『西洋美術史入門』|旅支度するように美術鑑賞の用意をしよう

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『西洋美術史入門』挿絵イラスト

こんにちは。旅行しない あさよるです。旅行の計画を立てている内にお腹いっぱいになっちゃって「もういいや~」とお流れになるのが定番。その代わりの楽しみとして、フラッと近場の美術展で満足しています。

はじめて美術館へ行ったとき、確か兵庫県立美術館のゴッホ展へ行ったのですが、なにがなんだかわからず驚愕しました。絵って、パッと見てスゴイ、圧倒される~って感動の連続だと思ってたのですが、想像と違ったんです。今思えば、予想以上に「情報量」が多くて驚いたんだと思います。ただ「パッと一目見て感動して終わり」ではなく、絵の一枚一枚に説明があって、またゴッホの作品以外にも書簡や文字の資料も展示されていました。

「どうやら美術を鑑賞するには、なにやら事前知識が必要だぞ……」と、思い知った一日でした。知識って言っても、詳しい人に案内してもらったり、数をこなしているうちにちょっとずつ身につくでしょうが、やはり大人の遊びとしては、ガッツリやりたいじゃないですか! ということで、あさよるの中で「美術鑑賞のための下準備」は、折に触れて少しずつ進行中です。

絵はメディアだった

現在の日本で生まれ育った人は、小学校中学校と義務教育を受けていますから、文字の読み書きができて当然の社会で生きています。しかし、それは歴史の中で見ると異常な状態で、昔は文字が読めない人が大半でした。現在では書物に書き記せば他の人に情報が伝えられますが、文字が読めない人に情報を伝えるために用いられたのが「絵」でした。

教会の壁に絵が描いてあって、その絵の「絵解き」をして人々に信仰に基づく振る舞いを教えていたのです。昔の画家たちは、自分の好きな絵を描いていたわけではなく、教会や上流階級の貴族たちから「注文」されて絵を描いていました。ですから、発注者から受け取り拒否される絵画もありました。

現代の感覚だと「好きな絵を描く」「趣味で絵を描く」と考えてしまいがちですが、画家たちが思い思いに好きな絵を描くようになったのはとっても最近のお話です。多くの絵画は発注者の要望が反映されています。ですから、「なんでこの絵を注文したのか」という理由を知らなければ、今の感覚で絵画を見ても「何が書いてあるのかサッパリわからん」「何がいいのかわからない」ということになってしまいます。そこで、絵画について「学ぶ」必要が生じるのです。

絵を買う人には、欲しい理由がある

絵画を発注者がいて、受注して絵を描くのが画家だと紹介しました。その時代その時代で、描かれた絵、流行った画題には、発注者のニーズが反映されています。

例えば、ペストが流行した時代、まだウイルスが人から人へ感染していると分からず、特効薬もなかった時代です。人々は神からの罰だと解釈して当然です。そこで、聖セバスティアヌスの図像がたくさん描かれました。聖セバスティアヌス(聖セバスチャン)とは、キリスト教迫害により、殉教した人です。柱に括り付けられ、数々の矢を射られて死刑になりました。この「矢」がペストと重なります。ペストという罰を受けても、聖セバスティアヌスのように信仰を貫き続けなければ天国へ行けないと、当時の人々は考えたんですね。

絵を発注する人々は、自分が善行を重ねていることを神にアピールするために、絵画を発注しました。西洋では慈善活動や、社会的弱者を救済する文化があります。有名なミレーの「落穂拾い」では、貧しい人々が、収穫後の畑に落ちた地面に落ちた穂を拾っている様子が描かれます。

「神様へのアピール」って面白いですね。多くの日本人にとって、ただ知識もなく西洋絵画を見ていても「その発想はなかった」って感じじゃないでしょうか。

流行りを知ると社会背景が見える

先ほどのペストの例のように、その時代ごとに流行した画題があります。どんな絵が流行ったかを見てゆくことは、その時代の社会背景を読み取っていくことです。多くの人が文字を読めなかった時代、「絵」には今以上に「意味」が込められていました。西洋美術に触れることは、西洋の歴史に触れることなんですね。

ということは、「絵を見る」ためには勉強しなくちゃいけないなあと、新たな好奇心がうずきます( ´∀`)b

絵には「見方」があるのだ

『西洋美術史入門』挿絵イラスト

本書『西洋美術史入門』で大きな学びがあるならば、「絵画には見方がある」ということでしょう。もしかしたら、アート鑑賞を「自由に」「感じたままに」するものだと考えていた人にとっては、ビックリかもしれません。あさよるも以前は「自分がどう感じるかこそが大事だ」と思い込んでいました。

しかしこの「自由に」というのは、実はとても不自由だったりします。それは、旅行のツアーで「自由時間」という名の放置時間を、持て余してしまうのと同じです。いくら観光地だからって、右も左も分からない所に放り出されても、途方に暮れるばかり。結局、その辺をプラっと歩き回って、あとはカフェや休憩所で時間を潰すのがオチ。「自由に」というのは聞こえは良いですが、不案内な場所・事柄の場合は逆に「不自由」な結果になります。

残念ながら日本の学校教育では、西洋美術について学びはしますが「鑑賞の仕方」までは時間が割かれていません。だから美術作品を「自由に」鑑賞せよとなると、どうしていいかわからないのかも。また、一部の美術・芸術ファン以外は、美術館も博物館も馴染みのない施設かもしれません。

美術鑑賞は、旅行のように、ワクワクと事前リサーチして、よりディープに浸りましょう。楽しみのための勉強っていいね。

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目次情報

はじめに

第一章 美術史へようこそ

1 美術史とはなにか
2 なぜ美術を学ぶ必要があるのか
3 絵を“読む”ということ
4 絵を読むための手続き(一)――スケッチ・スキル
5 美術作品が持つ“ふたつの側面”
6 絵を読むための手続き(二)――ディスクプリクション・スキル

第二章 絵を“読む”

1 記号としてのイメージ
2 イメージとシンボル
3 シンボルとアレゴリー
4 アトリビュート
5 イコノグラフィーとイコノロジー
6 “後段階”におけるイコノロジー――主題と社会背景
7 ”前段階”におけるイコノロジー――図像の成立背景

第三章 社会と美術

1 社会を見るための“窓”
2 トビアスの冒険――ルネサンスを開花させた金融業
禁止されていた“高利貸し”/両替商のシステムと主題の流行
3 法悦の聖女――バロックの劇場
無原罪の御宿り/幻視/観る者を観客として参加させる“劇場型”バロック
4 フェルメールのアトリエ――一七世紀オランダ社会の特質
世界地図/ラヴ・レター
5 大英帝国がかかえるコンプレックス
一八世紀の修学旅行
6 悲しき〈落穂拾い〉からルノワールのレストランへ――階級者・鉄道・レジャー
“描かれた貧困層”を買う人々/みずからの善行をアピールするために/汽車というモチーフ/鉄道に見る階級差/オリエンタリズムの流行/レジャーとしての旅

第四章 美術の諸相

1 美的追求と経済原理
2 パトロンのはなし
皇帝と教会による独占/再び市民パトロンへ/パトロンの移り変わり
3 技法のはなし
壁画の主流となったフレスコ/板絵の主流となったテンペラ/油彩+カンヴァスという最終形/番外編:“印象派”という一大技法実験
4 ジャンルのはなし
風景画――画家はいつだって風景を描きたいと思っていた/風景画を創り出すもの――制作意図と純粋性――もうひとつの“ニュートラル”主題/風俗画――食事・モデル・注文主

第五章 美術の歩み

【エジプトとメソポタミア】【エーゲ文明と古代ギリシャ】【エトルリアとローマ】【初期キリスト教時代とビザンティン】【ロマネスクとゴシック】【プロト・ルネサンス】【ルネサンス】【北方ルネサンス】【マニエリスム】【バロック(イタリア・フランス・スペイン)】【バロック(17世紀オランダ)】【ロココ】【新古典主義とロマン主義】【印象派】【後期印象派と新印象派(点描派)】【世紀末芸術】【フォーヴィスムとキュビズム】【その後~現代美術】

おわりに

さらに学びたい人へ――目的別推薦文献リスト

池上 英洋(いけがみ・ひでひろ)

1967年広島県生まれ。東京芸術大学卒業、同大学院修士課程修了。恵泉女学園大学人文学部准教授。専門はイタリアを中心とする西洋美術史・文化史。レオナルド・ダ・ヴィンチをはじめ、中世からバロック時代の芸術の分析を通じて、社会構成や思想背景を明らかにする方法に定評がある。著書に、『Due Volti dell’Anamorfosi』(ボローニャ大学出版局)、『レオナルド・ダ・ヴィンチの世界』(東京堂出版)、編著『イメージとパトロン』(ブリュッケ)、『恋する西洋美術史』『イタリア24の都市の物語』(光文社新書)など。

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