『生き物はどのように土にかえるのか 動植物の死骸をめぐる分解の生物学』|死から命へ続いてく

『生き物はどのように土にかえるのか』挿絵イラスト 40 自然科学

こんにちは。あさよるです。あさよるは子ども時代、ザリガニやカブトムシ、カナブン、カエルなんかの「虫」を飼っていました。時が来ると死んでしまって、お墓を作って埋めた経験もあります。子どもの頃から「生き物は死ぬと土になる」と知識として知ってはいましたが、実際にどのように土にかえってゆくのかを知りませんでした。……というか、正確には「見たことはある」けれども、あまり直視したくないものですので(色んな意味で)、薄っすらと遠目でしか見たことがないというのがホントのところ。

『生き物はどのように土にかえるのか』は、子どもの頃に知識として頭には入っていた事柄を、誰にでも分かるように易しく解説された良書です。本書が想定する読者は中学生以上。大人もぜひ読んで欲しいです。

生き物が食べられ分解され消えてゆくまで

本書では、生き物の「死後の世界」を紹介するものです。「生き物は死ぬと土にかえる」と言いますが、どうやって土へかえってゆくのか、どれくらいの時間をかけて土にかえるのか、知っている人は少ないでしょう。「死」は縁起の悪い話として、遠ざけて語られない節があります。しかし、生きるというのは死に向かうことですから、死と正面から向き合うことは生と向き合うことと同義でしょう。

本書は大きく3つの章からなっています。一つ目は動物が死んだあと、どのように分解され、土にかえってゆくのか。ゾウとクジラの死体が分化されてゆく過程が取り上げられます。二つ目は落ち葉が分解され土にかえってゆくまでの課程です。3つめは、「分解」に注目します。

動物の死体が腐って食べられ、分解されてゆく過程を扱っているので、「むごい」とか「グロい」と感じる人や案じる時もあるでしょうから、そのときのコンディションに合わせてどうぞ。だけど、動物は死んでも、その死体が次の命を産み繋ぎ、次々と命が数珠つなぎのように連なっている様子は、目の当たりにするととても感動します。日本では残念ながら(?)人は火葬されますが、それでも大気に熱となって放出され、それは他の生命に影響を及ぼすでしょう。自分もその大きな循環の一部なんだと知ると、なんだか安心できて、本書『生き物はどのように土にかえるのか』を読んでよかったと思いました。

壊れ、食べられ、腐り、なくなってゆく

生き物が死ぬと、まず細部が自ら酵素を出して壊れてゆくそうです。そうこうしている間に「分解者」がやってきます。地上で哺乳類が死ぬと、他の哺乳類や鳥類が肉を食べ、虫たちが集まります。この虫たちの仕事が重要で、虫が来ないようにネットの中に死体を入れておいても、なかなか分解が進まないそうです。身体はバラバラに持ち去られ、体液は地面へ染み込みます。氷に覆われた地域では、動物の亡骸を栄養に植物が生えます。

クジラの死後もダイナミックです。クジラの死体は一度体内で発生するガスにより浮上しますが、そのあとは海の底に沈みます。光も届かないような深海では、クジラの死体がコロニーのように、その周りに分解者が集まります。海底に栄養を届けるんですね。

植物は意外にも、腐るまで時間がかかるそうです。樹齢1000年の木材は、1000年使えるなんて言われることもあるそうです。

落ち葉が降り積もって「腐葉土」を作りますが、葉っぱが分解されるまでの期間は条件によって異なりますが、何十年とかかると紹介されています。

あらゆる生き物は壊れ、食べられ、分解され、いずれなくなってゆきます。その過程で他の生き物の栄養となり、次の命から命へとバトンタッチは見事です。

生き物の〈死〉には、すごく馴染みがある

『生き物はどのように土にかえるのか』挿絵イラスト

生き物の〈死〉は、とても身近に存在しています。哲学的なことを言っているのではなくて、食べ物はみんな動物の死体ですし、衣類も、家具・調度品にも生き物の死体が使われます。例えば「発酵食品」は、大豆や小麦粉を発酵させて(腐らせて)加工します。

「死」という言葉には暗く重たい印象がありますが、我々は日ごろから生き物の死をカラッと明るく、屈託なく扱っています。

自分が死ぬことを考えるととても恐ろしいことだと思いますが、すべての生き物は別の生き物を活かすための糧になるんだと知ると、自分の身体も、他の生き物の〈何か〉になればいいなあと、のほほんと考えられるようになりました。

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目次情報

はじめに

1章 動物が腐る

1-1 アフリカゾウ、死後4年間の物語
1-2 アフリカゾウはどのように分解されていくのか
1-3 遺体の分解パターンは、さまざまな大きさのホニュウ類で共通している

column 1-1 法医昆虫学とは何か

1-4 土にかえるまでの3つの段階
1-5 「土にかえる」のに何日かかるのか
1-6 野生の掃除屋

column 1-2 法医昆虫学の方法

1-7 遺体は周辺にどのような影響を与えるのか
1-8 死後のクジラから始まる、海底生物の世界
1-9 動物は死ぬと、どこに行くのか

column 1-3 微生物を使った新しい法医学

2章 植物が腐る

2-1 落ち葉は厄介者か
2-2 植物の死
2-3 落ち葉が腐葉土になるのに、何年かかるのか

column 2-1 キノコ・カビとよばれる生き物

2-4 腐りやすい落ち葉と、腐りにくい落ち葉
2-5 落ち葉は腐ると、どう変化するのか
2-6 落ち葉を腐らせる生き物たちと、お菓子の家

column 2-2 落ち葉を腐らせるキノコを調べる

2-7 菌糸という生き方
2-8 入れ代わり立ち代わり腐らせていく
2-9 腐葉土は森のスポンジ

column 2-3 落ち葉を腐らせるカビを調べる

3章 腐るか腐らぬか、それが問題だ

3-1 腐る木材、腐らない木材
3-2 丸太が腐るのに何年かかるのか
3-3 丸太の内部で繰り広げられる、カビとキノコの戦国繚乱

column 3-1 生態学で遺体の分解にせまる

3-4 キノコが腐る
3-5 北極と南極の荒原に、コケの遺体が積もる
3-6 熱帯・亜熱帯の落ち葉は、白く腐る

column 3-2 遺体の分解は、研究テーマの宝庫

3-7 カワウのフンが降る森にて
3-8 堆肥に生まれ変わった水草
3-9 腐敗から価値が生まれる

column 3-3 分解の生態学を目指して

おわりに
参考文献

大園 享司(おおその・たかし)

同志社大学理工学部環境システム学科教授。
大阪生まれの大阪育ち。
博士(農学)、京都大学。
京都大学生態学研究センターなどを経て、現職。
専門は、生態学、生物多様性科学。

コメント

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