池上彰『学び続ける力』を読んだよ

池上彰『学び続ける力』書影 30 社会科学

インプットをたくさんしても「役立つ」は少ない

読書、あるいは勉強というものは、実は役に立たない事のほうが多いです。現に私たちは小学校を6年、中学校に3年間も義務教育を受けているのに、社会生活で実際に使う知識はわずかです。その後、高校へ進学する人が殆どで、さらに大学や専門学校へ進む人たちもいます。
はたして、学んだことのどれだけが「役に立っている」のでしょうか。

最近、内堀基光『「ひと学」への招待―人類の文化と自然』という本を読んでいました。「ひと」に関する物事を紹介する内容なのですが、一口に「ひと」と言っても様々な切り口が有ります。動物としてのヒト、社会の中の人、感情を持つ人、言葉を操る人、など「人間に関することすべて」ですから、内容もそれはそれは幅広い。
それでも、語り尽くせない「ひと」の一面を知れる、良書でした(が、内容が濃すぎて大変だった)。

そしてこの本は、読んでも多分「役に立つ」本ではないでしょう。別に、人類学のことなんて知らなくても生きてゆけますし、これを読んだからってお給料が増えるわけでもありません。時間の無駄だと言われてしまえば、その通りだと思います。

しかし、私はこの本を読んで良かったと思っています。
「私って一体なんだろう」と抱え続ける問いへ、考える指針のようなものがチラリと見えた気がしました。そして、私が持っている「一人ぼっちで寂しい」という気持ちも、少しだけ「置き場」を見いだせた気がしました。
だけど、あくまでも、問いの答えが載っているわけでもないし、寂しさがなくなったわけではありません。ですので、即効性もなければ、一生そのままでしょう。

池上彰『学び続ける力』の中で、こう書かれていました。

本を読むということは、言ってみれば、ザルで水を汲むのに似ているということだな、と自分なりに解釈しました。
読んだそのときは、なるほどと感心するけれども、すぐに水(知識)はザルの目の隙間からこぼれてしまいます。つまり、忘れてしまうのです。でも、大量に本を読んでいれば、ザルでも大量に水を汲んでいれば、少しは水がたまります。読書の役割とはそういうものかもしれないと思いました。

―池上彰『学び続ける力』(講談社,2013)p.149

悲しいかな私たちはどんな知識や経験もどんどん忘れてゆきます。少なくとも私は、常に頭を動かし続けないとあっと言う間に何もかも忘れてしまいます。忘れないように必死にノートにメモを取っているのですが、すべてを書き写すことは決してできず、みるみる身体から消えてなくなってゆきます。

それがとても悔しくて、とても残念でたまりませんでしたが、池上さんの仰るように「ザルで水を汲んでいるのだ」と思えば「じゃあ仕方ないよなぁ」と思えます。そして必死の形相でザルで水を汲んでいる姿を想像すると、とても滑稽です。なんだか愛すべき人情じゃないかと思いました。これからもどんどん、ザルで水を汲むのみです。

最初に、勉強の殆どは役に立たないと書きましたが、私は違う意味では、勉強の全ては役に立つとも考えています。相反することのようですが、「役に立つ」とはどういうことか。「役に立たない」とは何かによって変わるのです。
今日勉強しても、明日の仕事を早く終わらせたり、来月の給料をアップさせるなど、短期的な役には立たないことがほとんどでしょう。しかし、長期的に「豊かに生きる」とか「人を喜ばせる」とか「幸せを感じる」とか、人生をかけた、一生の仕事には、何かしらかの影響があるように考えています。
まさに、何十年もザルで水を汲みつづけたら、そこそこの量になるのではないでしょうか。

そんな一見ムダな、今すぐに役に立たないけれども、あったらいいものを「教養」と呼ぶのでしょう。なので、「教養のある人」というのは、余計なことばっかりしている人です。余計なことばかりするから、大変非効率な人物でしょう。
しかし「余計な」「非効率な」「役に立たない」ことって、とても楽しい。
ゲームをしたり、絵を書いたり、歌ったり、部屋に花を飾ったり、どれも無駄なことです。だけども、それこそ人間らしい「ひと」の営みではないでしょうか。

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池上彰さんの本

勉強に関する本

学び続ける力

  • 著者:池上彰
  • 発行所:株式会社 講談社
  • 2013年1月23日

目次情報

  • はじめに
  • 第1章 学ぶことは楽しい
    名刺の力をはずして/まずは刑法、刑事訴訟法から勉強した/英語の勉強も始めた/夜回りの英会話/記者会見待ちの時間も本を読んでいた/ペーパーバックで『大草原の小さな家』を読んだ/やめないコツ/NHKをやめる/大学の社会人講座に通った/調べるほど無知に気づく
  • 第2章 大学で教えることになった
    理科系の大学で教えることになった/リベラルアーツとはどんなものか/「現代世界の歩き方」/「現代日本を知るために」/つかみとしての質問/テレビ解説と講義/メモとレジュメ/メモをとる力/地図の大切さ/郊外を授業で取り上げた/いまの時代に三池炭鉱について教える/頭で理解できてもピンとこない/時代の空気を伝えるということ/「まったく遠い話」ではなくなるように/歴史を追体験してもらいたい/出席はとらない/八〇〇字レポート/期末試験/原稿用紙の使い方を教える/縦書きの世界/批判力を持つ――大学で身につけたいこと1/自ら学ぶ力――大学で身につけたいこと2/技術者の生き方を考える授業/「新しい論点を加えてくれたね」/三つのメッセージ/大学生に学ぶこと/成績を厳しくつけたら……
  • 第3章 身につけたい力
    ノートのとり方/キーボード入力への懸念/キーワードとは何か/お笑い芸人のずらす力/検索能力があればそれでOKか?/ミャンマー、南アフリカ、韓国で共通に起きたこと/一般化してみる/聴き上手なイノッチと中居くん/左脳と右脳の伝える力/頭で絵を描けるように話す/モニュメントのビジュアル/「伝える力」の両輪を鍛えるには/アメリカ大統領選挙に学ぶプレゼンテーション能力/ハリケーン対策で国民から高い評価/紙の新聞を読もう/ラジオアナウンサーの描写力/ラジオの久米さん/サイズ感を伝える/「相手は何がわからないのか」を考えながら
  • 第4章 読書の楽しさ
    人生を変えた一冊の本/ショーペンハウエルの衝撃/読書はザルでの水汲みのようなもの/読むことと考えること/ビジネス小説の魅力/リアル書店の棚で勉強できる/情報収集、本でなくネットでいいのでは?/『君たちはどう生きるか』といじめ/読書は「現実逃避」/すぐ役に立つ本・すぐ役に立たない本/『学問のすゝめ』
  • 第5章 学ぶことは生きること
    いまの教養/アメリカの大学の教養教育/リベラルアーツセンターで学んだこと
  • おわりに

著者紹介

池上 彰(いけがみ・あきら)

一九五〇年、長野県生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、一九七三年、NHK入局。二〇〇五年まで三二年間、報道記者として、さまざまな事件、災害、消費者問題、教育問題などを担当する。一九九四年から一一年間は「週刊こどもニュース」のお父さん役を務めた。現在は、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。二〇一二年より、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。著書に『相手に「伝わる」話し方』『わかりやすく〈伝える〉技術』『〈わかりやすさ〉の勉強法』(すべて講談社現代新書)、『この社会で戦う君に「知の世界地図」をあげよう』(文藝春秋)、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)など多数。

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