こんにちは。あさよるです。『注文をまちがえる料理店』というタイトルを見たときから本書がずっと気になっていました。どうやら、注文をまちがえてしまう……認知症の人の支援施設がレストランをやっているらしい……というあやふやな情報だけで本書を手に取りました。
まず、「注文をまちがえる料理店」を実際にオープンした感想を、スタッフやお客さんが寄せています。認知症の患者さんたちは、料理店のことは忘れてしまっているらしいけれども、「働いてお金を稼いだ」という経験を嬉しがって、一人でお買い物に繰り出す人の話にとても感動しました。また、ピアノの先生だった奥様が認知症を患い、介護をしているご主人と二人でコンサートを開催した話も胸がいっぱいになりました。間違えながらも、最後まで演奏しきった様子に、多くの方も感動されたそうです。
著者であり「注文をまちがえる料理店」の仕掛け人の小国士朗さんはテレビ局で務めておられる方で、協賛やスポンサーを募り、企画を実現してゆく人の大切さも知りました。
認知症だけど働けるレストラン
「注文をまちがえる料理店」は、2017年6月3日、4日の2日間限定で都内にオープンしたレストランです。認知症患者がスタッフとして働き、接客をして料理を出します。だから、メニューを間違えることもあるし、間違った料理が出されることもありますが、それも「ご愛嬌」というコンセプトで、試験的に実施なされました。
本書『注文をまちがえる料理店』は、注文をまちがえる料理店がプレオープンに至った経緯と、オープンに関わったスタッフやお客の感想からなっています。
著者の小国士朗さんはテレビ局のディレクターの方です。テレビ番組の取材で、認知症患者のグループホームを取材した際、昼食をごちそうになった時、献立はハンバーグだと聞いていたのに餃子が出てきたときの〈違和感〉から話が始まります。最初は予定と違うメニューに戸惑ったけれども、「別に餃子でもいいじゃん」と思い至った経験からスタートします。思えば、別に違ったメニューが出てきても誰も何も困らないんです。
小国さんご自身が病気をし、働き方に変化があったことをきっかけに、「注文をまちがえる料理店」の構想を実現に至りました。実際にお店として出店するためには、いくつか問題があります。まず、グループホームの患者さんたちが、無理せず働けること。そして、お金を取って料理を提供する以上、おいしい料理であること。また、間違ったメニューでも食べてもらえるように、アレルギー食品にも気を遣います。食品会社の協力で実現しました。
本書の中盤は、注文をまちがえる料理店に関わった人たちの感想が寄せられています。もう注文をまちがえる料理店で働いたことも忘れちゃっている人も多いみたいですが、「働いて稼いだお金」で、買い物に繰り出す様子が紹介されていたりして、胸がいっぱいになりました。
そういえば「別に間違ってもいいじゃん」
本書『注文をまちがえる料理店』を読んで大きな気づきは「別にメニュー間違ってもいいじゃん」ってことでしょう。むしろ、我々は普段、なんでこんなにピリピリと神経質になってるんだろう? と疑問にさえ思いました。別にそれは相手が認知症患者じゃなくても、誰でも間違うことはあるし「そういうこともあるよね」ってだけの話なのかもしれません。
しかし、あさよるが以前コンビニのバイトを始めたとき、一番最初に教えられたのは「お腹が空いているときみんなイライラしているから、食べ物を間違えないように」というものでした。普段は温和な人も、お腹が空いてコンビニにお弁当を買いに来たのに、そこで不手際があるとブチギレられる、というもの。うん、わかるw 難しいですね。冷静に考えると「そんなに怒ることじゃない」と思うのに、いざ自分がお腹が減って食事を摂ろうとしたとき、それが阻害されると、めっちゃ腹が立つと思います(苦笑)。
その点、「注文をまちがえる料理店」は最初からコンセプトが提示されているから、そんなトラブルは少ないでしょう。だけど、忘れちゃいけないのは、認知症患者の方も「間違えるのはツライ」ということです。間違えちゃうんだけど、間違うのは誰だってツライ。
大勢を「巻き込める人」が介護の現場に来たら……
介護の現場に、テレビ局が持っている繋がりが入ってきたとき、実現したのが「注文をまちがえる料理店」です。本書のキモは、たくさんの人や企業を「巻き込める力のある人」が現場にやってきたことで、「注文をまちがえる料理店」というアイデアが実際に形になったことです。外国のマスコミでも取り上げられ、大変話題にもなりました。
著者の小国士朗さんはご自身のミッションを「テレビ局の持っている価値をしゃぶりつくして、社会に還元する」としているそうです。テレビだからすごいのではなく、テレビ局はいろんな分野の企業や人と繋がりを持っていて、その繋がりこそ必要なんですね。
企画を立てて人を動かす人が必要
アイデアやヤル気があっても、大勢を巻き込めないと大きなアクションを起こせません。介護の現場には、介護のエキスパートが配置されているのはもちろんですが、企画を立て、協力者・協賛者を募り、人やお金、知識や技術を提供してもらえる人が必要です。それは介護に求められるスキルとは、また違ったスキルを持った人でしょう。
あさよるも昔、ちょこっとイベント企画の仕事をやってたのですが、当時は自分のやっていることがよくわかっていませんでした。今回、『注文をまちがえる料理店』を読んで、自分がすべきだったのは、このようなマッチングだったんだなあと、今頃知りました。
おもしろいアイデアが浮かんだら、それだけじゃ足りない。必要な人と人を結びつける役割の人の重要さを『注文をまちがえる料理店』で知りました。
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注文をまちがえる料理店
目次情報
Prologue 「注文をまちがえる料理店」ができるまで
・「間違える」ことを楽しむ料理店
・ハンバーグが餃子になった!?
・「間違えちゃったけど、ま、いいか」
・そして、とんでもない反響が……
・はっきりいって、めちゃくちゃ! でも、お客さまは楽しそう
・「また、ぜひ来たい!」第Ⅰ部 「注文をまちがえる料理店」で本当にあったものがたり
Story① ヨシ子さんのものがたり
働くことができる喜び
福祉チームのサポーターさんからStory② 三川さん夫婦のものがたり①
料理店で夫婦二人の演奏会
三川一夫さんからStory③ 緑さんのものがたり
「えっ? 何の話?」
福祉チームのサポーターさんからStory④ 秀子さんのものがたり
忘れてしまうけれど
福祉チームのサポーターさんからStory⑤ 恵美子さんのものがたり
お腹、空いちゃってるね
福祉チームのサポーターさんからStory⑥ チカとナオ お客さまのものがたり
「うん! 本当に粋だなぁ」
内田滋(女優)さんからStory⑦ 休憩室であったものがたり
戻ってきたら、みんな笑顔
福祉チームのサポーターさんからStory⑧ 史彦さんのものがたり
「間違えてもいいんだもんね」
福祉チームのサポーターさんからStory⑨ テツさんのものがたり
「お飲み物は、まだでいいですよ」
福祉チームのサポーターさんからStory⑩ 三川さん夫婦のものがたり②
少しだけの自信
三川一夫さんからStory⑪ 菊池さんご一家 お客さまのものがたり
間違えることを受け入れられる価値
菊池さん(企業経営者)からStory⑫ チカとナオ お客さまのものがたり
「やっぱり、最高のレストランだね」
中島ナオさん(デザイナー、大学講師)からStory⑬ ホールものがたり
「誰もが受け入れられる場所」
プロジェクトスタッフ小国士朗から第Ⅱ部 「注文をまちがえる料理店」のつくりかた
“強烈な原風景”になったのはなんてことない普通の光景だった
・やむにやまれぬ理由からのスタート
・高まる緊張感とは裏腹に……
・「これも介護の現実です」
・人として“普通に生きる姿”を支えるために
・「迷い」や「葛藤」に揺れようとも
・「認知症である前に、人なんだよな」
・その人がその人であることは変わらない
・“厄介者”から「あっ、普通だ」
・いつかきっと「注文をまちがえる料理店」を作ってみよう何かを失って、何かを得る――あのとき思った“いつか”が来た
・「次はどうなるか誰にもわからない」
・今じゃん! そうだ、今だ!
・“番組を作らない”ディレクター誕生!最高のクオリティで実現するために“粋な仲間”を集めよう!
・「仕事じゃない」からうまくいく
・仲間になってもらいたい「三つの条件」
・すべては“プロジェクト成功”のために
・集結!! 考えうる限り最高のメンバー僕たちが大事にしようと決めた「二つのルール」
・甘えが入れば、妥協が生じる
・たとえ「不謹慎」といわれようとも
・「間違える」のはつらいこと
・「それでも間違えたら許してね」おおらかな気分が、日本中に広がることを心から願って
・「ま、いいか」という寛容さ
・間違いを受け入れ、一緒に楽しむ
・「60分でできる」ことでも「90分かけて」やる
・“コスト”が“価値”に変わった
・堂々と自信を持って働ける場所
・大丈夫、大丈夫。うまくいかせなくて、大丈夫伝えたいメッセージは――ありません
・すばらしい原作と映画の関係
・それぞれの感性でもっと自由な解釈をEpilogue 「注文をまちがえる料理店」のこれから
・一人一人が「仲間」
・そこには“あたりまえ”の風景が広がっていた
・「当事者の姿」が世の中を変えていく
・「注文をまちがえるカフェ」@町田
・少しずつ、ただ確かな広がりを見せはじめて
・僕が今、考えていること
・「COOL JAPAN」よりも「WARM JAPAN」
・感謝の言葉に代えて
・広がれ!「てへぺろの輪」!!
小国 士朗(おぐに・しろう)
「注文をまちがえる料理店」発起人
テレビ局ディレクター。
1979年生まれ。東北大学卒業後、2003年に某テレビ局に入局。。
2013年に心室頻拍を発症。
テレビ番組を作るのが本当に大好きで相当なエネルギーを注いできたが、それを諦めなければならない事態になり、一時はかなり落ち込む。
しかし、「テレビ局の持っている価値をしゃぶりつくして、社会に還元する」というミッションのもと、数々のプロジェクトを立ち上げ、いつしか局内でもテレビ番組をまったく作らない、おかしなディレクターとして認識されるようになり、ついには専門の部署までできることに。
「注文をまちがえる料理店」とはある取材時に思いついたことを形にしたもの。
好物はハンバーグとカレー。
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