは、「笑い」と繋がっているのは、なかなか面白い気がします。
なにか、人間の感情の出処というか、そういうものなのかもしれません。

ありふれたものから忘れてしまう。トイレは記録に残りにくい

トイレへは朝昼晩と私たちは足繁く通います。あまりにもありふれた風景です。
ありふれたものは、意外と記憶に残りにくかったりします。デパートで買い物をしたことは覚えているけれども、途中立ち寄ったトイレの設えを覚えていないこともあります。

初めて行ったレストランについてや、テーマパークでおみやげを買ったことなど、「特別な出来事」は、日記に書いたり写真に撮ったり、私たちは記録に残します。

しかしトイレは、その性質上、写真を撮るのもなんだか憚れるし、できれば、さっさと用を足して、次のことで頭がいっぱいになる場所ですから、あんまり詳細に観察もしませんし、事細かに覚えてもいません。

昔の人達も、トイレについて書き残してくれなかった

それは昔の人達も同じで、トイレに関することは、あまり多く残っていないのです。どんな形をして、どんな場所にあって、どうやって用を足したのかも、謎が多い。
トイレは、食事をするのと同じだけ大切で、生きるためにかけがえのない場所なのに、です。

そして現在も、遺跡の発掘調査でも、「トイレ」跡には注意を払ってこなかったようです。『水洗トイレは古代にもあった』では、トイレ発掘の経緯と、その難しさが紹介されています。
発掘中「トイレの遺跡」は話題にはなっても、後回しにされがちだったそうです。それは、忘れていたとか怠けていたとかではなく、「これはトイレだ」と断定することがとても難しいそうなのです。

トイレはもちろん、そこで人間が用を足す場所なのです。が、おまるに用を足して、ゴミ捨て場に中身を捨てることもありえます。またトイレのことを「厠(かわや)」と言うくらいですから、「川屋」水の流れる川に囲いをつけたり、板を渡してトイレにすることもあります。
その場合は、その用水路がトイレであった証拠を掴まないといけません。

ウンチを真面目に調べるなんて、やっぱり面白い

「トイレっぽいなぁ」とは分かっても、「ここはトイレだ!」と言い切ることが大変なのですね。

トイレの遺跡の「中身」を調べると、当時の人達の食べていたものが分かります。
寄生虫の卵を調べると、生物をよく食べていたそうです。生魚や生野菜が大好きとは、今の私たちと変わりませんね。親近感が湧きました。
だけど、もし、自分の「トイレの後」のものが、何千年も残ってしまって、未来の人に調べられたら、それはとても恥ずかしいですし、そんなものを真剣に発掘調査している未来の人が面白いですね。

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水洗トイレは古代にもあった―トイレ考古学入門

  • 著者:黒崎直
  • 発行所:株式会社 吉川弘文館
  • 2009年12月10日

目次情報

  • プロローグ トイレ遺構とは?
    発掘調査とトイレ遺構/発掘現場でトイレを見つける/トイレの考古学/トイレ以降のイメージ
  • Ⅰ トイレの考古学
    • 1 トイレ遺構の発見
      福井県一乗谷朝倉氏遺構の金隠し/石積施設がトイレだ/東北地方の籌木出土遺構/福岡市鴻臚館跡のトイレ/奈良県藤原京跡のトイレ遺構/トイレ遺構の意味
    • 2 トイレ考古学のはじまり
      土壌の分析/ウォーター・フローテーション法/昆虫/種実/魚骨/花粉と寄生虫卵の抽出/寄生虫卵/科学的なトイレ考古学の確立
    • 3 発掘された藤原京・平城京のトイレ遺構
      藤原京跡右京七条一坊のトイレ/トイレの構造/トイレから見つかったもの/誰が使ったトイレなのか?/トイレ考古学における新たな見解/平城京跡左京二条二坊五坪のトイレ/藤原京跡右京九条四坊のトイレ/次々と発見されるトイレ
    • 4 長岡京・平安京のトイレ遺構
      長岡京跡のトイレ/長岡京跡の水洗トイレ/平安京跡の水洗トイレ/水洗式トイレへの規制
    • 5 藤原宮・平城宮のトイレ事情
      藤原宮跡の水洗(厠)式トイレ/溝を跨ぐ共同トイレ/平城宮跡の水洗(厠)式トイレ
  • Ⅱ 古代のトイレ――宮都のトイレ事情
    • 1 トイレ遺構への批判について
      トイレ遺構の再検討/水洗(厠)式トイレ説批判について/水洗(樋殿)式トイレ説批判について/土坑式トイレ批判について/トイレ遺構研究の課題
    • 2 文献資料に見える古代のトイレと便器
      古代の史料からトイレを探す/天皇のトイレ/貴族のトイレ/寺院のトイレ/虎子・彫木・樋/古代におけるトイレ・便器の名称/樋洗童と侍/史料見える土坑式トイレ
    • 3 平安京のウンチはイヌが食う――絵画資料が語る古代・中世のトイレ
      『餓鬼草紙』の一場面/『慕帰絵詞』のトイレ/ウンチを食べる犬/自分のウンチが犬に食われる?!
    • 4 移動式トイレを求めて
      移動式トイレの姿は?/「小便」と墨書きされた土器/平瓶は溲瓶か?/白色物質はギブサイト/秋田城遺跡の白色物質の鑑定
  • Ⅲ トイレ風土記――日本各地のトイレ事情
    • 1 日本列島、西のトイレ・北のトイレ
      鴻臚館跡のトイレは深度日本一/もう一組あった鴻臚館跡のトイレ/秋田城跡のトイレは清潔度日本一/特別構造のトイレが作られた意味
    • 2 奥州平泉のトイレ遺構
      平泉と柳之御所遺跡/籌木の発見/籌木土坑とウリ種土坑/柳之御所遺跡の遺構/再び籌木土坑とウリ種土坑について
    • 3 鎌倉武家屋敷郡のトイレ遺構
    • 鎌倉におけるトイレ遺構の発見/政所跡のトイレ遺構/米町遺構のトイレ遺構/水洗式トイレ遺構の発見/トイレ遺構の特徴
    • 4 戦国武将たちのトイレ遺構
      一乗谷朝倉氏遺構跡のトイレ遺構を科学する/堺環濠都市遺跡のトイレ遺構/広島県吉川元春館跡のトイレ遺構/鑑賞するトイレ―肥前名古屋城跡のトイレ遺構
  • Ⅳ トイレ遺構あれこれ
    • 1 最古のトイレ遺構を求めて
      貝塚の糞石/弥生時代の環濠集落/古墳時代の黙想樋はトイレか?/黙想樋は水洗式の便器/黙想樋は出産に関わる施設
    • 2 トイレ遺構の諸問題
      トイレ変遷の諸段階/韓国のトイレ遺構/平城宮大嘗宮の厠跡/寄生虫の生活史/生食好きの日本人/食物残渣/ベニバナは駆虫剤か?/漢方薬の処方/トイレの配置と遮蔽施設/人糞肥料の使用/寄生虫卵と籌木/上水道か、下水道か?
  • エピローグ トイレ考古学のめざすもの
    古代の環境とトイレ遺構/古代宮都の排水システム/トイレ考古学の現在と未来
  • あとがき
  • 図表一覧

著者紹介

黒崎 直(くろさき・ただし)

一九四六年、京都市に生まれる
一九六八年、立命館大学文学部史学科卒業
奈良文化財研究所勤務を経て、
現在富山大学人文学部教授
〔主要編著書〕
『古代の農具』(『日本の美術』三五七、至文堂、一九九六年)
『古都発掘』(『岩波新書』、共著、岩波書店、一九九六年)
『トイレ遺構の総合的研究』(編著、奈良国立文化財研究所、一九九八年)
『大和山田寺跡』(共著、吉川弘文館、二〇〇二年)
『飛鳥の宮と寺』(『日本史リブレット』七一、山川出版社、二〇〇七年)

コメント

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