『ユニクロ潜入一年』|ブラックバイトへカリスマ社長の招待状

こんにちは。突然春めいて着る服がない あさよるです。ブログではいつも着る服がないと書いている気がします。ないんです。みんな大好きユニクロですが、あさよるの行動範囲にユニクロ店舗がなくて、実はあまり利用する機会が少ないんです。アクセスしやすいのは超大型店で、あまりにも売り場面積が広すぎて、店の前でうんざりして帰ってきてしまうんですよね。「店員さんも大変だなあ」と思っていましたが「やっぱり店員は大変だった」と本書『ユニクロ潜入一年』を読んで知りました。

本書『ユニクロ潜入一年』は著者の横田増生さんが、実際にユニクロ店舗の面接を受け、アルバイトとして働いた1年間の記録です。ユニクロの過酷な業務内容と共に、著者が接客業に喜びを見い出している様子や、真面目に業務をこなす様子など記録されているルポルタージュです。

ユニクロ帝国の光と影・柳井正社長からの招待

本書は、2011年3月に著者の横田増生さんが出版した『ユニクロ帝国の光と影』が発端となって始まります。ユニクロの国内店舗と中国の委託工場での労働環境について言及したことが、同社の「名誉棄損」に当たると、ユニクロが出版元の文藝春秋宛に通告書が送られてきたのです。横田増生さんは何度もユニクロに取材を申し込み、柳井正社長との対談もやっと一度だけかないましたが、それ以外は広報への取材もかないませんでした。にもかかわらず、取材もせずに誤った記事を掲載しているというのが、ユニクロ側の言い分でした。

結果的に2014年、最高裁がユニクロ側の上告を却下し、文藝春秋側が裁判に勝ちました。「事実誤認はあったか」という著者の問いに、ユニクロの広報部長は「それはなかった」と答えました。事実誤認はなかったのに、訴えられた。結果、文春側が勝ったが、今後ユニクロについて言及する記事を書けば「面倒くさいことになる」と知らしめるには十分だったでしょう。

さらに著者は、ファーストリテイリング社の中間決算会見に締め出しを食らっっており、裁判に勝ったのにそれでも出席しないで欲しいと連絡がなされます。理由は、

「柳井から、横田さんの決算会見への参加をお断りするようにと伝言をあずかっています」p.6

というもの。

相手がその気ならばと、横田増生さんは、合法的に名前を変え、実際にユニクロ店舗でアルバイトとして1年間務めた記録と、そして中国やカンボジアでの委託業者への取材をまとめたものが、本書『ユニクロ潜入一年』です。

ユニクロで一年働いてみた

ユニクロ店舗でアルバイトを始めた経緯は、ほかにない柳井正社長直々に「招待」があったからです。2015年3月号の雑誌「プレジデント」にて、柳井正社長のインタビューを記事を読んだことから始まります。

 世間ではユニクロに対してブラック企業だとの批判があるという質問に対して、柳井社長は、「我々は『ブック企業』ではないと思っています(中略)」『限りなくホワイトに近いグレー企業』ではないでしょうか」と答えたのち、「悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。会社見学をしてもらって、あるいは社員やアルバイトとしてうちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたいですね」と語っているのを見つけた。
この箇所を読んだとき感じたのは、「この言葉は、私への招待状なのか」というものだった。つまり、私にユニクロに潜入取材してみろという、柳井社長からのお誘いなのだろうか、と思った。

p.46

横田増生さんは一旦、奥様と離婚し、奥様の姓で再婚し、合法的に姓を変え、ユニクロ店舗のアルバイトに応募します。日本ではこのような記者が企業内部に潜入取材すること珍しいですが、海外ではよくあるそうです。また、香港の人権NGO団体のSACOM(サコム)が、ユニクロ下請け工場の潜入レポートを行い、違法な長期労働を指摘しました。彼らの働きも、横田増生さんを刺激したと言います。

ということで、ユニクロのイオンモール幕張新都心店、ららぽーと豊洲店、ビックロ新宿東口店の3店舗で実際に足かけ1年強アルバイトが始まります。まず心配なのは年齢です。1965年生まれの横田さんはユニクロ潜入時の2015年には50歳です。この年齢でアパレルのアルバイトに採用されるのか?と気になりますが、3店舗とも即採用で即勤務が始まりました。ユニクロ店舗では深刻な人材不足に陥っているようです。

人材不足が顕著なのは、アルバイトの中にかなり多くの外国人が採用されていることからもわかります。当初は、外国人のお客様へ対応するためのスタッフかと思われましたが、実際にユニクロに訪れるお客様のうち、外国人は1割にも満たないそうで、外国人スタッフの数が多すぎます。ユニクロ店舗は常に人手不足でてんてこ舞いな上に、日本語が堪能ではないスタッフが多数いることで余計に業務が増えています。それでも、なんの改善もなされておらず、慢性的な人手不足であることがわかります。また、横田さんは英語が堪能で、外国人客の接客に当たることが多かったそうです。ユニクロではかつて、社内では英語が公用語だと発表されていましたが、いつの間にか雲散霧消してしまっており、正社員も英語を使えない人が多いそうです。外国人客が増えているのに英語を話せるスタッフが不足しており、かつ、社内では外国人を雇用しコミュニケーションが取れていないという、「やりにくい」感じがよく伝わってきます。

ユニクロ店内の労働環境は、その店舗と、店長の手腕によってかなり違っている雰囲気です。最初に働き始めたイオンモール幕張新都心店では、店長も人格者で、働きやすそうです。しかし、最後にバイトをしていたビックロ新宿東口店は、雇用状態も店内もむちゃくちゃで、ユニクロバイト経験アリの横田さんも疲弊しきっています。

また、ユニクロのカリスマ柳井正社長のワンマンぶりに、末端のアルバイトまでが振り回されている様子が伝わります。バックヤードには「部長会議ニュース」が貼り出され、従業員の全員が目を通します。そこでは柳井社長の言葉が掲載されており、コロコロと話が変わったり、一貫性のない指示が出されているのですが、「誰もツッコめない」、まさに「ユニクロ帝国」なのです。

中国・カンボジアからのレポート

本書は、ユニクロでのアルバイト勤務の間に、中国やカンボジアのユニクロ委託業者の労働環境の取材もなされています。先に紹介した香港の人権NGO団体SACOMは、工場の問題点を4つにまとめています。

一・違法な長期労働と安すぎる基本給
二・漏電による死亡などのリスクがある危険な労働環境
三・労働者に対する厳しい管理方法と違法な罰金システム
四・労働組合がなく、労働社の意見が反映されない職場
こうした労働環境の劣悪な工場を、欧米では“sweatshop(搾取工場)”と呼ぶ。

p.179

もし火災が起これば逃げられない環境にいることを自覚し、恐怖を感じながら働いている労働者や、ストライキに工場が応じず警察が強制的に労働者を排除した問題にも触れられています。ミスがあると罰が与えられたり、過労で倒れ病院へ担ぎ込まれた男性には1日だけ休暇が与えられ、それ以降はまったくの無給になった話や、シフト交代はなく、朝から夕方まで休憩なしで低賃金で働き続けるなど、労働環境が語られます。

体当たりの取材記

ユニクロに足かけ1年間実際にアルバイトとして勤務をし、その間に外国の委託工場の取材を試みた記録である本書。あさよるの感想としてはまず、「イオンモール幕張新都心店ならバイトしたいなあ」というものだった。ユニクロの劣悪な労働環境について暴く内容ではあるけれども、同時に柳井正社長がカリスマ経営者であることもよくわかる構成です。ただ、社長がカリスマであるがゆえに、巨大に成長した会社の末端が見えなくなっており、柳井社長自身が、ユニクロ店舗スタッフがどんな環境で働いているのか、本当に見えなくなっているのではないでしょうか。

そこで本書の結びでも、著者・横田増生さんは柳井社長に対し「素性を隠し、ユニクロ店舗でバイトをしてみる」経験を勧めておられます。

あんなに大きな会社なのに、新人バイトまで社長の会議での発言を知っているというのは「すげーな」というのが本音でした。あさよるもこれまでアルバイト経験をいくつかしましたが、正直社長の名前も知らなかったり、役員の会議の内容も、これからの展望も、バイト風情が知ることはありませんでした。感覚的には、地方の中小企業の社長のまま、日本を代表するようなアパレル企業に成長したのかなぁと感じる。

あと、ユニクロの製品を買わない「不買運動」をしている人が あさよるの周囲にもいます。彼らが言う「外国での劣悪な工場労働」の実態の一部に触れると、確かに「ユニクロの服あんまり欲しくなくなったなあ」と思います。幸か不幸か、あさよるの行動圏内に手ごろなユニクロ店舗がないので(巨大店しかなく商品を探すのが大変)、あまりユニクロで買い物しないのですが、これから志向が変わるかも。

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働き方の本

横田増生さんの本

ユニクロ潜入一年

目次情報

はじめに

序章 突きつけられた解雇通知

「週刊文春」で潜入記を発表した二日後の出勤日。私はビックロの店長室に呼ばれた。待っていた本部の人事部長が「当店を退職するご意思はないのでしょうか」と尋ねた

第一章 柳井正社長からの“招待状”

私に一年に渡る潜入取材を決意させたのは、ユニクロ側の徹底した取材拒否と海外NGOの潜入取材に受けた刺激、そして柳井正社長自身が雑誌で語ったある言葉だった

第二章 潜入取材のはじまり

イオンモール幕張新都心店①(二〇一五年十月~十一月)

ウェブサイトから専用の履歴書をダウンロードし、伊達メガネをかけて挑んだ面接で、即日採用・翌日勤務が決定。改名して勤務を始めるも、何度か正体が露見(バレ)そうになる

第三章 現場からの悲鳴

イオンモール幕張新都心店②(二〇十五年十二月~二〇一六年五月)

秋の感謝祭は絶不調。なおも予算通り送られてくる商品で倉庫には在庫が積み上がり、作業効率が低下。あまりに吝嗇(りんしょく)な人件費の削減のやり方に現場の士気は下がる一方だ

第四章 会社は誰のものか

ららぽーと豊洲店(二〇一六年六月~八月)

柳井社長の会議での発言を掲載する「部長会議ニュース」が貼り出される。そこにはごく些細な事柄まで社長が口を出すユニクロの意思決定のあり方が如実に表れていた

第五章 ユニクロ下請け工場に潜入した香港NGO

中国の下請け工場での違法な長期労働、危険な労働環境などの実態を暴いた香港人権NGOの本部を訪問。不誠実なユニクロの対応に強い不満と怒りを感じているという

第六章 カンボジア“ブラック告発”現場取材

製造原価の大半を占める人件費を抑えるべく、中国から東南アジアにシフトしつつある生産拠点。しかしそこでも、長期労働や組合つぶしなどの問題が起こっていた

第七章 ビックロブルース

ビックロ新宿東口店(二〇一六年十月~十二月)

「日本一の立地で日本一売りたい」。柳井社長がそう宣言した新宿の超大型店は、慢性的な人手不足やパワハラが幅を利かせる、まさにユニクロの矛盾を凝縮した店だった

終章 柳井正社長への“潜入の勧め”

私が実際に働いてみてわかったことは、店舗の現場から見えるユニクロと、はるか高みから見下ろす柳井社長の目に映るユニクロは、全く違っているということだ

主要参考文献

略年表

横田 増生(よこた・ますお)

1965年、福岡県生まれ。アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号。93年に帰国後、物流業界誌『輸送経済』の記者、編集長を務め、99年フリーランスに。著書に『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』(朝日文庫)、『評伝 ナンシー関「心に一人のナンシーを」』(朝日文庫)、『中学受験』(岩波新書)、『ユニクロ帝国の光と影』(文春文庫)、『仁義なき宅配 ヤマトvs佐川vs日本郵便vsアマゾン』(小学館)などがある。

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