片田珠美『他人を攻撃せずにはいられない人』|支配欲と全能感の共依存

『他人を攻撃せずにはいられない人』なんともインパクトのあるタイトルです。“他人を攻撃せずにはいられない人”は、自分の失敗や落ち度さえも、他人に責任転嫁し、攻撃のネタにする。なにを言っても理屈にもならない理屈で、相手を責め、相手の自尊心や自信をそいでゆきます。

“他人を攻撃せずにはいられない人”のターゲットにされると、以下のようなことが起こります。

1 急に気力がなくなることがある
2 しばしば、罪悪感にさいなまれたり、不信感が募ったりする
3 突然、もうダメだと自信をなくすことがある
4 ときどき、エネルギーがなくなったように感じる
5 反論や反撃をしても、ムダだと思う
6 あの人は、何かにつけて私をけなすので、落ち込む
7 あの人の感情を動かしたり、考えを変えさせたりすることはできないと思う
8 あの人のやっていることは、言っていることと随分違うように感じる
9 あの人の言うことには、曖昧さがあり、どう受け止めたらいいのか困惑する
10 あの人がいると、心身の不調を感じることが多い
(中略)
その場合、一人で悩んでいないで、他の誰かに相談して、助言や助けを求めたほうがいい。自分自身が渦中にいると見えにくいことでも、外から第三者として観察している人にははっきり見えることがあるからである。

『他人を攻撃せずにはいられない人』p.61-62

さらに、職場に“他人を攻撃せずにはいられない人”がいると、職場の雰囲気が悪くなります。揉め事や不和が増え、病気や事故が増加します。沈滞ムードが蔓延し、全員が疲弊してしまいます。

こんな状況では、どんどん売り上げや成績も落ちてゆきます。すると、“他人を攻撃せずにはいられない人”はその責任を更に他人に擦り付けます。「お前が悪い」「お前が無能だから」と、更に煽り立てるのです。するとますます雰囲気が悪くなり……と、負の連鎖が始まります。

待ちかまえるのは、破滅

“他人を攻撃せずにはいられない人”は、あることないこと難癖をつけて、人を糾弾し、委縮させ、思いのままに他人を動かそうとします。嫌がらせを繰り返し、脅し、人を意のままに動かす「全能感」を感じています。他者を「支配」したい。それは破滅的な欲求です。そんなこと繰り返していれば、人望を失い、優秀な人から去ってゆきます。待ちかまえているのは「破滅」。

しかし、「破滅」へ突き進もうとも、“他人を攻撃せずにはいられない”。その心理ってなんだ?

やられる側の「全能感」

“他人を攻撃せずにはいられない人”は、攻撃対象が決まっています。

ターゲットになる人は、おとなしく、「他者の欲求」を満たそうとする人です。人を満足させたい、人から評価されたい、認められたいとの願望につけ込まれるのです。

「他者の欲望」を満たそうとする傾向が強いのは、一体どんな人か?(中略)
1 愛情欲求が強く、相手を喜ばせたい、気に入られたいという願望が強い
2 承認欲求が強く、常に周囲から認められたいと望んでいる
3 依存欲求が強く、自立への不安を抱えている
4 不和や葛藤への恐怖が強く、対決や直面をできるだけ避けようとする
5 自分に自信がなく、なかなか断れない
6 いつも他人に合わせてしまうので、自分の意見を言うのは苦手である
7 自分が決め手責任を負うようなことになるよりも、他の誰かに決めてほしい

『他人を攻撃せずにはいられない人』p.161-162

自己の欲求を満たそうと“他人を攻撃せずにはいられない人”と、“他者の欲求を満たしたい被害者”が出会ったとき、攻撃はエスカレートし、破滅するまで止まりません。「自己の欲求を満たしたい人」 × 「他者の欲求を満たしたい人」の間で、ギブアンドテイクが成り立ってしまう悲惨な状態です。

「他者の欲求を満たしたい人」は、〈自分の影響力〉を過信しています。本当は、人を変えられるような大きな力を誰も持っていません。たとえ自分が我慢しようと、誠心誠意接しようと、“他人を攻撃せずにはいられない人”の人間性を変えることなんてできないのです。

なのに、不可能な幻想を持っている人がいる。彼らはが“他人を攻撃せずにはいられない人”にとって“良い鴨”になってしまいます。

もちろん、「他者の欲求を満たしたい欲求」は誰でも持っていて、持っていて当然のものです。大切なのは程度の問題。ですから尚更、見極めるのがややこしい。

起こっているのは「共依存」と同じ?

人を攻撃することで自己の欲求を満たす人。他者の欲求を満たすことで承認欲求が満たされる人。二人が出会ってしまうと、「共依存」のような関係に陥ってしまいます。お互いにとって、自分の欲求を満たすために必要な相手になってしまうのです。

本書内でも、例として家庭内のDVや虐待に触れられていました。アルコール中毒から抜け出せない人は、多くの場合、酒代を提供する出資者がいるそうです。親や配偶者が、言われるがままにお金を出してしまうことで、ますます依存症から抜け出せない、負の連鎖が起こってしまいます。

“他人を攻撃せずにはいられない人”も、ターゲットがそれを許すことで加速してしまいます。負の連鎖を断ち切ることが必要です。

他人を攻撃せずにいられない人に出会ったら

“他人を攻撃せずにはいられない人”からターゲットにされてしまったら、とにかく逃げる!これしかない!

「話せばわかる」「我慢すればいい」「いつか認めてくれる」なんて、幻想でしかありません。誰も、他人の人間性を変えてしまえるような影響力なんて持っていないのです。逃げましょう。

しかし、「逃げる」という行為に後ろめたさを感じる人もいるかもしれません。それは“他人を攻撃せずにはいられない人”は、ターゲットの罪悪感を煽るのが上手いからです。「あなたが逆らうから、夫婦仲が上手くいかないんだ」「お前の作った資料が悪いから失敗したんだ」。どんなことも他人のせいで、「お前が悪い」と責任転嫁をすします。

だけど、そんなの難癖!きっぱりと毅然とした態度を取って構いません。

付け込ませない対策を!

“他人を攻撃せずにはいられない人”、いますよね。そういう人。自分がその攻撃対象にさてはたまりません。その対処法を知るために、まずは“他人を攻撃せずにはいられない人”の特徴と、そして彼らのターゲットになる人の思考を観察する必要があります。

そして、どうやら、彼らのあいだにはなんとも歪なギブアンドテイクが成り立ってしまうという、悲劇が起こっているようです。しかも、その“芽”は誰もが持っています。「承認欲求」はみんなが持っているものですし、あるべきものです。

人の弱みに巧みに付け込む。“他人を攻撃せずにはいられない人”について、知っておくだけでも今後の対処法の幅が広がるように思います。

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他人を攻撃せずにはいられない人

目次情報

第1章 「攻撃欲の強い人とは」

幸せを破壊したい人たち
他人の弱みは蜜の味
自分が痛い目に遭うまで見ぬけない
相手をけなして無価値化する
混乱や不和の種をまく
全てを支配しようとする
白いものを黒と言わせる
夫婦間の嫉妬と支配欲一緒にいると気づく“独特のパターン”
罪悪感を抱かせる達人
被害者面が得意
嫌がらせする真意を見極めて

第2章 どんなふうに壊していくのか

ケース1 息子の夢を打ち砕こうとする父
ケース2 妻の自立を阻もうとする夫
ケース3 有能な部下をのけ者にする上司
仮面をかぶった破壊者を見破る方法
彼らが使う7つの武器
疑おうとしない被害者たち
贈り物で心理的負担を与える
相手が従わないと脅しをかける
都合がいいようにねじ曲げて解釈
自分では手を下さず攻撃する

第3章 なぜ抵抗できなくなるのか

巧妙に罪悪感をかき立てる
罪悪感を押しつけてくる
ターゲットは弱くておとなしい人
抵抗できない側の問題
強い相手を前に縮こまってしまう
自信がない人ほど自分のせいだと思い込む
愛情欲求と拒否される恐怖

第4章 どうしてこんなことをするのか

他人を無価値化して、自分の価値を保つ
自分とは異なる価値観を受け入れられない
自己愛の塊ゆえの行動
傲慢さと傷つきやすさがそうさせる
羨望に突き動かされて
話し合いを拒否してあきらめさせる
心の平安を保つため
支配こそが究極の目標
スッとするために正義を振りかざす
他人のせいにして、万能感を維持する親
恋人を密かに奪うフレネミー
もっとも攻撃欲が強い、無差別殺人の言い訳

第5賞 どんな人が影響を受けるのか

真の意図が見えにくい
強い欲求不満を持たせる
支配された関係の中で感じるアンバランス
攻撃欲の強い人に対する怒りと敵意
「他者の欲望」を満たそうとする人ほど泥沼に
ターゲットにされる側の責任は?
一時的な弱みにつけ込まれる
暗示にかかりやすい人は“鴨”
見せかけの幸福に弱い人もターゲットに
自己防衛が苦手な人も攻撃対象

第6章 処方箋――かわし方、逃げ方、自分の守り方

攻撃欲の強い人だって恐怖を抱いている
弱さを知られていないことが最大の武器
まずは観察をしてみる
根性曲がりにつける薬はない
理解してくれるかもしれないなんて甘い幻想
自分の考え方を変えるしかない
できるだけ避ける
できるだけ話さない
あやふやなままにせず明確になる
やり返すことが必要な場合もある
罪悪感から解き放たれるには

おわりに

片田 珠美(かただ・たまみ)

広島県生まれ。精神科医。京都大学非常勤講師。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了書)取得。パリ第8大学博士課程中退。
精神科医として臨床に携わり、臨床経験もとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析的視点から分析。
『無差別殺人の精神分析』(新潮選書)、『一億総ガキ社会』(光文社新書)、『一億総うつ社会』(ちくま書店)、『正義という名の狂気』(ベスト新書)など著書多数。

コメント

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