『世にも奇妙な人体実験の歴史 』|命知らずな科学者列伝

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『世にも奇妙な人体実験の歴史 』挿絵イラスト

こんにちは。あさよるです。あさよるのイタイケな幼少期時代、子どもらしく虫やカエルで遊んでいました。「実験」もよくしました。それは重力や水の表面張力についてよく知ることになりましたし、まあ、子どもの遊びって残酷ですよね。

本書『世にも奇妙な人体実験の歴史』は、子どもの頃の好奇心を持ったまま科学者となり、実験を続けているマッドサイエンティストたちの記録です。命知らずの医者や、人を人とも感じていない当時の価値観が交錯する、なんともふしぎな世界を醸す一冊でした。

マッドサイエンティストの世界へ

本書『世にも奇妙な人体実験の歴史』は、人類の歴史の中の果敢なマッドサイエンティストたちのエピソード集です。「果敢」と書きましたが、うーん、ほかにどんな言葉で紹介すれば良いのやら。今となっては常識の知識であっても、かつては原因不明の病気や症状であったのです。謎を解き明かすため、あくまで科学的探究心を心に灯して研究に邁進する姿は、まさに多くの人が思い浮かべる「科学者」の姿であろうと思われます。

しかし……本書で紹介される科学者たちは、確かに世紀の大発見をした偉人たちなのですが、向こう見ずで乱暴な人体実験を繰り返す……なんと言っていいんだろう。「実験、雑っ!」というのが、感想でしたww

科学者とは……以下ry

印象に残ている話をいくつかあげます。

まず、心臓にカテーテルを通す手術をした外科医フォルスマン。彼は人体実験の検体として、自分の体で実験を始めます。自分で自分のオペって『ブラックジャック』の世界観をリアルにやってるんですよ。しかもその実験、犬の心臓にカテーテルを通したときは失敗して犬は死んでしまいました。助手に「危険はない」とウソをついて、自分の血管からカテーテルを挿入し、レントゲンで確認しながら心臓にカテーテルを通しました。「どんな心臓しとんねん」というのがこの話の主題です。

麻酔の発明は、人類の歴史の中で大きな飛躍になりました。麻酔がなかった時代、外科医は力が強く、早業で身体を切り落とせる職人でなければなりませんでした。患者の気を失わせるために、酒を飲ませたり、桶を頭にかぶせトンカチで殴り気絶させました。毒ニンジンのエキスを使った麻酔を試したところ、患者は二度と目を覚ましませんでした。そんな中やっと「笑気麻酔」が発見されます。しかし、麻酔の適量がわからず、麻酔が効かなかったり、効きすぎて死んでしまうこともあります。また、麻酔の研究する科学者たちは必ず自らでも人体実験をし、みな中毒になりました。医療の姿を変えた「麻酔」の発明は、地道で苦難の道があったのでした。

人体実験に必要な「検体」集めに奔走する科学者の姿も印象的です。かつて医学生たちは座学しか学ばず、現場で生まれて初めて「人の体を切る」というなんとも無謀なことをしていました。学生には実際に人間の体で慣れておかないといけないと「死体」集めの奔走が始まるのです。検体集めはエスカレートし、墓暴きや、殺人まで起こりました。

現代の医療は、いかに「人道的」であるか染み入ります。医師たちが我々の体をモノのように扱おうとも、歴史の中のどの瞬間よりも最も今が「人道的」である……そう思うようにします(苦笑)。

また、人体実験の実験台に、貧しい人や孤児、死刑囚など、人を人として扱わない話てんこ盛りなので、気分の良い話ではありません。あしからず。

今に生まれてよかった……

『世にも奇妙な人体実験の歴史』を読むと、しみじみと「21世紀に生まれてよかった!」と思いますね。特に、麻酔のある時代で良かった。歯医者さんが麻酔使ってくれて良かった良かった。また、歴史の中で「医師」の地位は低いというか、人々から尊敬されない職業なのはなぜだろうと感じていましたが、かつて「迷信」や「デタラメ」「おまじない」のインチキ医者もたくさんいて、民衆が翻弄されていたそうです。そりゃ、みんな医者が嫌いになるわね。それでなくても「病」を扱っていて、できればお世話になりたくない存在なのに。

あさよるは小学生のころキュリー夫人の伝記をよく読みまして、人々が放射線物質に〈魅せられる〉のが印象的で、危険だとわかっていても、研究をやめられません。キュリー夫人も若くして亡くなります。そして、その研究室のあった場所はいまも放射線量が高く、危険なエリアのままです。

本書『世にも奇妙な人体実験の歴史』に登場する科学者たちは、なにかに魅せられ、自分の命を忘れて研究に没頭してしまう、向こう見ずでクレイジーな人々です。少なくとも、あさよるとは全く違うタイプの人だわ。くわばらくわばら。

『世にも奇妙な人体実験の歴史 』挿絵イラスト

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世にも奇妙な人体実験の歴史

世にも奇妙な人体実験の歴史

世にも奇妙な人体実験の歴史

  • 作者:トレヴァー・ノートン/赤根 洋子
  • 出版社:文藝春秋
  • 発売日: 2016年11月10日

目次情報

はじめに マッド・サイエンティストの世界へようこそ

第1章 淋病と梅毒の両方にかかってしまった医師――性病

人体解剖の草分けである医師ジョン・ハンターは、性病研究にも辣腕を発揮。淋病のメカニズム解明のため、患者の膿を自分の性器に付着させたところ……

第2章 実験だけのつもりが中毒者に――麻酔

毒ニンジン、笑気ガス、エーテル、クロロホルム、コカイン、モルヒネ……麻酔薬の開発者たちは、必ず自分で効果を試し、そして中毒者になっていった。

第3章 インチキ薬から夢の新薬まで――薬

どんな化学物質が薬になるかは、人体実験をしてみないとわからない英国の医師フィールドは、ダイナマイトの原料をあえて舐めてみた。すると……

第4章 メインディッシュは野獣の死骸――食物

英国紳士フランク・バックランドは動物好きだった。ただし、食べるために。ヒョウ、モリフクロウ、ジャッカル、アナグマ。そのお味やいかに?

第5章 サナダムシを飲まされた死刑因――寄生虫

ドイツの医師キュッヘンマイスターは、寄生虫の感染経路を解明した。その方法は、死刑因に寄生虫を飲ませ、ひたすら解剖することだった。

第6章 伝染病患者の黒ゲロを飲んでみたら――病原菌

コレラの研究でコッホに挑んだペッテンコーファーは、菌入りの水を飲み干した。また、黄熱病の研究者たちは患者のゲロを集めて煮詰め、自ら飲んでみた。

第7章 炭疽菌をばら撒いた研究者――未知の病気

生物兵器の研究は二十世紀から列強の軍部でひそかにおこなわれていた。だが、細菌漏れによるアウトブレイクなど、事故や事件も多発している。

第8章 人生は短く、放射能は長い――電磁波とX線

電磁気の発見は、あやしげなブームを巻き起こした。放射線もそうだった。だが、犠牲者の数は電磁気とは比較にならぬほど多かった。

第9章 偏食は命取り――ビタミン

食物に含まれている「何か」。それが不足すると病気になってしまう「何か」。その正体を突き止めるため、孤児院の子どもたちが実験台として選ばれた。

第10章 ヒルの吸血量は戦争で流れた血よりも多い――血液

「悪い血」をヒルに吸わせるインチキ医術、羊の血を人体に輸血する無茶苦茶。血液型の判別と安全な輸血の確立まで、人類はかくも多くの血を流してきた。

第11章 自分の心臓にカテーテルを通した医者――心臓

犬の心臓にカテーテルを入れたら死んでしまったが、人間の場合はどうか? ドイツの外科医フォルスマンは、まず自分で試すという強心臓の持ち主だった。

第12章 爆発に身をさらし続けた博士――爆発と疥癬

水中で爆弾が破裂した場合、なぜ空気中よりも死者が多いのか? こうした謎を解くため、キャメロン・ライト博士は半死半生になっても被爆し続けた。

第13章 ナチスドイツと闘った科学者たち――毒ガスと潜水艦

ドイツ軍の毒ガスから身を守るにはどうすればいいのか? 科学者たちは自ら毒ガス中毒になりながら、ガスマスクを開発した。

第14章 プランクトンで命をつないだ漂流者――漂流

海難者が生き延びるにはどうしたらいいのか? 海水を飲んでもいいのか? 医師ボンバールは「異端者号」と名付けた船に乗り込み、漂流実験を開始した。

第15章 ジョーズに魅せられた男たち――サメ

どう猛な人食いザメを追い求め、世界各地の海を渡り歩いたハンス・ハス。腕に食いつかれ、ズタズタにされてなお、彼はサメの研究をやめなかった。

第16章 超高圧へ挑戦し続けた潜水夫――深海

一瞬にしてものみなすべてが潰される深海の世界。そこに挑戦しては死にゆく冒険者たち……水圧を乗り越えた先には、深海生物のパラダイスがあった。

第17章 鳥よりも高く、速く飛べ――成層圏と超音速

超音速戦闘機の事故からパイロットを脱出させるには? 数々の実験の末にたどりついた答えは、今日われわれも馴染み深い「シートベルト」だった。

あとがき 究極の自己犠牲精神をもった科学者たちに感謝
謝辞
解説 特別集中講義『人体実験学特論』へようこそ 仲野 徹(大阪大学大学院教授)
訳者のあとがき
参考文献

トレヴァー・ノートン[Trevor Norton]

英国リヴァプール大学名誉教授。専門は海洋生物学。海の生態系について啓蒙活動を行う一方、科学史にも興味を持ち、科学者たちが挑んできた実験を自ら追試してきた。
本書の執筆過程でも、古代ローマの潜水夫が口にオイルを含んでから海に潜ったという実験の追試を思いついてやってみた。が、見事に失敗。オイルの飲みすぎで一週間下痢に苦しんだという。
主な著書に『ダイバー列伝――海底の英雄たち』(関口篤訳、青土社)など。

赤根 洋子(あかね・ようこ)

訳者

翻訳家。早稲田大学大学院修士課程修了(ドイツ文学)。おもな訳書に『ヒトラーの秘密図書館』(ティモシー・ライバック、文藝春秋)、『フロイト先生のウソ』(ロルフ・デーゲン、文春文庫)、共訳に『私たちがこどもだったころ、世界は戦争だった』(サラ・ウォリス&スヴェトラーナ・パーマー、文藝春秋)、『ウィキリークスの内幕』(D・ドムシャイト-ベルク、文藝春秋)など。

仲野 徹(なかの・とおる)

解説者

1957年、大阪府生まれ。大阪大学大学院医学系研究科教授。分子生物学者。細胞の分化、エピジェネティクス制御などを研究テーマとする。主な著書に『幹細胞とクローン』(羊土社)『再生医療のための分子生物学』(コロナ社)など。書評サイト「HONZ」に数多く寄稿し、『なかのとおるの生命科学者の伝記を読む』(学研メディカル秀潤社)という伝記の書評本も刊行している。

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