『衣食住の棚や箱 中身の本』を読んだよ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

nakami-1

イエス・キリストの姿はたくさんの絵画や彫刻に残されています。中でも、キリストを描いた絵画の代表としてレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を挙げても良いでしょう。
レオナルド・ダ・ヴィンチはルネサンスを代表する人物の一人で、「最後の晩餐」もルネサンスの代表作の一つです。まるでフィルムの映像を静止させたかのうに今にも動き出しそうな人々と、とても効果的に一点透視法が用いられています。

一点透視法とは遠近法の一種で、平面の絵の中に奥行きを描きます。近くのものほど大きく見え、遠くのものほど小さく見え、消失点という点に収束してゆきます。
「最後の晩餐」では、イエス・キリストたちの居る室内が一点透視法で描かれており、その消失点は中央に座るイエス・キリストのこめかみ辺りにあります。背景の線がイエスへ向かって伸びているのですから、自然とイエス・キリストの姿に視線が動きます。
写実的で、写真にとったかのように精密に描かれる絵画は、とてもルネサンス的に感じます。

不思議な造形は、なぜ?

しかし後の時代には、また写実主義とは違った絵画が登場します。
例えば「キュビズム」です。キュビズムは、対象を様々な角度から描かれたものが、一つのキャンバスの中に収まっていて、なんとも不思議な形を作っています。
同じ時代の「シュルレアリスム」も、なにやら難解で独特の世界を構築しているように見えます。

あるいは「印象派」の絵画です。印象派は日本でも人気がありますから、展示会を見に行った経験のある方も多いでしょう。しかし、こちらも「写実的」とは言い難いタッチです。

矛盾や葛藤も自分の「中身」

写真の中でおすましして、ニッコリ微笑んでいる自分の姿を想像してみましょう。確かにそれは自分自身の姿ではありますが、あくまでも自分の一面を切り取った姿です。
私たちはいつもニッコリ微笑んでいるわけではなく、時に悲しみにくれることも、時に怒りに支配されることも、時に肩を落として落ち込んでしまうこともあります。胸の内には矛盾や葛藤を誰しも抱えているでしょう。それらすべての要素が混ぜこぜに集まり、自分を形作っています。

自分の姿とは一体どのようなものなのでしょうか。写真は自分の一面を切り取りますが、あくまで一面です。

自分を形作るものはなにも、自分の肉体だけではないのかもしれません。住まいや生活、食べ物、持ち物も自分を彩ります。衣食住は自分の一部と言っても良いかもしれません。一人の人を深く知るために、その人の住環境や持ち物の一つ一つの情報は多大なのです。

『衣食住の棚や箱 中身の本』はまさに多数の人々の持ち物を、カラーグラビアで紹介される書籍です。それぞれ取材をされている方たちの生き方、考え方がチラリと垣間見れるような一冊です。鞄の中、本棚の中、クローゼットの中、食器棚の中、手帳の中……どれも、その人らしさを存分に反映させているところではないかと、自分のそれらを鑑みて思います。

雑誌「天然生活」が編集した書籍ですので、紹介されている方々の多くは、丁寧でこだわりのある暮らしをなさっている人に比重が置かれています。読者次第では、憧れの対象としても映るでしょうし、趣味の合わない人もいるでしょう。
他人の暮らし、他人の中身に触れた時、沸き起こる情動もまた、自分の中身です。
「中身の本」とは、とてもよいタイトルだと思います。

しかし本書で取り上げられているカットも、これもまたその人達の一面であって、すべてではないでしょう。外見を剥いても剥いても新たな中身が表れるのが人間です。どんどんどんどん中身を暴いていって、最後に一体何が出てくるのか、自分の生活、自分の中身まで気になる一冊でした。

中身を描き出す

どんなに写実的に忠実に繊細に一人の人間に描き出そうと、それはその人の一面です。描かれなかった“中身”を含めてその人そのものなのですから、一部分だけ克明に描き出そうと不完全に思えます。
キュビズムやシュルレアリスムをはじめ、近代以降の作家たちは、一体に何を描き出そうとしたのでしょうか。「中身」に思いを馳せてみると、これまでとはまた、見えるものが変わるのかもしれません。

中身の本―衣食住の棚や箱

  • 発行所:株式会社 地球丸
  • 2014年5月20日

目次情報

  • はじめに
  • 第1章 衣の章
    • 私のクローゼットの中身/「BROCANTE」店主 松田尚美 さん/「hal」店主 後藤由紀子 さん/クリエイター PARI YOSHIO さん/鞄作家 谷賢淑 さん/「Sugri」デザイナー 佐々木恭子 さん
    • 私の旅行バッグの中身/「SPOONFUL」主催 おさだゆかり さん/「in-kyo」店主 中川ちえ さん/「夏椿」店主 恵藤 文 さん
    • 私の裁縫箱の中身/“サロン”製作者 安藤明子 さん/スタイリスト 内田彩仍 さん/手芸作家 下田直子 さん/ニットデザイナー きゆなはれる さん/クロスステッチデザイナー 大図まこと さん/「R&D.M.Co-」デザイナー しむらとく さん
  • 第2章 食の章
    • 私の食器棚の中身/料理家 渡辺有子 さん/フラワースタイリスト 平井かずみ さん/「eb・a・gos」デザイナー 曽我部美加 さん/イラストレーター 山本祐布子 さん/「Ékoca」店主 福地京子 さん
    • 私の冷蔵庫の中身/料理家 ワタナベマキ さん/「和・nico」店主 後藤由美子 さん/「BLANC BLUE」オーナー
    • 私のパントリーの中身/「オカズデザイン」料理人・デザイナー 吉岡秀治・知子 さん/「Jikonka」オーナー 米田恭子 さん/紅茶教室主催 村上みゆき さん/料理家 瀬戸口しおり さん
  • 第3章 住の章
    • 私の本棚の中身/作家 角田光代 さん/料理家 高山なおみ さん/イラストレーター 平澤まりこ さん/「ポンナレット」主宰 江波戸玲子 さん/「麦小舎」店主 藤野麻子 さん/移動映画館「キノ・イグルー」 有坂 塁 さん/
    • 私の宝物の中身/料理家 星谷菜々 さん/イラストレーター 木下綾乃 さん/「yuruliku」デザイナー オオネダキヌエ さん
    • 私の引き出しの中身/スタイリスト 池水陽子 さん/手芸家 kicca さん/イラストレーター よしいちひろ さん/料理家 星谷菜々 さん
  • 番外編
    • 私の記録帳の中身/主婦 金谷 操 さん/料理創作ユニット「Goma」 アラキミカ さん/料理家 ワタナベマキ さん/フラワースタイリスト 小野みほこ さん
    • 私のバッグの中身/文筆家 甲斐みのり さん/ぬいぐるみ作家 金森美也子 さん/金継ぎ師 黒田雪子 さん
  • 本書の取材でお世話になった方々

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*