斎藤環『ヤンキー化する日本』を読んだよ

まんとくん 読書記録

「かわいい」「かわいくない」が社会を動かす?

いよいよ2015年もあと1ヶ月となりました。テレビ番組や雑誌など、様々なメディアで今年を総括する話題が飛び交い始めています。私にとって印象深かったのは、オリンピックロゴから始まったスッタモンダでした。私もかつて、デザイン業界に片足を突っ込んでいましたし、思うところが多かったのです。ロゴの盗作疑惑についてはその後の続報がないので何とも言えませんが、あまり多くの人に愛されるシンボルにはなれないまま、幕引きを迎えてしまったのでしょう。

この騒動で思い出したのは、奈良県の平城遷都1300年祭で作られたキャラクター「せんとくん騒動」でした。アーティストに依頼し作成されたキャラクターが「可愛くない」との理由で市民団体が却下を求めて署名運動にまで広まりました。

当時驚いたのは、市の方針を変えようと働きかけている理由が「可愛くない」ということでした。選考方法に不服だとか、キャラクターの必要性を疑問視するなど、反対するなら切り口はいくらでもあるんじゃないかと思いましたが、実際に「可愛くない」から署名を集めている現場に立ち会った記憶があります。
しかし幸いにも(?)せんとくんは人気キャラクターへ上り詰め、「ゆるキャラ」ブームも相まって、今も奈良県アピールのために奔走しています。ちなみに、対案として市民団体が作った「まんとくん」というキャラクターもとても可愛いので、私はどちらも好きです。

まんとくん

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http://mantokun.net/

可愛い/可愛くないとかダサイ/カッコイイとか、形のないとりとめもない「気持ち」がとても重要で、自分の、あるいは自分たちの気持ちこそ何より大切な価値観が広まっているようです。文脈や歴史、文化的背景などよりもずっと、快か不快かが重要です。

斎藤環『ヤンキー化する日本』では、それらを「ヤンキー化」「ヤンキー文化」と呼んでいます。

ヤンキーたちも美学がある

ヤンキーたちは、気持ちを重んじ、絆を、仲間を、家族を大切にします。

礼儀や伝統を守るので、変革を望みません。素直で正直な気持ちを重視し、知識や理屈を嫌います。「可愛くないからキャラクターを変えろ」というのは、まさにヤンキー的に思えます。

江戸の粋(いき)と上方の粋(すい)という言葉があります。どちらも「粋」と同じ字を使いますが読み方が違い、それぞれの指向が違います。江戸の粋は苦みばしり気風のよさ、上方の粋は甘さのあるカッコよさを「粋」としていました。

参考に九鬼周造『「いき」の構造』をどうぞ。

「粋」の文化もまた、ヤンキー的です。

粋な服装や粋な言動は確かにカッコイイのですが、とても短期的な、その場限りの価値観です。みんなのため長期的な全体の利益になるような行動を画策することは、粋ではないからです。粋は刹那的で、儚いからこそ粋なのです。ヤンキー文化も同様に、短期的に見れば、仲間思いで家族思いの心の優しい人たちです。
泰平の世が続く限りはそれでも良いのかもしれません。しかし、黒船は必ずやって来ます。

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Information

ヤンキー化する日本

  • 著者:斎藤 環
  • 発行所:KADOKAWA
  • 2014年3月10日

目次情報

  • なぜ今、ヤンキーを語るのか
  • 気合主義はアートを変えるか ヤンキーと芸術 村上隆
  • 勤勉なワルがヤンキーを指嗾する ヤンキーと半グレ 溝口敦
  • アマチュア好きの日本 ヤンキーと芸能界 デーブ・スペクター
  • 補助輪付きだった戦後民主主義 ヤンキーと国家 與那覇潤
  • ヤンキーリアリズムは「心」を重視する 元ホストと男子校 海猫沢めろん
  • 「和風建築」というつくられた伝統 ヤンキーと新歌舞伎座 隈研吾
  • あとがき

著者略歴

斎藤 環(さいとう・たまき)

1961年生まれ。岩手県出身。筑波大学医学研究科博士課程修了。医学博士。送風会佐々木病院等を経て、現在筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。専門は思春期・青年期の精神病理学、「ひきこもり」問題の治療・支援ならびに啓蒙。漫画・映画・サブカルチャー全般に通じ、新書から本格的な文芸・美術評論まで幅広く執筆。日本文化に偏在するヤンキー・テイストを分析した『世界が土曜の夜の夢なら』にて第11回角川財団学芸賞を受賞。

―斎藤環『ヤンキー化する日本』(2014、KADOKAWA)p.255

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