「親ガチャ」なんて言葉もあるけれど、実際のところ、わたしたちはどれくらい、生まれながらの要因で決まっているんでしょうか。
遺伝について研究なさっている安藤寿康さんの『日本人の9割が知らない遺伝の真実』によると、「遺伝」の要素って大きいみたいなんですよね……。
信じたくないものだな。
勘違いされがちな〈遺伝〉の話
本書では、『言ってはいけない 残酷すぎる真実』のヒットにあやかった便乗本であることが告白されています。
『言ってはいけない』は、遺伝にまつわる誤解を解く内容で、専門知識がなくても読める内容に書かれています。
しかし、ちょっと露悪的すぎでもある。
その点、『日本人の9割が~』の方は、研究者が書いた本ということもあり、言葉を選んで客観的に書こうと努めていらっしゃることが伝わってくる。
IQも年収も遺伝で決まる?
IQも年収も、遺伝によるところが大きいそうです。
面白いことに、若い頃よりも年齢を重ねた方が、遺伝の要因が強く出るそうなんですよね。
しかし、IQというのは賢さの一つの指針ではあるけれど、それだけのものです。
なのに、机の上のテストの結果によって、人々の優秀さを決め、職業を決め、それが年収を決め、その人の評価を決めてしまうのは、なんだか変な世界でもあります。
テストの結果は思わしくなくても、それ以外の能力を持ってる人ってたくさんいるからね。
頭が良いのは遺伝?
本書の冒頭で、「かけっこ王国」のたとえ話がなされます。
かけっこが速い(走るのが速い)人が評価されるこの王国では、18歳の時のかけっこ大会で進路が決まり、職業が決まり、年収が決まる世界。
かけっこは遅かったけど、他の才能を持っている人もいるのですが、社会の中では評価されません。
変な世界ですよね。
この「かけっこ」を「賢さ」に入れ替えると、今の社会も変だなあと気づかされます。
そもそも「賢さ」って?
ここでいう「賢さ」というのは、かなり狭い意味での賢さです。
知能テストで測れる「賢さ」。
つまり「IQ」の高さなんですよね。
それ以外の頭の良さや能力は客観的に測れないので、無視されてしまっているのです。
測れない才能の方が多い
当然ながら、測ることはできないけれども、他にない才能であるという事柄は存在します。
職人には職人の賢さがあるし、料理人には料理人の賢さがあります。
「勘」「センス」とか、そういう類のものですよね。
でも、そのような能力は測れないので、評価されにくいのです。
そればかりか、「測れるテスト」の点数が悪かったせいで劣等感を抱いている人すらいるかもしれません。
変な世界です。
明快な答えがある話じゃない
本書『日本人の9割が~』は現在も研究中の内容を扱っています。
さらに、これからの教育についても扱います。
だから、明快な気持ちのいい答えが用意されたものではありません。
もし、読了後のスッキリ感や感動が欲しいなら、別の書籍を。
反対に、知っているつもりでよく知らない〈遺伝〉のことや、教育、能力について、新しい発見や気づきがあるかも。
なぜだろう? どうしてだろう? と、答えはないけれども考える指針はある。
結論は「自分次第だ」と分かると、元気が出る人もいると思います。
(逆に、白けちゃう人もいるかもしれないケド)
分かりやすい才能ばかりじゃない
子どもの才能を伸ばしてやりたいと考えている方もいらっしゃいますね。
子どものうちに才能の芽が出る子っていますが、それは「見つけやすい才能」だった時の話です。
例えば、楽器の演奏が上手いとか、他の子より運動神経がいいとか、そういうの。
見つけやすい才能を持っている人は、先ほどの「測れる才能」と同じく、分かりやすいので人に評価されやすいんですね。
しかし、大人になってから芽が出てくる時間のかかる才能もあります。
地道に、社会の中で揉まれながら、少しずつ少しずつ磨かれていく才能もあります。
あくまで、子どもの頃に見つかる才能は「見つけやすい才能」のみ。
ほとんどの人は、時間をかけて才能を磨き手に入れていくんですね。
現在の教育は悪くない、でもベストでもない
現代日本の小中高の教育を著者は否定しません。
多くの人が教育を受けられることに加え、多種多様な「部活」も用意されており、自分の才能を模索する人も少なくありません。
教員の質が話題になることもありますが、概ね同じくらいの教員が用意されていることも評価しています。
しかし、今の教育がベストでもありません。
繰り返しますが、現代の教育は「測れる知能」が評価され、それ以外の人は大きな劣等感を抱くシステムでもあります。
本当は才能のあるはずの人が、劣等感を抱いてしまってはよくないですね。
多様性を見出す教育のかたち?
現在の教育がベストでないなら、どんな教育の形が望ましいのでしょうか。
本書では、学校で従来の学習をするよりも、若いうちからインターンシップに出て、本物のプロに出会い、プロの仕事を体験してみることが提案されていました。
どんどん、様々な分野に触れてゆく。
その中で自分に合った仕事を見つけたり、反対に「これは向いていない」と実感することもできます。
また、子どもの内は勉強して大人になった勉強しない社会ではなく、必要なときに勉強できる社会が必要です。
あなたの才能を見つけるために
子どもに勉強をさせても、ほとんどは忘れてしまいます。
リアル・キッザニアのように、どんどん社会の中で実際にプロの仕事に触れて、適性を見出してゆく方がいいんじゃないかってことなのでしょうか。
そして、学習は自分で、必要なもの・興味のあるものを選べばいい。
ポイントは「年齢は関係ない」ってところでしょうか。
必要とあらば、大人になっても、歳をとっても学ぶ。
本書を通しても読むと、どうやら「才能」というのは持って生まれた遺伝的なものが作用しているようです。
しかし、その才能を掘り起こし磨き上げられるかどうかは、環境や行動が作用しています。
自分で「向いてるんじゃないか」と思うことをやるのは大事。
自分の才能を伸ばすしかない!
わたしたちは生まれながらにある程度(というか、かなりの程度)、得意なこと不得意なことを持って生まれてくるようです。
だから、得意なことを伸ばすしか道はなさそうです。
不得手なことで頑張っても、それが得意な人には適わないんだから。
すごく当たり前な結論と言っちゃえばそうなのですが、その結論の根拠を示してくれているので、この『日本人の9割が知らない遺伝の真実』は読む価値アリな一冊ではないでしょうか。
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日本人の9割が知らない遺伝の真実
- 安藤寿康
- SBクリエイティブ
- 2016/12/6
目次情報
- 第1章 不条理な世界
- 第2章 知能や性格とは何か?
- 第3章 心の遺伝を調べる
- 第4章 遺伝の影響をどう考えるか
- 第5章 あるべき教育の形
- 第6章 遺伝を受け入れた社会
- あとがき
- 参考・引用文献
コメント
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